○○法ガールになりたい。

○○法ガールといえるほど法学をマスターしたいなと思い作成したブログ。司法試験受験生。最近勉強なんてやめて結婚に逃げたい。

百選起案 民法Ⅰ(第8版) 21~30

百選Ⅰ―21 民法94条1項の類推適用

1 XのYに対する所有権移転登記の抹消登記手続請求は認められるか。

(1) Xの請求が認められるためには、Xに所有権が帰属してなければならない。

(2) 本問においてYは、XB間で甲・丙の売買契約があったことを前提に、Bから甲・丙を買い受けているが、XB間の売買契約は実際には不存在であるため、甲・丙の所有権はいまだXに留保されており、Bは甲・丙につき、無権利者である。

 そのため、無権利者Bから甲・丙を買い受けたYには、甲・丙の所有権が帰属しないのが原則である。

(3) よって、Xの請求は認められるとも思える。

2 しかし、Yは、B名義の登記という所有権がBに帰属することを示す外観を信じて甲・丙をBから買い受けている。そこで、民法94条2項によってYは保護されないか。

(1)  同項の直接適用のための要件は、虚偽の外観、外観の作出についての通謀及び第三者の善意であるところ、本問においてXB間には事前の通謀がない以上、94条2項を直接適用することはできない。

(2) もっとも、94条2項を類推適用することによって、Yは保護されるのではないか。

 そもそも94条2項の趣旨は、通謀という重い帰責性に基づき虚偽の外観を作出した本人の犠牲の下、その外観を信頼して取引に入った善意の第三者を保護することにある。

 そうであれば、XB間に通謀がなくとも、事後の明示または黙示の承認の事実があったと認められるような場合など、通謀があったものと同視することができるほどの重い帰責性が表意者に認められる場合には、94条2項の類推適用があるというべきである。

(3) では、本問においてはどうか。

ア 確かにXは、BがXに無断で虚偽の外観を作出したことを事後的に知りつつ、金銭的な問題を理由に放置しているものの、これを明示に承諾していたわけではない。

イ しかし、本件においてXは、B名義のまま、自らのCに対する借金を担保するために根抵当権を設定している。これは、Bに所有権の外観があることを前提とした行為に他ならず、Xは黙示にBが作出した虚偽の外観を存続させることを承諾していたといえる。

ウ よって、Yには、事後の黙示の承認の事実があったといえるため、94条2項を類推適用することによって、「善意」の「第三者」を保護することが可能である。

エ そして、ここでいう「第三者」とは、当事者以外の者で表示の目的につき、新たに利害関係を有するに至った者をいうところ、本問のYは、虚偽表示の当事者でなく、かつ、表示の目的である甲及び丙をBから購入したのであり虚偽の外観を前提として新たに利害関係を有するに至ったといえるから、94条2項の類推適用における「第三者」である。それゆえ、Yが善意である場合には、Yは同条項類推適用によって保護される。なお、通謀と同視できる帰責性が認められる同条項単独の類推適用の場面においては、表意者の帰責性が極めて大きいから、第三者の保護要件善意で足り、無過失は不要というべきである。

(4) 以上より、XのYに対する所有権移転登記の抹消登記手続請求は認められない。

 

百選Ⅰ-22 民法94条1項・110条の類推適用

1  XのYに対する所有権移転登記の抹消登記手続請求は認められるか。

(1) Xの請求が認められるためには、Xに所有権が帰属していなければならない。

(2) 本問においてYは、XA間に甲の売買契約があったことを前提に、Aから甲を買い受けているが、Xには甲をAに売渡す意思はなく、XA間の売買契約は不存在であるから、甲の所有権はいまだXに留保されており、Aは甲の所有権を有さない無権利者である。

(3) そのため、無権利者Aから甲を買い受けたYには、甲の所有権が帰属しないのが原則である。

2 もっとも、本件においてYは、①XからAへ与えられた甲の賃貸・管理という事務についての権限に、②Xの過失が相まって作出された不実の外形を信頼して取引に入っている。そこで、110条や、94条2項によってYを保護することはできないか。

(1) 本問において、AはXの代理人としてではなく、売買契約の当事者としてYと契約に及んでいるため、110条を直接適用することはできない。

 また、Xは、XA売買という虚偽の外観を認識すらしておらず、虚偽の外観の作出について通謀どころか、事後的に明示または黙示に承諾していたともいえないため、94条2項を適用することも、これを単独で類推適用することもできない。

(2) しかし、Aが虚偽の登記という権限外の行為をすることができたのは、Aに使途を確認しないまま軽率に実印や印鑑登録証明書を提供したり、不実のXA間の売渡証書に内容も確認せず署名し登記申込書にAがXの実印を用いて押印するのを漫然と見ていたという、Xの甚だしい過失に起因する。とすると、このような事態は、Aが、Xから与えられた甲の賃貸・管理という事務についての権限を踰越した点で、「代理人がその権限外の行為をした場合」にそれを信頼して取引に入った第三者を保護する110条の適用場面と状況が類似するとともに、虚偽の外観の作出・継続について本人の帰責性があるときに第三者を保護する94条2項とも利益状況が類似する。

 そこで、このような場合には、94条2項、110条をあわせて類推適用することにより、第三者を保護することが可能であると解する。

(3) そして、ここでいう「第三者」とは、当事者及びその包括承継人以外の者で、虚偽表示に基づいて新たにその当事者から独立した利益を有する法律関係に至ったために、虚偽表示の有効・無効について法律上の利害関係を有するに至った者をいうところ、Yはまさにこれに当たる。

 また、この場合、第三者の主観的保護要件として、善意無過失が要求されるものと解される。Xはやはり虚偽の外観を承諾どころか認識すらしていなかったのであり、110条適用の本来的場面と同様、通謀虚偽表示(94条)の場合に比してXの帰責性は小さいといえるからである。本問では、Yは甲を買い受けるにあたって登記簿の記載を確認しているのであるから、Aの不実の登記を疑うような事情がない限り、Yは善意無過失であったことが推定される。そして本件ではこれを覆すに足りる事実はない。それゆえ、Yは、「善意」であるといえる

(4) よって、Aは94条2項、110条類推適用に保護される結果、本問におけるXの請求は認められないものと解される。

 

+応用

民法の基礎(第4版)』Case30(法意適用型) Aは、知人Bから、個人名義の不動産を持っていないと取引先からの信用を得られないので名義だけでも貸してほしいと頼まれた。そこで、所有する甲土地につき売買予約を仮装して、所有権移転請求権保全の仮登記手続をした。ところが、その後、BがAの委任状を偽造して、勝手に本登記に改める手続きをしてしまった。さらにその後、Bが甲土地をCに譲渡する契約を締結した。

1 AのCに対する所有権移転登記の抹消登記手続請求は認められるか。

(1) Aの請求が認められるためには、Xに所有権が帰属していなければならない。

(2) 本問においてCは、AB間に甲の売買契約があったことを前提に、Aから甲を買い受けているが、Aには甲をBに売渡す意思はなく、AB間の売買契約は不存在であるから、甲の所有権はいまだAに留保されており、Bは甲の所有権を有さない無権利者である。

そのため、無権利者Bから甲を買い受けたCには、甲の所有権が帰属しないのが原則である。

(3) よって、Aの請求は認められるとも思える。

2 もっとも、A自身の積極的関与に起因するCはB所有という虚偽の外観を信頼して甲をBから買い受けている。そのため、94条2項によってCを保護することができるのではないか。

(1) まず、同項の直接適用のための要件は、虚偽の外観、外観の作出についての通謀及び第三者の善意であるところ、本問においてXB間には事前の通謀がない以上、94条2項を直接適用することはできない。

(2) では、94条2項を類推適用することはできないか。

そもそも94条2項の趣旨は、虚偽の外観を信頼して取引に入った第三者を、通謀という重い帰責性の認められる本人の犠牲の下、保護することにあるのだから、XA間に通謀がなくとも、事後的な明示または黙示の承諾があったといえるような場合など、通謀があったのと同視できるような帰責性がXにあるような場合には、94条2項の類推の基礎があると解する。

 しかし、本問における虚偽の外観は、Aの積極的関与に加え、Bがその外形をさらに発展させたことによって作出されている。すなわち、A一人の帰責に基づくものではない。そのため、Aの帰責性は相対的に低いといえるため、通謀という本人の重い帰責事由を理由に第三者を保護することを想定している94条2項を単独で類推適用することによって、Cを保護することはできない。

(3) もっとも、BがAに与えられた不実の外形を権限なく発展させた行為は、110条のいう「代理人がその権限外の行為をした場合」に類似している。

 そこで、94条2項に加え、110条が援用されて、両条の法意を併せ考えることにより、Cを保護することができると解する。

(4) そして、ここでいう「第三者」とは、当事者及びその包括承継人以外の者で、虚偽表示に基づいて新たにその当事者から独立した利益を有する法律関係に至ったために、虚偽表示の有効・無効について法律上の利害関係を有するに至った者をいうところ、Cはまさにこれに当たる。

 この場合、第三者の主観的保護要件はいかに解すべきかが問題となるも、善意無過失であると解する。Aは自ら積極的に不実の外形作出に関与しているが、それを超えるBが作出した虚偽の外観については承諾も認識もしていないのであるから、110条適用の本来的場面と同様、通謀虚偽表示の場合に比してXの帰責性は小さいといえるからである。

(5) よって、本問において、Cが善意無過失であれば、Cは保護され、Aの請求は認められないと解する。

 

整理

  • 百選21;通謀はなかったけど、虚偽の外観を認識していて、かつ、黙示的にそれを承諾していたといえる事例
  • 百選22;通謀はなかったし、黙示の承諾もなかったが、所有者が何らかの権限を与えており、かつ、所有者の著しい過失によりそれが利用され虚偽の外観が作出された事例
  • Case30;自ら作出した外観が、自らの知らぬところで発展させられ利用された事例

 

百選Ⅰ-23 詐欺における善意の第三者の登記の必要性

1 Xの、所有権に基づく妨害排除請求権としての、Yに対する5筆の土地についての所有権移転登記抹消登記請求と、1筆についての付記登記の抹消登記手続請求は、認められるか。

(1) Xの請求が認められるためには、これらの土地の所有権が、Xに帰属している必要がある。

 確かに、本問においてXはBと売買契約を締結しているためこれらの土地の所有権はもはやXにはないのではないかとも思える。しかし、この売買契約は詐欺によってなされたものであり、96条1項により取り消され、遡及的に無効となっている(121条本文)。

 そうであれば、Bは、当初から無権利者であったことになり、Bから土地を買い受けたYにはその所有権はおよそ帰属しえない。

 以上より、土地の所有権は、依然Xにあるままである。

 それゆえ、Xの請求は認められるのが原則である。

(2) とはいえ、Yは、96条3項にいう「善意でかつ過失のない」「第三者」に当たり、上記取消の意思表示を、対抗することができないのではないか。

 そもそも、96条3項の趣旨は、取消の遡及効によって不利益を被る第三者を保護し、もって取引の安全を図ることにある。そうだとすれば、同条項の「第三者」とは、取消の遡及効によって不利益を被る第三者、すなわち、詐欺による意思表示取消前に新たに独立した法律上の利害関係を有するに至った者をいうと解すべきである。本件において、Yは、Xの詐欺による意思表示の取消前に、新たに本件土地につきBとの間で契約を締結し、独立した法律上の利害関係を有するに至っているから、96条3項にいう「第三者」にあたる。また、本件において、Yは、XA間の売買契約に取消事由があることを知らなかったというのであるから、「善意」である。以上より、Yが無過失であった場合には、Xは、 上記取消の意思表示を、Yに対抗することができない。

 なお、本人とこの取消前の「第三者」は、契約の遡及的無効(121条本文)により復帰的物権変動が観念できない以上、前主後主の関係に立つにすぎず、対抗関係に立たないので、Yが対抗要件としての登記を備えることは不要である。また、被詐欺者にも落ち度があるうえ、第三者には主観的要件として無過失まで要求されていることに鑑みれば、第三者に権利保護要件としての登記も不要であると考える。 

(3) よって、Xの上記請求は認められない。 

  • もっとも、判例は、取消後の第三者対抗要件としての登記を要するとしており、唐突に遡及効を否定して復帰的物権変動を観念している。これを(なるべく)矛盾なく説明するためにはどうすればよいか?
  • 無効を擬制遡及効を徹底した121条は、取り消すことができる行為の当事者間の関係を律するために設けられたものであり、第三者との関係に当然には及ばない。これについて、判例は、取消前の第三者との関係では遡及効が及ぶことを確認している(そのため、遡及効があることを前提に、第三者を保護すべく規定を設けている。判例対抗要件としての登記を要求していないのは、復帰的物権変動を観念することができないから=遡及効が及ぶからこそである)。
  • では、どのような場合に第三者との関係で遡及効は及ばなくなるか。即ち、どのような場合に復帰的物権変動を観念し、対抗問題として処理することが妥当であるといえるか。これについて、判例は、取消後の第三者との関係では、遡及効は及ばなくなるとしているものと考えられる。この場合、121条による無効の擬制は177条によって制限されることになる。この場合、取消後の第三者は悪意者であっても背信的悪意者でない限り保護されることになるが、その根拠は、本人に登記懈怠が観念できる点にある。
  • 解除前の第三者対抗要件としての登記を要求している(判例)→なぜなら、545条1項は、「原状に復させる義務を負う」としているだけなので(cf取消(121条))、解除による遡及的消滅は否定される結果として、復帰的物権変動を観念できるからである。
  • すなわち、→復帰的物権変動があるのは、解除前も解除後も同じため、解除前・後を問わず、「第三者」には対抗要件としての登記が必要となる。→545条1項但書は注意的規定にすぎない、とすることが可能。
  • また、解除による遡及効を同様否定し、解除前・後問わず復帰的物権変動を観念することができるとしたうえで、解除前の第三者に権利保護要件としての登記を要求する、とすることも可能。→545条1項但書は、解除前の第三者との関係では、物権上の効果が生じるのを否定することで、解除前の第三者の取引の安全を図るための規定である。そのため、解除前の第三者対抗要件までは必要なく、権利保護要件があれば足りるとする。
  • 判例や学説を整理してみると、解除の遡及効は否定される(あるいは当事者間では原状回復義務があることを根拠に遡及効は認められるが第三者との関係ではこれが否定される)と考えざるを得ない。
  • 遡及効を否定する場合、545条1項但書のいう「第三者」とはだれを指すかについての論証で、「遡及効からの保護」を理由に「解除前の第三者」であると導くのが困難になるのではないかと思われるのが悩みどころ。そのため、端的に、545条1項但書の言う「第三者」には、当事者及びその包括承継人以外で契約後に独立した利害関係を有するに至った者とすればよいのではないか?

 

百選Ⅰ-24 動機(法律行為の基礎とした事情)についての錯誤

1 Xは、Yに対して保証契約に基づく保証債務の履行請求をすることが考えられるが、この請求は認められるか。

2 これについては、Yは、Xとの間で、AがXに対して負う貸金返還債務を保証する旨、契約しているため、認められるのが原則である。

3 そこで、Yは、主債務者Aが反社会的勢力であることを知らずに本件各保証契約を締結したとしてその錯誤取消し(95条)を主張することが考えられる。

(1) まず、Yは、Aが反社会的勢力でないことを前提として保証契約を締結しているが、実際には、Aは反社会的勢力であったのであるから、Yの「意思表示」は、「法律行為の基礎とした事情」についての「錯誤」(95条1項2号)に基づくものであったということができる。

(2) 次に、「法律行為の基礎とした事情」が、「表示されていた」(同条2項)ものというためには、単に法律行為の基礎とした事情が表示されていただけでは足りず、法律行為の基礎とした事情に関する表意者の認識が相手方に示され、相手方に了解されて法律行為の内容となっていたことが必要と解される。なぜなら、法律行為の基礎事情について誤りがあった場合の責任は本来表意者に負わせるべきであり、この責任を相手方に法律行為の取消しという形で引き受けさせるためには、相手方の同意が必要であると考えられるところ、上記のような場合には、その同意があったとみてよいためである。そして、法律行為の基礎とした事情が法律行為の内容とされたか否かは、当事者の意思解釈によって決せられる。

 そもそも保証契約は、主債務者がその債務を履行しない場合に保証人が保証債務を履行することを内容とするものであり、主債務者が誰であるかは同契約の内容である保証債務の一要素となるものであるが、主債務者が反社会的勢力でないことはその主債務者に関する事情の一つにすぎないのであって、これが当然に同契約の内容となっているということはできない。そして、Xは融資を、Yは信用保証を行うことをそれぞれ業とする法人であるから、主債務者が反社会的勢力であることが事後的に判明する場合が生じ得ることを想定でき、その場合にYが保証債務を履行しないこととするのであれば、その旨をあらかじめ定めるなどの対応を探ることも可能であった。それにもかかわらず本件基本契約及び本件各保証契約等にその場合の取扱いについての定めが置かれていないことからすると、主債務者が反社会的勢力でないということについては、この点に誤認があったことが事後的に判明した場合に本件各保証契約の効力を否定することまでをX及びYの双方が前提としていたとはいえない。また、保証契約が締結され融資が実行された後に初めて主債務者が反社会的勢力であることが判明した場合には、既に上記主債務者が融資金を取得している以上、両者間の保証契約の効力が当然に否定されるべきものともいえない。

 そうすると、Aが反社会的勢力でないという法律行為の基礎とした事情に関するYの認識がXに示され、Xに了解されて法律行為の内容となっていたとは認められないから、「その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていた」とはいえない。

(3) したがって、Yの主張は認められない。

3 よって、上記Xの請求は認められる。

 

注1) 最判平元.9.14及び最判平14.7.11も参照。

注2) 「その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものである」(95条1項柱書)とは、その点について錯誤がなかったならば表意者は意思表示をしなかったであろうし(主観的因果性)、一般人もそのような意思表示をしなかったであろう(客観的重要性)と認められることをいう(大判大3.12.15参照)。

   ▽

 ここ、大事なので、以下、法律行為の基礎とされた事情が表示されていたという要件を満たすことを前提に、続けていきます。 

 

(3) さらに、上記「錯誤」が、「法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものである」といえるためには、そのような「錯誤」がなかったならば表意者が意思表示をしなかったであろうことに加え、一般人もそのような意思表示をしなかったであろうと認められる必要がある。

 そこで見るに、信用保証協会は、反社会的勢力を排除する社会的責任を負っているのであるから、表意者であるYは、A社が 暴力団員が経営している会社だと知っていたら、保証契約を締結する意思表示をしなかったものと考えられる。また、表意者であるYと同じ立場の一般人も、そのような意思表示はしなかったものといえる。

 それゆえ、Yの「錯誤」は、「法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものである」といえる。

 よって、Yが、錯誤取消の意思表示をした場合には、錯誤取消の主張は認められる

(4) ここで、Xとしては、錯誤が表意者の重大な過失によるものであったこと(95条3項)を主張して、Yの錯誤取消は認められない旨、主張することが考えられる。もっとも、XやYといったプロを以てしても、A社の経営者が暴力団員であったことは見抜けなかったのであり、A社の経営者が暴力団員であったことは警視庁の捜査を以てして初めて発覚したくらいであるから、Yには、錯誤につき重大な過失があったとは言えない。

 また、仮に、Yに重大な過失があったとしても、その意思表示の相手方であるXも、表意者Yと同一の錯誤に陥っていたのであるから、結局、Yの錯誤取消の主張は認められるというべきである。

(5) よって、上記Xの請求は認められないことになる。

 

百選Ⅰ-25 意思表示の到達

1 XのYに対する遺留分減殺請求は認められるか。

2 遺留分減殺請求は、①遺留分が侵害された場合に、②遺留分保全するのに必要な範囲で、③遺留分を侵害された遺留分権利者及びその承継人が、することができる。

 被相続人であるAの相続人は、X1、X2、Yの3人であったところ、X1、X2の遺留分は、相続財産×1/6(1/3×1/2)であったにもかかわらず、Y一人が相続財産全ての遺贈を受けることで、X1、X2はこれを侵害されている(①)。それゆえ、被侵害者であるX1、X2は(③)、相続財産×1/6の限度で(②)、遺留分減殺請求権を行使することができるはずである。

3 もっとも、遺留分減殺請求権は、1年の消滅時効期間内に行使しなければならないところ、現在においてこの期間は経過している。そこで、まず、X1、X2としては、自身らが代理人弁護士Bをして、消滅時効期間が経過する前に、遺産分割協議の申入れを行ったことをもって、遺留分減殺請求権を行使する意思表示があったということができないかが問題となる。

(1) 遺留分減殺請求権は形成権であり、これを行使すれば遺贈は(遺留分を侵害する限度で)失効して当然に遺留分権利者に帰属するという効果が生じることになる。他方、遺産分割協議の申入れは形成権の行使ではなく物権的な効果も認められていないので、遺留分減殺請求と遺産分割協議の申入れとは法的な性格が異なる。そうであれば、遺留分減殺請求は形成権の行使であるだけに明確な意思表示が要求されるべきである。したがって、遺産分割協議の申入れに当然に遺留分減殺の意思表示が含まれているとは言えない。

 もっとも、例外的に、被相続人の全財産が相続人の一部の者に遺贈された場合には、遺贈を受けなかった相続人が遺産の配分を求めるためには遺留分減殺をしなければならないのであるから、遺留分権利者が遺産分割協議の申入れをしたときには遺留分減殺の意思表示が含まれていると解釈すべきである。

(2) 本件は、まさにこのような場合に当たる。

(3) よって、本件においては消滅時効期間経過前に、遺留分減殺請求権が行使されていたものといえそうである。

4 また、X1、X2としては、遺留分減殺請求権を行使する意思表示を、代理人弁護士Bをして、消滅時効期間内に送ったことを主張することが考えられる。他方、Yとしては、自身はその内容証明郵便を受領していないとを主張して、X1、X2の上記意思表示は認められないと反論することが考えられる。そこで、遺留分減殺請求権を行使する意思表示が、Yに到達していたといえるかが問題となる。

(1) 意思表示が到達したと認められるためには、その意思表示を現実に了知することができる状態に置くことを要する。具体的には、意思表示の書面がそれらの者の支配圏内に置かれることを以て足りるものと解される。

(2) 「事実関係によれば、Yは、不在配達通知書の記載により、B弁護士から書留郵便(本件内容証明郵便)が送付されたことを知り」、「その内容が本件遺産分割に関するものではないかと推測していたというのであり、さらに、この間弁護士を訪れて遺留分減殺について説明を受けていた等の事情が存することを考慮すると、Yとしては、本件内容証明郵便の内容が遺留分減殺の意思表示又は少なくともこれを含む遺産分割協議の申入れであることを十分に推知することができたというべきである」。 ※ 主観

 また、Yは、本件当時、「長期間の不在、その他郵便物を受領し得ない客観的状況にあったものではなく、その主張するように仕事で多忙であったとしても、受領の意思があれば、郵便物の受取方法を指定することによって……さしたる労力、困難を伴うことなく本件内容証明郵便を受領することができたものということができる」。 ※ 客観

(3) 「そうすると、本件内容証明郵便の内容である遺留分減殺の意思表示は、社会通念上、……遅くとも留置期間が満了した時点で」「Yの了知可能な状態に置かれ」ていたものということができ、よって、その時点で、「Yに到達したものと認めるのが相当である。」

5 よって、XのYに対する上記請求は認められるものと解される。

 

百選Ⅰ-26 代理権の濫用

1 Xは、Yに対して、売買契約に基づき、売買代金154万8000円の支払請求をすることが考えられる。

2 この請求が認められるためには、Aがした本件売買契約の効果が、Yに帰属していることが必要である。

 Aは、Yの製菓原料仕入主任という「事業に関するある種類又は特定の事項の委任を受けた使用人」にあたり、「当該事項に関する一切の裁判外の行為をする権限を有」していた(会社法14条1項)。そのため、Aには、本件売買契約を締結する代理権をYから付与されていたといえ、また、Aは、その「権限内…の意思表示」(99条1項)をしたものといえる。

 また、Aは本件売買契約の締結をYの名をもって行っており「本人のためにすることを示してした」(同項)と認められる。

 したがって、「本人」たるY「に対して直接にその効力を生ずる」(同項)のが原則であり、Xの請求は認められるのが原則である。

2 これに対して、Yは、本件売貿契約は、代理権の濫用にあたり、「代理権を有しない者がした行為とみな」される(107条)から、XY間に効果帰属しないと主張することが考えられる。

(1) 本件売買契約の目的物である練乳は、Yの店舗を通さずに、B社の手配によりB社に直接納入され、その代金は、B社振出の小切手にAがYのゴム印を用いてYの名で裏書を行いこの小切手をXに交付することで支払っていた。このような取引の経緯に加え、Aが本件取引を上司に報告することもなく、帳簿にも記載していないことなどからすれば、Aは、取引された商品を他に転売してその利益を横領する意図をもっていたと認められる。したがって、「代理人」たるAは、「自己…の利益を図る目的で代理権の範囲内の行為をした」(同条)といえる。

(2) また、本件取引をめぐってXの帳簿が操作されていた形跡があり、Xの支配人Cが本件取引を通常の取引と別個のものとして取り扱っていたことがうかがわれるため、「相手方」たるXは、「その目的を知」っていた(同条)といえる。 

 (3) したがって、本件売買契約は、代理権の艦用にあたり、「代理権を有しない者がした行為とみな」される(107条)から、例外的に、その効果はYに帰属しない。

3 よって、Xの請求は認められないことになる。 

  •  108条2項と107条の違い:利益相反行為とは、ある行為をしようとしたとき、それが一方の利益になると同時に、他方への不利益になる場合における「ある行為」であるところ、この利益相反行為に該当するかどうかは、代理行為自体を外形的・客観的に考察して判断する(最大判昭和42年4月18日民集21巻3号671頁等参照)。

⇒ 例;たとえば、AがBの代理人として(Bから不動産の運用一切を任されているとして)、AのCからの借入金債務について、本人B所有の不動産上に抵当権を設定する契約を、Cとの間で締結する行為は、たとえAがこの借入金をBのために用いる場合であっても、利益相反行為にあたる。 他方、AがBの代理人として、Bの借入金債務についてB所有の不動産上に抵当権を設定する契約を、金融機関である債権者Cと締結する行為は、たとえAがこの借入金をA自らのために着服する意図がある場合であっても、利益相反行為には当たらないことになる。が、代理権濫用には該当する可能性がある。 

  • だから、答案等では、①利益相反行為→②代理権の濫用の順番で検討することになるのではないかと考える。 

 

百選Ⅰ-27 白紙委任状と代理権授与表示

1 XのYに対する、本件不動産上の根抵当権の不存在確認請求、及び、代物弁済契約上の権利の不存在確認請求、さらには、根抵当権設定登記・仮登記の抹消登記請求は認められるか。

 Xとしては、根抵当権設定契約及び代物弁済契約は不存在であることを主張することが考えられるが、他方、Yとしては、上記契約は代理人と称するBによって締結されたものであるとして、上記契約は、①有権代理人Bにより締結されたがゆえに有効、或いは無権代理人Bにより締結されたものであったとしても109条の適用により有効となる、主張することが考えられる。

 では、これは認められるか。

2(1) ①について

 確かに、Bは、Xからの白紙委任状を所特していたが、かかる委任状は、本件不動産上の抵当権設定登記手続のためにAに交付されたものであって、Yは、Bに上記契約を締結する「権限」(99条1項)を与えていなかったというのであるから、Bの行為は、無権代理行為(113条1項)であるといえる。

 それゆえ、本件交換契約が「本人」たるX「に対して直接にその効力を生ずる」(同項)ことはないのが原則である。そして、本件では、本人たるYがBの無権代理行為を追認したとの事情はない。よって、本件山林交換契約の効果は、113条1項によっては、Yに帰属しないことになりそうである。

 (2) ②について

 もっとも、表見代理(109条1項)が成立し、本件山林交換契約のYへの効果帰属が認められないか。

ア まず、上記白紙委任状により、「第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した」(同項。以下「代理権投与表示」という。)と認められるかが問題となる。

イ 代理権授与表示を要件とした同項の趣旨は、代理権を与えていないにもかかわらずそのように第三者に表示した本人においては、第三者保護のための十分な帰責性が認められ、本人保護の要請が低くなる点にある。すなわち、同項の趣旨は、本人と第三者の利益衡量のための規定であるといえる。そこで、①輾転流通することを予定していない白紙委任状の転得者が、②代理人欄や相手方欄を濫用するにとどまらず、委任事項欄をも顕著に濫用したといえるような場合には、「代理権授与表示があった」ということはできず、109条を適用することはできないものと考えるべきである。

 これを本件について見ると、本件白紙委任状は、輾転流通することは予定されていなかったものといえる(①)。そして、確かに、本件においては、「不動産所有者がその所有不動産の所有権移転、抵当権設定等の登記手続に必要な権利証、白紙委任状、印鑑証明書を特定人に交付し」ているものの、本人が本件不動産上に抵当権設定登記手続を代理人にさせるために白紙委任状を作成交付したにもかかわらず、「書類中の委任状の受任者名義が白地であるからといって……さらに交付を受けた第三者がこれを濫用」し、「不動産所有者の代理人として他の第三者と不動産処分に関する契約を締結し」ているのであるから、委任事項欄の濫用は、顕著であるといえる(②)。

ウ それゆえ、本件においては、代理権授与表示があったというべきではない。本人は、このような「場合にまで民法109条(1項)に該当するものとして、濫用者による契約の効果を甘受しなければならないものではない」のである。

3 よって、Yの反論は認められず、Xの請求が認められることになる。

 

百選Ⅰ-28 外形信頼と民法109条等の法理

1 Xの東京地裁に対する、Xと厚生部との間で締結された売買契約に基づく代金債権の支払い請求は認められるか。

2 確かに、東京地裁は厚生部に売買契約等を締結する代理権の授与表示をしていたものとみることはできない。それ故、東京地裁が109条1項により上記責任を負うということはできない。

 もっとも、厚生部はその一部局でないというのであるが、外部的には東京地裁そのものであり、東京地裁は、その名義と部屋を使用させ、現職の職員を配置し、用紙、庁印の使用を黙認していたのであるから、民法109条1項の類推適用により、厚生部の取引について責任を負うべきであると主張することが考えられる。では、これは認められるか。

(1) 「およそ、一般に、他人に自己の名称、商号等の使用を許し、もしくはその者が自己のために取引する権限ある旨を表示し、もってその他人のする取引が自己の取引なるかの如く見える外形を作り出した者は、……民法109条1項、商法14条等の法理に照らし」、「この外形を信頼して取引した第三者に対し、自ら責に任ずべきであ」る。

 それゆえ、このような場合には、民法109条を類推適用しうる。

(2) 本件では、「厚生事業や厚生施設の拡充」という「社会情勢」を背景に、「一般に官庁の部局をあらわす文字である『部』と名付けられ、裁判所庁舎の一部を使用し、現職の職員が事務を執っている『厚生部』というものが存在するときは、一般人は法令によりそのような部局が定められたもと考えるのがむしろ当然であるから、『厚生部』は、東京地方裁判所の一部局としての表示力を有する」。とりわけ、「事務局総務課に厚生係がおかれ、これと同部室において、同じ職員によって事務の処理がなされている場合に、厚生係は裁判所の一部局であるが、『厚生部』はこれと異なり、裁判所とは関係のないものであると一般人をして認識せしめることは、到底難きを強いるものであって、取引の相手方としては、部と云おうが係と云おうが、これを同一のものと観るに相違なく、これを咎めることはできない」。

 したがって、「東京地方裁判所当局が、『厚生部』の事業の継続処理を認めた以上これにより、東京地方裁判所は、『厚生部』のする取引が自己の取引なるかの如く見える外形を作り出したものと認めるべきであり、若し、『厚生部』の取引の相手方であるXが善意無過失でその外形に信頼したものとすれば、同裁判所はXに対し本件取引につき自ら責に任ずべきものと解するのが相当である」。

  • 確かに、「公務員の権限は、法令によって定められているのであり、国民はこれを知る義務を負うものであるから、表見代理等の法規を類推適用して官庁自体の責を問うべき余地はない」とも思える。しかし、「官庁といえども経済活動をしないわけではなく、そして、右の法理は、取引の安全のために善意の相手方を保護しようとするものであるから、官庁のなす経済活動の範囲においては、善意の相手方を保護すべき必要は、一般の経済取引の場合と少しも異なるところはないといわなければならず(※現に当裁判所においても、村長の借入金受領行為につき、民法110条の類推適用を認めた判例が存するのである)、……本件取引につき自らの取引なるかの如き外形を作り出したものと認め」、上記法理を妥当させるべきである。

(3) そこで、「Xが……善意無過失であった」かについて見る。

 これについては、「多くは、裁判用紙と庁印が取引で用いられることはなく、かつ、多量の服地を東京地裁が必要とすることはないから、Xには『少くとも過失があった』」者と考えられる(百選解説より)。

3 よって、XのYに対する上記請求は認められない。

  •  もっとも、Xとしては、東京地裁に対して、709条に基づき、損害賠償請求をし、同時に、国に対してもこの責任追及をすることが考えられる。

 東京地裁が漫然と厚生部の行為を放置していた以上、東京地裁は、少なくとも「過失」によって、Xの財産権という権利を「侵害」したものといえる。そして、これに「よって」、Xには売買代金を得ることができなくなったという「損害」が生じているといえるから、Xのこの請求は認められることになろう。もっとも、Xにも上記の通り過失があった以上、過失相殺(民722条2項)により、認容額は減額されるものと考える。

  •  なお、これを否定する立場アリ(百選解説参照)

 

百選Ⅰ-29 民法110条の基本代理権

1 XのYに対する保証債務の履行請求権は認められるか。

 この請求が認められるためには、Sの債務をYが保証する旨の契約が(書面によって)なされていたことが必要であるところ、本件においてSはYを代理して上記契約を締結したものの、実際にYはSに対してそのような代理権を与えておらず、Sは無権代理人であったというのであるから、上記契約は無効であり、上記請求は認められないのが原則である。

2 もっとも、例外的に、110条の表見代理の規定が適用されることにより、Yは上記保証契約に基づく責任を負うことになるのではないか。

 そこで、110条は、Sに基本代理権(109条1項)があったことを前提とするものであるところ、Sにこれがあったといえるかが問題となる。

(1) 本件においては、SにはYから貸付業の勧誘行為の代理権が与えられていた。

(2) もっとも、「勧誘それ自体は…事実行為であって法律行為ではないのであるから、他に特段の事由の認められないかぎり、(この)事実をもって直ちに…SがYを代理する権限を有していたものということはできない」。

(3) そこで、特段の事由があるか否かを検討するに・・・(判例は述べていない)

3 よって、上記請求は認められない。

 

百選Ⅰ-30 民法110条の正当理由の判断

1 Xは、Yに対して、根保証契約に基づき、本件根保証債務の履行請求をすることが考えられる。

 そして、Xの請求が認められるためには、BX間で締結された本件根保証契約がXY間に効果帰属することを要するところ、本件根保証契約を締結したBは、Aが社員寮を借りるにあたってYが保証人となる件についてYから代理権を付与されていたにすぎない者であり、本件根保証契約を締結する「権限」は与えられていなかったというのであるから、本件根保証契約が「本人」たるY「に対して直接にその効力を生ずる」(99条1項)ことはないというのが原則である。

2 もっとも、表見代理(110条)が成立しないか。

(1) 上記のとおり、Bは、が社員寮を借りるにあたってYが保証人となる件についてYから代理権を付与されていたから、一定の「権限」(同条)があったものと認められる。また、本件根保証契約の縮結は、その「権限外の行為」(同条)といえる。

(2) では、「代理人の権限があると信ずべき正当な理由がある」(同条)といえるか。その意義及び判断方法が問題となる。

ア 「正当な理由」の要件は、代理権に対する相手方の正当な信頼があったことを意味するから、代理権の存在についての善意・無過失と同義であると解する。そして、その判断に当たっては、取引の内容、取引の主体、取引の方法等の諸般の事情を総合的に考感すべきである。

イ 確かに、Bは、根保証約定書の連帯保証人欄にYの実印を押印し、印鑑証明書を添えてX方へ持参しているところ、印艦証明書が日常取引においで実印による行為について行為者の意思確認の手段として重要な機能を果たしていることは否定することができず、Xとしては、Yの保証意思の確認のため印鑑証明書を徴した以上は、特段の事情なき限り、代理権があると信じたことついて過失はないというべきである。

 しかし、XがBに対して本件根保証契約の締結を要求したのは、Aとの取引開始後日が浅いうえ、Aが代金の決済条件に違約をしたため、取引の継続に不安を感ずるに至ったからであること、Xは当初Bに対し、同人及び同人の実父に連帯保証をするよう要求したのに、Bから「父親とは喧嘩をしていて保証人になってくれないが、自分の妻の父親が保証人になる」との申し入れがあって、これを了承した(なお、YはBの妻の父ではなく、妻の伯父にすぎない)という経緯があること、Yの代理人として本件根保証契約締結の衝にあたったBは、当該契約によって利益を受けることとなるAの代表取締役であることなど、Xにとって本件根保証契約の締結におけるBの行為等について疑間を抱いて然るべき事情が存在する。

 また、このことに、本件根保証契約については保証期間も保証限度額も定められておらず、連帯保証人の責任が比較的重いことが推認されたことも併せて考えれば、Yみずからが本件約定書に記名押印をするのを現認したわけでもないXとしては、単にBが持参したYの印鑑証明書を徴しただけでは、本件約定書がYみずからの意思に基づいて作成され、ひいて本件根保証契約の緒結がYの意思に基づくものであると信ずるには足りない特段の事情があるというべきである。

 そうすると、さらにY本人に直接照会するなど可能な手段によってその保証意思の存否を確認すべきであったのであり、かような手段を講ずることなく、たやすく上記のように信じたとしても、代理権があると信じたことについて過失がないということはできないといわざるをえない。

ウ とすれば、Xには、「代理人の権限があると信ずべき正当な理由がある」とは認められない。

(3) したがって、表見代理は成立しない。

3 よって、Xの請求は認められない。