○○法ガールになりたい。

○○法ガールといえるほど法学をマスターしたいなと思い作成したブログ。司法試験受験生。最近勉強なんてやめて結婚に逃げたい。

百選起案 民法Ⅱ(第8版) 1~10

百選Ⅱ-1 種類物債権の特定

1 Xとしては、売買契約に基づくYの売買目的物引渡債務の履行不能を理由として、①損害賠償請求(415条)・売買契約の解除等の債務不履行責任の追及、及び、②代金支払いの拒絶を考えられる。

2 ①について

(1) そもそも、売買契約が特定物、不特定物のいずれの売買契約であるかは、売買の目的物の性質、数量等から判断すべきところ、本件売買契約はその目的物を「A会社の製鉄所構内の特定の溜池に貯蔵してあった廃タール全量のうちの一部」としていることからすれば、不特定物の売買契約、とりわけ制限種類物の売買契約であることは明らかである。

ア そこで、本件において、Yが債務不履行の責任を負うかの前提問題として、特定はあったといえるかが問題となる。

イ そもそも特定は、引渡しという債務の履行のために必要な行為を完了した時点で生じるものである(401条2項)。では、本件売買契約においては、「売主たるYにおいて引渡場所を指定し、X漁連がその容器であるドラム缶を該場所に持ち込み、要求した量のタールを受領し、特定の日までに全部を引き取る」との合意がなされており、本件売買契約は、取立債務であるといえるところ、取立債務の場合は、具体的にいかなる行為が必要か。

 旧法下では、種類債権の特定があると、それ以降に目的物が債務者の責めに帰することができない事由によって滅失・損傷したときの対価危険は、債権者が負担するとされていたことからこのような危険の債権者への移転という強力な効果が特定により発生することを考慮し、取り立て債務における特定は厳格に考えるべきであり、従って、特定が生じるには①買主が引き渡しを申し出たときに引き渡しをなし得るよう履行の準備をし、②その旨通知し、口頭の提供をしただけでは足りず、③目的物の分離が必要であると考えるべきとされていた。もっとも、改正民法下では、目的物の滅失損傷に関する危険の移転を特定から切り離し、引き渡しに結び付ける規律を採用し、売買の箇所に明文の規定を置いて、特定された目的物について引渡以後に生じた当事者双方の責めに帰することができない事由による目的物の滅失損傷の危険を買主が負担するものとしている。そこで、①給付危険と対価危険がともに引き渡し時に売り主から買主へと移転するとされたことから、②特定は危険移転の前提として必要ではあるものの危険の移転を特定の効果であるということはできなくなったし、③特定のために分離が必要とされる理由は、もはや危険の移転という観点から正当化することができなくなった。改正前民法下の通説が採用していた理論、すなわち、種類債権の特定には債権者への危険の移転という重大な効果が結び付けられているために特定があったといえるためには分離が必要であるという理論は現行民法のもとではもはや成り立たない。改正法下では、改正後の民法が、債権権法全体を通して契約及び取引上の社会通念に趣旨に照らした契約規範の確定という姿勢を色濃く反映していることに鑑み、特定の有無を判断するにあたり、種類債権の発生原因である個々の契約の内容に即してみたときに特定に結びつけられた効果(所有権の移転、保存義務の軽減、例外的な変更権、危険移転の前提条件の充足)を両当事者に与えるのがふさわしいのは債務者によってどのような行為がされた場合であるのかを探求するのが適切である。そこで、特定の有無は、個物が客観的物理的に分別分離されているかどうかで判断するのではなく、個々の契約の内容に即してみた時に、特定に結びつけられた上記の効果を両当事者に与えるためには当該債権の履行対象の選別としてどこまでのことをすることが(契約により)求められているのかという観点から判断すべきである。

 これを本件について見ると、本件売買契約においては、「X漁連が…ドラム缶を持ち込み、要求した量のタールを受領」することが予定されていたのであって、Yによるタールの分離という行為がおよそ予定されていなかったとみることができるから、①買主が引き渡しを申し出たときに引き渡しをなし得るよう履行の準備をし、②その旨通知し、口頭の提供をしていれば、特定は生じるものと解すべきである。

 そして、本件で、Yは、これをなしている。

ウ よって、本件売買契約においては特定が生じているものといえる。

(2) このように、不特定物売買において特定が生じた場合には、履行不能の問題が生じ得る。すなわち、YはXに売買目的物を売買契約に基づき引渡義務を負っていたところ、この債務の履行が不能となっている。そこで、これを根拠として、損害賠償請求をすることは可能か。

ア Yに免責事由が認められるかが問題となる。引渡債務は結果債務であるところ、この場合、免責事由については、当事者間においてそのような事情から生じるリスクを債務者が引きうけていたかどうかを、契約および取引上の社会通念(415条1項但書)を考慮して、合理的に解釈して判断するべきである。

 本件について見ると、YはXとの間で売買契約を締結し目的物の引渡という結果を債務として引き受けていたのであるから、原則として目的物が滅失した場合のリスクを引き受けていたということができるから、Yは免責されないのが原則である。もっとも、履行不能が債権者の責めに帰すべき事由によるものである場合は、契約及び取引上の社会通念に照らせば、免責を認めてよいと解される。

イ そこで、本件においては、①Xによる受領遅滞中に、②Yの注意義務違反によらず、すなわち、債務者の責めに帰することができない事由による履行不能が生じたとして、その履行不能が、「債権者の責めに帰すべき事由によるもの」とみなされないかが問題となる(413の2第2項)。

(ア) ①について

 ここで、受領遅滞は、a. 「売主が契約の内容に適合する目的物をもって」債務者が当該契約に基づきなすべき行為をすべて行ったにもかかわらず、b, 債権者が必要な協力をせず、受領を拒絶している場合に、成立する。

 本件のような制限種類物を目的物とする売買契約においては、~(本件事案からはあきらかではないが、さほど程度の良くないタールを目的物としていたのではないかと思われる)(以下、そうであると仮定し、検討すると)~そうすると、Yは、契約内容に適合したタールを、買主が引き渡しを申し出たときに引き渡しをなし得るよう履行の準備をし、その旨通知し、口頭の提供をしていたのであるから、債務者としてなすべき行為をすべてなしていたものといえる(493条但書参照、aの要件充足)。それにもかかわらず、Xは、これをドラム缶を持参してとりに行くという必要な協力をせず、受領を拒絶している(bの要件充足)。

 よって、本件においては受領遅滞の要件が満たされる(①)。

(イ) ②について

 本件においては、受領遅滞の効果として、Yの負う本件タールの保存義務は、自己物に対するのと同一の義務に軽減されていたといえるところ、Yが、本件タールを、自己物に対するのと同一の注意義務をもって保存していなかったといえる場合には、債務不履行責任を負うことになる。もっとも。本件売買契約においては、廃タールがその目的物とされているところ、自己物であればこれを保管している溜池に監視員を置かなかったこともやむを得ず、それがゆえにタールが滅失した本件においては、Yに、注意義務違反はなかったといえる(②)。

(ウ) 以上より、Yの、本件売買契約に基づく引渡債務の履行不能は、「債権者」であるXの「責めに帰すべき事由によるもの」とみなされる(413の2第2項)。

ウ よって、Yには免責事由が認められると考えるべきであり、履行不能を理由とする損害賠償請求は認められない。

(3) そして、このように、受領遅滞中の履行不能が「債権者」であるXの「責めに帰すべき事由によるもの」とみなされる場合、「債権者」であるYの側から、売買契約を解除することはできない(543条)。

3 ②について

 さらに、受領遅滞中の履行不能が、「債権者の責めに帰すべき事由によるもの」とみなされる場合には(413の2第2項)、Yは、代金の支払いを「拒むことができな」い(536条2項)ことになる。

 

百選Ⅱ-2 公務員に対する国の安全配慮義務

1 Aの両親であるXらは、Aが国に対して有していた債務不履行に基づく損害賠償請求権を相続(889条1項1号)したとして、Yに対しこれを請求することはできるか(415条1項)。

2 Aは公務員であって、Aと国の間には雇用契約関係が存在していたところ、雇用契約上の報酬支払債務(623条)に不履行があったということはできない。

 しかし、一定の契約関係に基づき特別の社会接触の関係に入った当事者は、当該法律関係の付随義務として相手方に対して信義則上の義務を負うことがあるというべきである。それゆえ、雇用関係やこれと同等の実質的な労務関係にある当事者のうち、使用者側は、報酬支払い義務にとどまらず、人的(選任・教育;道交法条の義務違反はこの範囲内)物的設備を編成し、雇用者として合理的な注意を尽くすという、従業員の生命及び健康等を危険から保護するための義務を負うことになる(安全配慮義務)。このことは、雇用者が国である場合も異なることはない。 雇用契約関係、もしくはそれに類似の契約関係にあれば「一定の契約関係」に基づく「安全配慮義務違反」を負うことになるとするのが判例であると解される。

 本件においては、上記のとおりAと国の間には雇用契約関係が生じていたといえる。そうであれば、国は、上記のような安全配慮義務を負っていたといえるところ、具体的には、本件のような事故が起こり得ないような物的設備を整えるか、或いは十分な指導・教育を行き届かせる等の義務を負っていたといえる。それにもかかわらず、本件において、国は、この(いずれかの)義務に違反しており、債務不履行があるといえる。

3 そして、本件においては、これ「によって」Aの死の結果が生じ、逸失利益の「損害」や精神的損害等の「損害」が生じている。そして、上記義務は手段債務であるところ、およそ免責はされ得ない。

4 それゆえ、国は、Aに対して、この「損害」を賠償する義務を負うことになる。

5 よって、Aが取得したこの損害賠償請求権を相続したXらは、国に対して、これを行使することができる。

 

百選Ⅱ―3 契約交渉破棄における責任

1 Xは、Yによる売買契約締結の拒否が契約準備段階における信義則上の注意義務に違反することを理由に、Yに対して、不法行為(709条)に基づく損害賠償請求をすることはできるか。

2 契約を締結するか否かは原則自由である(契約自由の原則)ことからすれば、一旦交渉に入ったとしても、なお、契約の締結を拒むことは許されるはずであり、これによって、不法行為が成立するというのは原則として妥当ではない。もっとも、契約準備段階にある当事者は、信義則(1条2項)の支配する緊密な関係に入るのであって、一旦交渉に入った以上、相互に相手方の人格・財産を害しない信義則上の義務を負うと言うべきである。そして、その者に何らかの信義則上の義務が発生しているといえるか、いえるとして具体的にどのような注意義務が発生しているといえるかは、①交渉の成熟性や、②相手方の期待の有無及びその相当性、③②についての本人の因果性等の事情から判断すべきである。

 本件においては、Xによる契約締結の拒否の表明は、契約の最終段階に行われている(①)。このような状況下では、Yが、Xと契約が締結されるのは確実なものであると期待を抱いていてもやむを得ないと言うべきであって(②)、しかも、その期待は、Yからの問い合わせによってXが電気容量を変更し出費料を売買代金に上乗せするとの申出にYが特に異議をとどめなかったことに基づく(③)。そうであれば、このような状況下でYは、信義則上、Xの上記期待を保護するべく契約を締結するとまではいかなくとも、Xの損害を最小限に抑えるために合理的な注意を払う義務を負っていたといえる。

3 それにもかかわらず、Yは契約の最終段階に至ってから初めて契約を締結しない旨の表明をしているのであるから、上記義務に違反しているといえ、よって、「過失」に基づくXの期待権という権利利益の侵害行為の存在が認められる。そして、これ「によって」、Xは、電気容量変更にかかった費用やこれをもとに戻すための費用等の「損害」を被っているのであるから、Yは、この損害を賠償する義務を負うことになる。

4 よって、Xの請求は認められる。 ※ →412条の2第2項チェック

 

百選Ⅱ-4 契約締結にかかる説明義務違反

1 Xは、Yに対して、契約締結の前段階におけるYの説明義務違反を根拠に、不法行為に基づく損害賠償請求をすることが考えられるが、これは認められるか。

2 自己責任の観点からは、契約締結の判断及びその基礎となる資料の収集は、自らが行うべきであって、相手方に情報提供の義務を課すのは原則として妥当ではない。もっとも、当事者間の情報量の差いかんによっては、情報が提供されないことで自己責任の前提となる自己決定権が侵害となることもありうる。そこで、このような場合には、信義則の支配する緊密な関係に入った契約準備段階にある者は例外的に、その相手方に対し、契約を締結するか否かの決定をする上で重要な情報を相手方に提供すべき信義則上の義務を負うことがあるいうべきである。そして、この義務の存在が肯定されるか、されたとして具体的にいかなる義務が発生しているかは、①両者の情報量の格差、②問題となる情報の重要性、③その者の先行行為及びその違法性、④責任等から判断する。

 本件においては、自らが危機的な地位にあると自覚していたYとは異なり、Xは信用協組合の組合員であったとはいえその内情や世情については明るくなく、両者の間には構造的な情報量・知識・経験等の格差があったといえる(①)。そうであれば、Yは、融資を受ける者として、自らがその勧誘をした以上(③)、自己に不利な事情であっても、本件のような重要な事項を(②)、Xに説明する義務があったといえる。

3 それにもかかわらず、Yはこれを怠り、そのリスクを説明することなくXに融資契約をさせているのであるから、上記義務に違反しているといえる。よって、本件においては、少なくとも「過失」に基づく、Yによる、Xの自己決定権という権利利益の侵害行為の存在が認められる。

 さらに、これ「によって」、Xは出資金の払い戻しを受けられなくなっており、Xにはその分の「損害」が生じているといえる。

4 よって、YはXに対してこの損害を賠償する義務を負うから、Xの上記請求は認められる。

 

百選Ⅱ―5 履行補助者の行為についての債務者の責任

1 Y1に対する請求

(1) Xは、Y1に対して、用法遵守義務違反(616条、594条)及び賃貸目的物の返還義務違反を理由とする債務不履行に基づく損害賠償請求をすることはできるか(415条1項本文)。

(2) 本件において、XらはY1に対し、本件船舶を賃貸(601条)している。賃貸借契約における賃借人は、賃貸人の承諾がなければこれを転貸することができない(612条1項)ところ、本件においては、XらはY2への転貸に同意しているから、このことをもってY1に債務不履行があったということはできない。

 もっとも、賃借人は、①用法を遵守して目的物を使用し(616条、594条)、②賃貸借契約終了後にその目的物を返還する義務(601条)を負うところ、本件においても当然Y1はこの義務を負っていたといえるから、これらの義務違反(債務不履行)があったと言えるかが問題となる。

ア ②について

 本件において賃貸借契約の目的物たる船舶は滅失しており、Y1は、②の債務を履行できなくなっている。それゆえ、これ「によって」生じた、本件船舶の履行不能当時の価格から上記転売代金を控除した額分の「損害」を、Y1は賠償する義務を負うのが原則である。

 もっとも、この不履行は、転借人であるY2の従業員の過失に起因するものであるから、「債務者の責に帰することができない事由によるものである」として、Y1は免責されるのではないか(415条1項但書)。免責事由については、当事者間においてそのような事情から生じるリスクを債務者が引きうけていたかどうかを、契約および取引上の社会通念(415条1項但書)を考慮して、合理的に解釈して判断するべきである。

 本件について見ると、確かに、一般に、転貸借がなされた場合において、賃借人は転借人の独自の責任関係(613条参照)を形成するのに加担した限りにおいて、すなわち、賃貸借契約上の自らの義務違反についてのみそのリスクを負担しているものと考えるべきである。しかし、本件においては、Y1はいわばY2を担保するためにXとY2の間に入り、賃貸人となっているのであるから、このようなリスクも当然に引き受けていたということができる。よって、Y1は免責されない。

イ ①について

 また、Y1に用法遵守義務違反があったかも問題となるが、このような手段債務につき不履行があったか否かの判断にあたっては、第三者の行為が債務の履行過程に組み込まれ、債務者の負担する行為の具体的内容となっているかが問題となる。本件においては、上記のような事情に鑑みれば、転借人であるY2の行為はY1の負う用法遵守義務という債務の履行過程に組み込まれていたといえる上記の通り、一般に、転貸借がなされた場合において、賃借人は転借人の独自の責任関係(613条参照)を形成するのに加担した限りにおいて、すなわち、賃貸借契約上の自らの注意義務についてのみそれを債務として負担するものと解すべきであるが、本件においては上記のとおりであるから、用法遵守義務にも違反があったということができる。

 そして、このような手段債務に不履行があった場合には、理論的に免責はされえない。

(3) よって、Y1は、これらの債務不履行「によって」生じた本件船舶の滅失時の価値相当額から転売利益を引いた額分の「損害」を賠償する義務を負うため、Xらの上記請求は認められる。

2 Y2に対する請求

(1) では、XらのY2に対する用法遵守義務違反を前提とする賃貸目的物の返還義務の不履行を理由とする債務不履行に基づく損害賠償請求は認められるか。

(2) Y2も、Xらに対して目的物の返還義務(613条参照)を負っていたと解されるところ、この義務の履行が不能となっている。また、Y2は従業員を使用する以上、従業員の過失についてもそのリスクを負担することが債務の内容となっていたと言えるから、これにつき免責事由は見受けられない。

 さらに、用法遵守義務違反についても同様、従業員の過失についてもY2の負担する債務の具体的内容となっていたといえる。そうであれば、この義務違反の存在も見受けられる。そして、この義務は手段債務であるから免責はあり得ない。

(3) よって、Y2は、これらの債務不履行「によって」生じた本件船舶の滅失時の価値相当額から転売利益を引いた額分の「損害」を賠償する義務を負うため、XのY2に対する損害賠償請求も、Y1に対するのと同様、認められるというべきである。

 

百選Ⅱ-6 賃貸人修繕義務不履行と賃借人の損害回避減少措置

1 Xの、Y1に対する、履行遅滞に基づく損害賠償請求権(415条1項本文)としての営業利益喪失等による損害賠償請求は認められるか。

(1) まず、「賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う」(606条1項本文)ところ、本件ビル地下1階にあった排水用ポンプの制御系統の不良又は一時的な故障が原因となって汚水が噴き出すなどし、本件店舗部分が床上30〜500mまで浸水していることからすれば、Y1はこれを「修繕する義務を負う」ことになる。それにもかかわらず、Y1はこれを行っていないから、「債務の本旨に従った履行をしない」(同項本文)といえる。

(2) また、Y1は故意に修繕義務を怠っていると考えられ、Y1の損害賠償責任を免じることは相当とはいえないから、「その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものである」(115条1項ただし書)とは認められない。

(3) さらに、かかる債務不履行に「よって」、Xには、営業利益喪失等の「損害」(415条1項本文)が発生している。

 もっとも、確かに、損害賠償請求が契約の拘束力ゆえに認められることからすれば、債務者の債務不履行がなければ債権者が有していたであろう仮定的利益状態と、債務不履行により債権者に生じている現実の利益状態における差額が「損害」として認められるべきであるが、民法416条は、賠償すべき損害の範囲を、事実的因果関係のある損害すべてではなく、相当といえる範囲に限定している。そのうえで、通常生ずべき損害については予見可能性を問題とすることなく相当因果関係がある損害として当然に賠償請求を認める趣旨である一方(同条1項)、債務不履行時に当事者に予見可能性が認められる場合に限り例外的に特別事情に基づき生じた損害についても賠償責任を認めたものであると解されるところ、事業用店舗の賃借人が、賃貸人の債務不履行により当該店舗で営業することができなくなった場合には、これにより賃借人に生じた営業利益喪失の損害は、当該債務不履行から発生することが社会通念上相当と認められるから、「通常生ずべき損害」に含まれると解すべきである。

(4) よって、Xの上記請求は認められるのが原則である。

2 もっとも、一般に、契約関係という密接な関係に入った当事者は、互いに、相手方において無用の損害を生じさせることがないよう、信義に従い誠実に行動すべきである(1条2項)。そのため、債務者が債務の本旨に従って履行をなすべきことはもちろんであるが、ひとたび債務不履行があった場合、債権者としても、いたずらに借務者からの履行に固執して損害の拡大を招かないよう、可能であれば、元の債務者との契約を解除するとともに、同等の給付をなし得る他の相手を探すなどの合理的な措置をとることにより、損害の拡大の防止に努めるべきである。

 したがって、①債務者が本来の履行を行うことが不能ではないにしても著しく困難である一方、②債権者において代替措置を講じることが比較的容易であるなど、③条理上、損害の拡大に関して債権者にリスクを負わせるのが相当と解される事情がある場合には、損害賠償の範囲が軽減されるべきである。すなわち、債権者が損害軽減措置を怠ったがゆえに拡大した分の損害については、「通常生ずべき損害」とはいえず、その範囲から外れると考えるべきである。

 本件においては、Y1が本件修繕義務を履行したとしても、老朽化して大規模な改修を必要としていた本件ビルにおいて、Xが本件賃貸借契約をそのまま長期にわたって継続し得たとは必ずしも考え難い。また、本件事故から約1年7か月を経過した時点では本件店舗部分における営業の再開は、いつ実現できるか分からない実現可能性の乏しいものとなっていたと解される(①)。他方、Xが本件店舗部分で行っていたカラオケ店の営業は、件店舗部分以外の場所では行うことができないものとは考えられないし(②)、Xは、本件事故によるカラオケセット等の損傷に対し、合計3711万6616円の保険金の支払を受けているというのであり、これによって、Xは、再びカラオケセット等を整備するのに必要な資金の少なくとも相当部分を取得したものと解されることも併せ考えれば、条理上、損害の拡大に関して債権者にリスクを負わせるのが相当と解される事情があるといえる(③)。

 以上に鑑みれば、少なくとも、○○の時点以降の損害については、債権者が損害軽減措置を怠ったがゆえに生じた損害というべきであり、「通常生ずべき損害」とはいえないというべきであり、その範囲から外すべきである。

3 よって、Xの請求は、○○の時点以前に生じた営業利益喪失等の「損害」の限度で認められる。

 

百選Ⅱ-7 民法416条2項の予見時期

1 Xは、Yに対して、履行遅滞を理由とする(415条1項本文)マッチ136箱の時価相当額の損害賠償を請求することが考えられるところ、これは認められるか。

2(1) まず、Yは、207箱のマッチの売買契約に基づき、当該「財産権を相手方に移転する」義務(555条)としてXに対してマッチ207箱を引渡す義務を負っていたところ、Yはそのうち136箱を引き渡していないため、「債務の本旨に従った履行をしない」(415条1項本文)といえる。

 また、Yは故意にマッチ136箱の引渡義務を怠っており、Yの損害賠償責任を免じることは相当とはいえないから、「その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものである」(同条1項ただし書)とは認められない。

 さらに、かかる債務不展行に「よって」、Xにマッチ136箱の時価相当額の「損害」(415条1項本文)が発生している。

(2) もっとも、本件では、マッチの価格が約15%から27%騰貴したという事情がある。そこで、上記「損害」が損害賠償の範囲(416条)に含まれるか、「通常生ずぺき損害」(同条1項)、「特別の事情によって生じた損害」(同条2項)の意義が問題となる。

 ここで、損害賠償請求が契約の拘束力ゆえに認められることからすれば、債務者の債務不履行がなければ債権者が有していたであろう仮定的利益状態と、債務不履行により債権者に生じている現実の利益状態における差額が「損害」として認められるべきである。もっとも、民法416条は、賠償すべき損害の範囲を、事実的因果関係のある損害すべてではなく、相当といえる範囲に限定している。そのうえで、通常生ずべき損害については予見可能性を問題とすることなく相当因果関係がある損害として当然に賠償請求を認める趣旨である一方(同条1項)、債務不履行時に当事者に予見可能性が認められる場合に限り例外的に特別事情に基づき生じた損害についても賠償責任を認めたものであると解される。そして、この判断は債務者が債権者にどのような損害を賠償するのが公平妥当かという見地からなされるべきものである。それゆえ、本件のように、履行拒絶という債務不履行時に損害賠償債権が発生している場合は、その時点での目的物の交換価値が通常損害として填補賠償額となるのは勿論、(もともと債務者としては履行期に履行をしなければならなかったのだから、)その後の履行期における目的物の交換価値についても、特に予見可能性を必要とせずに通常損害として填補賠償を認めるべきである。

 他方で、その後の口頭弁論終結時までの価格の変動については、特別事情に基づく損害と捉え、「当事者」、すなわち債務者の予見可能性の有無によってそれが相当因果関係の枠内にあると言えるかを判断するべきである。なお、この場合、契約によって約束された利益は保障されるべきであるとの観点、公平な損害リスクの配分という観点から、予見可能性の有無は、履行期までを基準として判断すべきである。

 これを本件について見ると、Yは、履行期以前に、既に原料が暴騰しマッチの価格も高騰することを熟知していたから、「当事者が…予見すべきであった」といえる。そうすると、当該債務不履行から高騰したマッチの時価相当額の「損害」も相当因果関係内の「損害」といえるため、「特別の事情によって生じた損害」として、損害賠償の範囲に含まれると解すべきである。

(3) 以上に鑑みれば、本件においては、履行期における目的物の交換価値を基準とした「損害」に加え、その後口頭弁論終結時までに増加した分の「損害」についても、Yは賠償する義務を負うことになる。

3 よって、Xの請求は、上記範囲(具体的には「事実の概要」からはわからない)で認められる。

 

百選Ⅱ-8 契約解除した場合の損害額算定時機

1 XのYに対する債務不履行に基づく損害賠償請求は認められるか。

2 本件においては、XY間で下駄材を目的物とする売買契約が締結されているにもかかわらず、Yがこの引き渡しを拒絶している。それゆえ、「債務を履行しない」場合に当たる。また、Xは履行の催告をしているにもかかわらず、履行がないまま相当期間が経過している。また、目的物が引き渡されない場合には、この不履行が「軽微である」とはいえない。よって、Xは本件売買契約を解除することができる(541条)。そして、このような場合には、併せて損害賠償請求をすることが可能である(415条1項本文)。本件においては上記の通り、Yは「債務を履行しない」でいることから、Xは、これ「によって」生じた履行に代わる填補賠償(415条2項3号)その他の「損害」を賠償させることができる。

 もっとも、本件においては、下駄材の価格が変動していることから、いつを基準としていかなる範囲までを填補賠償の額に含めるかが問題となる。

 民法416条は、賠償すべき損害の額を、相当といえる範囲に限定しているものと解される。そのうえで、通常生ずべき損害については予見可能性を問題とすることなく相当因果関係がある損害として当然に賠償請求を認める趣旨である一方(同条1項)、債務不履行時に当事者に予見可能性が認められる場合に限り例外的に特別事情に基づき生じた損害についても賠償責任を認めたものであると解される。そして、この判断は債務者が債権者にどのような損害を賠償するのが公平妥当かという見地からなされるべきものである。それゆえ、本件のように、解除によりその時点で填補賠償請求権が発生したような場合は、その時点での目的物の交換価値が通常損害として賠償額となるというべきである。他方、その後の口頭弁論終結時までの価格の変動については、特別事情に基づく損害と捉え、債務不履行時の予見可能性の有無によってそれが相当因果関係の枠内にあると言えるかを判断するべきである。

 本件における解除時の下足材の価格は9万円であって、そこから売買代金2万5千円を差し引いた6万5千が逸失利益であり、この額を通常損害として、Xは予見可能性を抜きにして請求できるというべきである。また、その後の口頭弁論終結時まで投機した価格分については、特別事情に基づく損害であるとして、Yに債務不履行時に予見可能性があった場合には請求することができるところ、本件においてはこれは明らかではない。

3 よって、本件においてXは少なくとも上記通常損害6万5千円と、既に支払った内金1万7500円の返還を請求することができ(121条の2)、かつ、その後口頭弁論終結時まで騰貴した価格についても、Yに予見可能性があったといえる場合には、請求することができる。

 

百選Ⅱ-9 履行不能の場合の損害算定時期

1 Xは、Yに対して、甲乙の引渡債務及び所有権移転債務の履行が不能になったことを理由にこれに代わる損害賠償(415条2項1号)を請求することはできるか。

2 XY間では、甲乙を目的物とする売買契約が締結されており、Yはこれに基づき甲乙の所有権をXに移転しこれを引き渡す債務を負っていたにもかかわらず、YがこれをBに二重譲渡し登記を得させることによって、履行不能にならしめている。それゆえ、「債務の履行が不能であるとき」にあたり、Xは、Yに、これに代わる損害賠償を請求することができる。

 もっとも、本件においては、甲乙の価格が高騰している。そこで、いつを基準としたいかなる額までを填補賠償の範囲に含めるべきかが問題となる。

3 これについて、民法416条は、賠償すべき範囲を、相当といえる範囲に限定しているものと解される。そのうえで、通常生ずべき損害については予見可能性を問題とすることなく相当因果関係がある損害として当然に賠償請求を認める趣旨である一方(同条1項)、債務不履行時に当事者に予見可能性が認められる場合に限り例外的に特別事情に基づき生じた損害についても賠償責任を認めたものであると解される。そして、この判断は債務者が債権者にどのような損害を賠償するのが公平妥当かという見地からなされるべきものである。それゆえ、本件のように、履行不能により填補賠償請求権が発生した場合は、その時点での目的物の交換価値が通常損害として填補賠償額となるというべきであって、さらに、履行拒絶が履行期前になされているところ、もともと債務者としては履行期に履行をしなければならなかったのだから、履行期における目的物の交換価値についても、特に予見可能性を必要とせずに通常損害として填補賠償を認めるべきである。他方で、上記の通り、債権者に認められるべき仮定的地位と現実の地位との差が「損害」であるから、その後の口頭弁論終結時までの価格の変動については、特別事情に基づく損害と捉え、「当事者」、すなわち、債務者の履行期までの予見可能性の有無によってそれが相当因果関係の枠内にあると言えるかを判断するべきである。

 本件においては、債務不履行に夜理店舗賠償請求権が発生した時点での甲乙の価格は300万円程度であって、この額をXは、予見可能性を抜きにして請求することができる。また、本件においては明らかではないが、その後の口頭弁論終結時まで高騰した分については、特別事情に基づく損害であるから、Yの債務不履行時の予見可能性次第では、請求することができると言うべきである。

4 よって、Xは少なくとも300万円をYに対して請求することができ、かつ、Yの債務不履行時の予見可能性次第では、その後の高騰分の損害の賠償も請求することができるというべきである。

 

百選Ⅱ―10 代償請求権

1 XのYに対する敷金返還請求権等は如何なる限度で認められるか。Yとしては、YがXに対して有する賃料債権及び損害賠償請求権、代償請求権との相殺を主張しているため問題となる。

2 履行不能が生じたのと同一の原因によって、債務者が目的物の代償といえる利益を取得した場合は、公平の観念に基づき(536条2項参照)、債権者は被った損害の限度でその利益の償還を請求できるとされている(422条の2)。※ 代償請求権の行使を選ぶのであれば、危険負担の問題にならない(履行請求権が代償請求権に代わるので、危険負担ではなくなる)。

 本件家屋滅失による保険金は保険契約によって発生したものであるところ、この保険金は履行不能を生じたと同一の原因によって発生し、目的物に代わるものであることは明らかである。

  よって、Yは被った損害の限度で代償請求権を有している。

3 そして、相殺が認められるには、①同一当事者間に互いに対立する債権が存在し、②両債権が同種の目的であり、③両債権の弁済期が到来していること、のすべてを満たして相殺適状(506条2項)にある場合に、④両債権を対当額で相殺する旨の意思表示(506条1項前段)をすることにより、相殺適状時にさかのぼって効力を生ずる(506条2項)ところ、本件においては、Xは a. 敷金返還請求権等といった金銭債権、Yは b. 賃料債権及び c. 損害賠償請求権、 d. 代償請求権といった金銭債権を互いに有しており、①②の要件を満たす。また、a,b,c,dの弁済期はそれぞれ、a. 賃貸借契約が終了しかつ賃借人が建物の明け渡しを完了したとき、b. 特約がない限り毎月月末、c. 成立時、d. 成立時であるところ、このいずれもが到来している(③)。また、Yは、口頭弁論において相殺の意思表示をしている(④)。

4 よって、Xの請求は、Y主張の賃料債権額、損害賠償請求権額、代償請求権額を控除した額につき、認められる。