○○法ガールになりたい。

○○法ガールといえるほど法学をマスターしたいなと思い作成したブログ。司法試験受験生。最近勉強なんてやめて結婚に逃げたい。

百選・Law Practice会社法 起案 13~24

13 株式の相続と訴訟の承継  最高裁昭和 45 7 月 15 日大法廷判決

【事実の概要】 AはY会社に対して、会社解散請求の訴え(会社法 833 条 2 項)、社員総会決議取消しの訴え(会社法 831 条)、社員総会決議無効確認の訴え(会社法 830 条 2 項)を提起していた。訴訟係属後、Aが死亡したため、相続人であるXがAの地位を承継したものとして本訴を遂行した。

【問題の所在】 相続人は、共益権を相続し、被相続人の提起した訴訟の原告たる地位を承継することができるか。共益権は一身専属的性質を有しているとも思えるため問題となる。

【規範】 共益権は、自益権の価値の実現を保障するために認められたものであり、社員自身の利益のために与えられた権利であるから、自益権と密接不可分の関係において、全体として社員の法律上の地位として包含されているというべきであり、相続により相続人が被相続人のこの法律上の地位を包括的に承継した場合(民法896条)、相続人は、持分の取得により社員たる地位にともなう自益権や共益権はもとより、被相続人の提起した訴訟の原告たる地位も承継する。

  • Cf.譲渡のような特定承継の場合は否定される。

 

14 議決権行使阻止工作と利益供与  最高裁平成 18 4 月 10 日第二小法廷判決

【事実の概要】 B は Z 社の代表取締役であり、著名なグリーンメーラーであった。A社はミシン等の製造販売を目的とする株式会社であり、東証一部上場企業である。B は Z社を通じて、A 社の株式を買い集めて大株主となり、A 社の取締役として選任された。本件では、A社の株主であるXがA社の代表取締役であるY1、Y2 に対して株主代表訴訟(会社法 847 条)を提起した事案である。Xは、B によって脅迫されたY1 及びY2 が、金員の交付や債務の肩代わり・担保提供の各行為をしたことで、A社が 939 億円の損害を被ったとして、取締役として関与したYらに対して、忠実義務、善管注意義務違反の責任、及び利益供与の禁止規定に違反した責任があると主張した。

【問題の所在】 いわゆる仕手筋として知られる B が大量に取得したA社の株式を暴力団の関連会社に売却するなどとA社の取締役であるYらを脅迫した場合において、B  の要求に応じて巨額の金員を提供することを提案し又はこれに同意したYらの忠実義務、善管注意義務違反が問われた行為について、「過失」を認めることができるか。また、会社から見て好ましくないと判断される株主が議決権等の株主の権利を行使することを回避する目的で当該株主から株式を譲り受けるための対価を何人かに供与する行為は、「株主の権利の行使に関し」(会社法 120 条 1 項)利益を供与する行為といえるか。

【結論】 Cの言動に対して警察に届け出るなどの適切な対応をすることが期待できないような状況にあったということはできない事情の下では、やむを得なかったものとしてその過失(=帰責事由)を否定することはできない。また、株式の譲渡は株主の地位の移転にすぎないため、原則として、「株主の権利の行使に関し」にあたらないと考えるべきである。もっとも、現在の株主または将来の株主の議決権等の株主権の行使を回避する目的でなされる場合には、株主の権利行使の公正が害されるため、「株主の権利の行使に関し」にあたると解する。

⇒  A 社は、B が保有していた大量の A 社株を暴力団の関連会社に売却したという B の言を信じ、暴力団関係者が A 社の大株主として A 社の経営等に干渉する事態となることを恐れ、これを回避する目的で、上記会社から株式の買戻しを受けるため、約 300 億円というおよそ正当化できない巨額の金員を、迂回融資の形式を取って B に供与している。したがって、A 社の行った利益の供与は、現在の株主または将来の株主の議決権等の株主権の行使を回避する目的でなされる場合といえ、「株主の権利の行使に関し」にあたる。また、善管注意義務違反・忠実義務違反について、本件の状況は警察に届けでるなどの適切な対応をすることが期待できないような状況ではないとして、Y らの帰責事由を認定した。

 

  • 任務懈怠と過失の関係

 428条1項が「任務を怠ったこと」と区別して、「責めに帰することができない事由によるものであること」との規定を設けていることからも明らかなように、会社法は、任務懈怠と帰責事由とを、別要件のものとして区別しているといえる。

もっとも、注意義務違反という手段債務に不履行があった場合には、免責は理論的にあり得ないはずである。そこで、法令違反としての任務懈怠(結果債務的なもの)と善管注意義務違反としての任務懈怠(手段債務)で分け、法令違反なら免責がありうるため検討、善管注意義務違反なら免責はあり得ないため「帰責事由」も当然あると一言書く程度にとどめることとする。

 

Law Practice11  利益供与

1 小問(1)について

(1) Y1 は、A 社株主 Z が負う 10 億円の債務を肩代わりすることと引き換えに会社提案に賛成することを依頼し、実際にY1により、Zの債務の肩代わりが行われている。これは「株主の権利の行使に関し、財産上の利益の供与」である(120条 1 項)。

(2) もっとも、これにより本件決議は「内容が法令に違反する」(830条 2 項)とはいえず、「決議の方法が法令…に違反」する(831 条 1 項 1 号)といえるにとどまる。

(3) したがって、A 社「株主」である X は、株主総会決議取消しの訴えにより本件決議の効力を争うことができる。なお、この違法は「重大」であるし、Zに対する利益供与がなければ会社提案の通りの本件決議はされなかった可能性があるから「決議に影響を及ぼさないもの」とはいえず、裁判所はこれを裁量棄却することはできない(831 条 2 項)。

2   小問(2)

(1) A 社「株主」X は、株主代表訴訟(847 条 1 項)により、120 条 3 項前段に基づく Z の A 社に対する 50 億円の返還と、同条 4 項本文に基づく Y1の A社に対する 50 億円の支払い請求を求めることができるのではないか。

(2) 120条1項該当性

ア 「株主の権利…の行使に関」する「財産上の利益の供与」(120 条 1 項)利益供与を禁止した同項の趣旨は、株主権の行使を経営陣に都合のよいように操作する目的で会社財産が浪費されることを防止し、会社経営の公正性・健全性を確保する点にある。そうだとすれば、株式譲渡は株主たる地位の移転であり、それ自体は株主の権利の行使とはいえないが、会社から見て好ましくないと判断される株主が株主権を行使することを回避する目的で、当該株主から株式を譲り受けるための対価を何人かに供与する行為は、「株主の権利…の行使に関」する「財産上の利益の供与」に当たるものと解すべきである。

イ 本件において、Y1は暴力団に譲渡された A 社株式を Z が譲り受けるための対価として Z に対して 50 億円を提供している。これは暴力団から Z への株式譲渡は株主たる地位の移転である。しかし、これは A 社から見て好ましくないと判断される株主(暴力団)が株主権を行使することを回避する目的で、暴力団から A 社株式を譲り受けるための対価を Z に供与する行為といえる。

ウ したがって、本件利益供与は、「株主の権利‥の行使に関」する「財産上の利益の供与」に当たる。

(3) Z の責任

 そうである以上、Z は、本件「利益の供与を受けた者」(120 条 3 項前段)に当たるところ、A 社へ 50 億円を返還する責任を負うことになる。

(4) Y1の責任

 また、Y1は、本件「利益の供与をすることに関与した取締役」(同条 4 項本文、規則 21 条 1 号)のうち、「当該利益の供与をした取締役」(同項ただし書かっこ書)に当たるため、A 社へ 50 億円を支払う無過失責任を負うことになる。

 

事例で考える会社法18

第1 設問(1)について

1 甲会社の取締役である B は、総会屋である P との間で『M&A 時代』10 部を 1 年間購読する契約を締結し、購読料として 100 万円を支払っている。そこで、B のこのような行為が 120 条 1 項の利益供与にあたるとして、120 条 4 項本文の責任を負わないかが問題となる。

2(1) 「会社又は子会社の計算において」

 まず、利益供与は、「会社又は子会社の計算において」なされることを要するところ、本件では、B名義で B の自費で 100 万円を支払っている。したがって、「会社又は子会社の計算において」にはあたらず、B は 120 条 4 項の責任を負わないのが原則である。もっとも、当該費用を、甲会社に役員報酬の上澄み等を通じて甲会社から補填してもらっている等の事情がある場合には、最終的に会社に経済的効果が帰属しているということができるため、「会社又は子会社の計算において」に該当する。

(2) 「財産上の利益の供与」

 次に、Bの行為が「財産上の利益の供与」にあたるかが問題となるところ、「財産上の利益の供与」には、対価として給付されるものの財産的価値が、会社が交付したものと釣り合わない場合も含まれると解する。本件についてみると、『M&A  時代』は全く価値のないものであったことから、対価として給付されるものの財産的価値が、会社が交付したものと釣り合わないということができる。よって、B の行為は、「財産上の利益の供与」にあたる。

(3) 「株主の権利の行使に関し」

 ここに、「株主の権利の行使に関し」とは、権利の行使に対する対価の交付だけでなく、特定の行為ないし発言をしないという権利の不行使に対する対価の交付も含まれると解する。そして、不行使に関して利益を供与するという主観的認識があれば利益供与と株主の権利行使との間には関連性が認められるものと解すべきである。

本件について見ると、甲会社は次の株主総会で取締役にCを選任しようとしていたところ、P と Cには、飲み屋で酩酊した際に、1000 万円のトラブルがあった。P は電話で、『M&A 時代』の購読を勧めるのと同時に、「C  は取締役に相応しい奴とちゃうで」と申し入れていること、さらには、このようなP とのやり取りは、株主総会の基準日である 3 月中旬に行われていることを合せて考えると、『M&A時代』の購読を断れば、株主総会で C が取締役に選任されるのを妨害される可能性があったということができる。そうすると、B は、このような事態を避けるために、『M&A 時代』の購読を申し込んだと考えられ、よって、本件では、会社側に権利の不行使に関して利益を供与するという主観的認識があったということができる。

 よって、「株主の権利の行使に関し」にあたる。

3 結論

 以上より、B の行為が「会社又は子会社の計算において」なされたといえる場合には、B は 120 条 4項本文、会社法施行規則 21 条 1 号に基づいて、100 万円の返還義務を負う。他方、A はこの利益供与には関与していないため、善管注意義務違反による損害賠償責任(423条 1 項、330 条、民法 644 条)を負う可能性があることは格別、120 条 4 項本文の責任は負わない。

第2 設問(2)について

1 甲会社の代表取締役である A は、Q がコマッタ商事に株式を売却することを防ぐために、市場よりも2倍の価格を Q に支払っている。そこで、A のこのような行為が 120 条 1 項の利益供与にあたるとして、120 条 4 項本文の責任を負わないかが問題となる。

2(1)「会社又は子会社の計算において」

 A は、甲社に乙社へ 100 億円の融資をさせ、さらに、乙社を代表して Q に 100 億円を無担保・無保証で融資している。したがって、当該 100 億円は甲社の計算においてなされたといえるため、「会社又は子会社の計算において」にあたる。

(2)「財産上の利益の供与」

 次に、甲社株式 5%の時価は、50 億円であったのに対し、その 2 倍もの価格である 100 億円を Q に支払っており、対価として給付されるものの財産的価値が、会社が交付したものと釣り合わないということができるので、「財産上の利益の供与」にあたる。

(3) 「株主の権利の行使に関し」

ア  A は Q がコマッタ商事に甲社の株式を譲渡することを阻止するために、本件行為に及んでいる。そこで、このように株式譲渡に関して財産上の利益を供与することも、「株主の権利の行使に関し」なされたものといえるかが問題となる。

イ  株式の譲渡は株主の地位の移転にすぎないため、原則として、「株主の権利の行使に関し」にあたらないと考えるべきである。もっとも、現在の株主または将来の株主の議決権等の株主権の行使を回避する目的でなされる場合には、株主の権利行使の公正が害されるため、「株主の権利の行使に関し」にあたると解する。

ウ 本件についてみると、コマッタ商事は、反社会的勢力のフロント企業として知られた会社である。そして、コマッタ商事には、A の前任者が、鉄道の路線増設にあたって苦情を述べた地域住民に対する特別工作を依頼したことがあり、コマッタ商事が甲会社の株主であり続けると、上記関係を暴露され、会社の信用を傷つけられる可能性があった。

 したがって、A の行為は、コマッタ商事が甲社の株主として議決権等の株主権の行使をすることを回避する目的でなされたものということができる。

エ よって、本件行為は「株主の権利の行使に関し」なされたものといえる。

3 以上より、A の行為は利益供与にあたり、120 条 4 項本文に基づいて、甲会社に 100 億円の返還義務を負う。また、B は、利益供与にかかる取締役会決議に賛成したため、会社法施行規則 21 条 2号イに該当し、その職務を行うにつき注意を怠らなかったことを証明しなければ(120条4項但書)、120 条 4 項本文の責任を負うということになる。

第 3  設問(3)

1  本件では、甲会社の株主総会において、会社側が提案する取締役の選任を求めるとともに、議決権を行使した株主には甲鉄道の1日無料乗車券を 1 単元につき 1 枚贈呈することとしている。そこで、甲会社のこのような行為は、120 条 1 項の利益供与にあたり、取締役である A 及び B は120 条 4 項本文の責任を負うかが問題となる。

2ア  まず、本件行為は、甲会社の経済的負担で乗車券を配っていることから、「会社又は子会社の計算で」なされたものということができる。また、株主総会の決議に参加し議決権を行使させることを目的としてなされたものであるから、「株主の権利の行使に関し」なされたものといえる。

 それでは、「財産上の利益の供与」ということができるか、本件乗車券の価値は 500 円と低額である上に、議決権を行使した者全員に交付するものであることから問題となる。

イ 120 条 1 項の趣旨は、利益供与により会社の財産が散逸するのを防止し、株主の公正な権利行使を確保することにある。そこで、株主の権利の行使に関しなされた利益供与は原則として禁止されるべきであるが、①株主の権利行使に影響を及ぼすおそれのない、株主の権利行使を促進するためといった、正当な目的でなされ、②個々の株主に供与される額が社会通念上許容される範囲のものであり、③総額も会社の財産的基礎に影響を及ぼすものでない場合には、同条の趣旨を害しないので、例外的に「財産上の利益の供与」にはあたらないと解する。

ウ  本件についてみると、まず、①本件書面には、「会社側の提案にご賛同の上議決権を行使していただきたく、何卒お願い申し上げます」との記載があり、一見、会社の提案に賛同する者に乗車券が配られるかのように思え、株主の権利行使に影響を及ぼすためになされたと考えることもできそうである。しかし、文書全体で見ると、議決権の行使方法や賛否にかかわらず乗車券が配られることは明らかである。また、本件株主総会は、将来的に、丙社と業務提携をするか、丁社と業務提携をするかを決めかねない重要な案件であるから、できるだけ株主の意見が株主総会に反映するように、株主の出席率を上げる方策も必要であった。そうすると、本件では、株主の権利行使に影響を及ぼすおそれのない正当な目的はあったというべきである。

 次に、②本件で配布される乗車券の価値は 500 円と低額であり、これは社会的通念上許容される額の範囲内といえる。さらに、③乗車券が配られるのは 1 単元につき乗車券 1 枚であることから、株式 1 枚につき乗車券 1 枚を交付する場合と異なって、甲会社に与える財産的影響は小さい。また、甲会社では、毎年来場者にお車代として乗車券を配布していたというのであるから、このことからも、乗車券の配布は甲会社に与える財産的影響は大きくなかったことが推認できる。

 したがって、本件行為は、①株主の権利行使に影響を及ぼすおそれのない正当な目的でなされ、②個々の株主に供与される額が社会通念上許容される範囲のものであり、③総額も会社の財産的基礎に影響を及ぼすものでないといえる。

 よって、本件行為は「財産上の利益の供与」にはあたらない。

3 以上より、A・B は 120 条 4 項本文の責任を負わない。

 

15 会社の過失による名義書換の未了と株式譲渡人の地位  最高裁昭和 41 7 月 28 日第一小法廷判決

【問題の所在】 会社の過失によって名義書換が未了である場合、株主として取り扱われるべき者は、譲渡人か譲受人か。仮に譲受人であるとすれば、本件割当通知は、新株引受権を有しない者に対してなされたものであり、無効となるため問題となる。

【結論】 正当な事由なく株式の名義書換請求を拒絶した会社は、その書換えがないことを理由としてその譲渡を否定することはできず、譲受人を株主として取り扱わなければならない。会社が過失により株式譲受人から名義書換請求があったのにかかわらず、その書換えをしなかったときにおいても、適正な手続きにより請求したにもかかわらず、発行会社が書換えに応じなかった点では同じであるから、同様に解すべきである。本件では、基準日前にAが適法に名義書換請求をしたにもかかわらず、その書換を Y 会社は行っていない。したがって、Y  会社は、譲受人であるAを株主として扱うことを要し、Xを株主として扱うことはできない。

  • 同人を株主として取り扱わなかった株主総会決議には瑕疵があるものとして、決議取消しの訴えを提起しうる。会社を債務者として、仮に株主の地位を定める仮処分(民保 23 条 2 項)を求めることもできる。
  • 会社が名義書換えを不当に拒絶した場合、名義書換請求者は、会社に対し損害賠償を請求できる。

 

Law Practice12 名義書換の未了

1 小問(1)について

(1) Y 社株式を譲渡した A は、名義書換が未了の本件で Y 社に対して、株主として株式の割当てを請求することができるか。

(2) 株券発行会社の株式の譲渡は、名義書換を行わなければ会社に対して株主たる地位を主張することができない(130 条 2 項、1 項)ところ、その趣旨は、株主名簿による株主の集団的・画一的取扱いを可能にするという会社の事務処理の便宜を図る点にある。そうだとすれば、名義書換を会社が不当に拒絶し、或いは、過失によりしていない場合、当該会社は信義則に反し保護に値しない以上、会社は株式譲受人を株主として取り扱う必要があり、株主名簿上に株主として記載されている譲渡人を株主として取り扱うことはできないと解する。

 本件 Y 社は株券発行会社であるところ、同社の株式は A から B へ譲渡されている。そして、すでに B は Y 社に対して、株券を提示して名義書換を請求しているが、Y 社担当者の過失により名義書換がされず、株主名簿上の株主は A のままである。そうだとすれば、本件では名義書換が過失により未了の場合といえる。

 したがって、Y 社は、譲受人 B を株主として取り扱う必要があり、譲渡人A を株主として取り扱うことはできない。

(3) よって、A は、Y 社株主として株式の交付を求めることはできない。

2 小問(2)

(1) 原告適格

 「株主」E は、他の株主 C に対する招集手続の瑕疵をもって決議取消しの訴え(831 条 1 項 1 号)を提起することができるか。条文上、株主が主張できる事由は当該株主自身に関する手続の瑕疵に限定されていない。また株主は、株主総会の手続が全体として適正に行われていることについて正当な利益を有している。そこで、他の株主に対する招集手続の瑕疵をもって決議取消しの訴えを提起することはできると解する。

 したがって、Y 社株主である E は、本件株主総会決議取消しの訴えを提起して、C が保有する株式に係る議決権行使を理由とする本件決議の瑕疵を争うことができる。

(2) 本案

 名義書換は、株式譲渡の対抗要件にすぎないから、会社のほうがその危険において名義書換未了の譲受人を株主として取り扱うこともできると解する。

 本件において、C が保有していた Y 社株式は、D へ譲渡されているが、この譲渡について名義書換はされていない。もっとも、Y 社代表取締役 P は、この株式譲渡の事実を聞いて、D に対して株主総会の招集通知を発出しているところ、Y 社は名義書換未了の譲受人 D を株主として取り扱っている。

 したがって、D は、当該株式に係る議決権を行使することができる。

 よって、「招集の手続…が法令…に違反し」ているとはいえず、E の上記訴えは認められない。

3 小問(3)について

 株主の株主総会決議取消しの訴えの提起は、株主としての権利行使(共益権)の一つであるから、株主が同訴えを提起するためには、名義書換を行い会社に対する対抗要件を具備する必要があると解する。本件において、Y 社株式の譲渡を受けた G は、名義書換をしている。そのため、G は、株主総会決議取消しの訴えを提起することができるとも思える。

 もっとも、G の仮名 H の名で株主名簿に記載されているところ、仮名で株主名簿への記載があったといえるか。株主名簿に記載すべき「氏名」は本名、すなわち、日本国籍を有するものは原則として戸籍上の氏名をいうと解する。もっとも、株主が自己の氏名としてこれと異なる氏名を長期間にわたり一般的に使用し、その結果、社会生活上、それが当該株主の氏名として一般的に通用している場合は例外的にその通称も「氏名」に当たると解する。

 本件において、上記例外的な事情があれば、仮名 H も「氏名」に当たる。よって、この場合は株主名簿への記載があったといえ、G は上記訴えを提起することができる。

 

16 失念株と不当利得  最高裁平成 19 3 月 8 日第一小法廷判決

【事実の概要】 上場株式を取得した X らが、名義書換手続をする前に同株式について株式分割がされ、株主名簿上の株主Yに増加した新株が交付されてしまい、Yが上記新株を売却したことについて、上記新株の売却代金相当額の不当利得返還等を請求した事案。

【問題の所在】 受益者が代替性のある上場会社の株式を売却した場合、受益者はどのような不当利得返還義務を負うか。

【結論】 受益者が法律上の原因なく代替性のある物を利得し、その後これを第三者に売却処分した場合、その返還すべき利益を事実審の口頭弁論終結時における同種・同等・同量の物の価格相当額であると考えると、売却後の価格変動によっては公平の見地に照らして相当でない場合が生じるおそれがある。そこで、法律上の原因なく代替性のある物を利得した受益者が利得した物を第三者に売却処分した場合には、損失者に対し、原則として、売却代金相当額の金員の不当利得返還義務を負うと解すべきである。

  • 本判決は、代替性のある物の不当利得についても売却代金相当額の価格返還が原則であり、損失者が価格返還と代替物による返還を選択的に請求することはできないことを明らかにした。

 

17 個別株主通知と少数株主権等の行使  最高裁平成 22 12 月 7 日最三小法廷決定

【事実の概要】 Y会社は、平成 21 年 6 月 29 日の株主総会において、平成 21 年 8 月 5 日に、別途定める基準日の株主名簿上の株主から、その有する全部取得条項付普通株式を取得して対価を交付することを内容とする決議等を行った。Y株式を保有するXは、172 条 1 項所定の価格決定申立てを行ったが、事情により個別株主通知を提出することができなかった。Y会社は、Xから個別株主通知を受けていないことを理由に、本件価格決定申立ては不適法であると主張した。

【問題の所在】 振替株式に関する会社法 172 条 1 項の価格決定申立てにおいて個別株主通知が必要か否か、および必要とされる時期。(会社法 172 条 1 項所定の価格決定の申立てが振替法上の「少数株主権等」の行使に当たるか否かと、個別株主通知の法的性格およびこれをなすべき時期)

【結論】 会社法172条1項所定の価格決定申立権は、その申立期間内である限り、各株主ごとの個別的な権利行使が予定されているため、社債等振替法 154 条 1 項、147 条 4 項所定の「少数株主権等」に該当する。確かに、振替法 154 条 2 項は、少数株主権等は個別株主通知がされた後政令で定める期間(4週間)が経過する日までの間でなければ行使できない、と規定されており、個別株主通知がされた後でなければ少数株主権等の行使ができないと考えることもできそうである。このように考えると、裁判所に対する申立ての時点で個別株主通知がされる必要があることになる。しかし、振替法 154 条は1項で会社法130 条1項を適用除外とした上で、2 項以下に個別株主通知に関する規定をおいており、個別株主通知は株主名簿に代わるものとして位置付けている。そうすると、個別株主通知の法的性質は会社に対する対抗要件であると解すべきである。そこで、裁判所に対する申立ての提起には個別株主通知は必要ではなく、申立て事件の審理において会社が申立人の株主資格を争った場合に、その審理終結までの間に個別株主通知がなされれば足りると解する。

  • 振替制度の下では、上場株式は全て社債等振替法128条1項の「振替株式」となる。
  • 「個別株主通知」とは、社債等振替法154条3項の定めるとおり、株主からの申出に基づいて、振替機関から、発行者に対して、当該株主の名称、氏名、住所のほか、振替株式の種類、数、その数に係る増減の記録等を通知するもの。
  • これに対して、「総株主通知」とは、社債等振替法151条の定めるとおり、例えば、「発行者が基準日を定めたとき」であれば、当該基準日現在における株主やその保有株式数を通知するものであり、保有株式数の増減の記録は通知されないという通知内容の点で、個別株主通知とは異なる。
  • 要約すると、「会社法172条1項の価格決定申権は、少数株主権等に該当し、個別株主通知はその対抗要件であるから、株式価格決定申て事件の審において申人が株主であることを争った場合、その審終結までの間に個別株主通知がされることを要し、かつ、これをもって足りるとする」ということになる。

 

18 譲渡制限に違反した株式譲渡の効力 最高裁昭和 48 6 月 15 日第二小法廷判決

【事実の概要】 訴外A社の定款には、株式の譲渡につき取締役会の承認を要する旨の定めがあった。X1  は、取締役会の承認を得ることなく、保有するA社株式をYのために譲渡担保に供した。Xらは、譲渡担保契約の無効を主張して本件訴訟を提起した。

【問題の所在】 定款の定めに違反した株式譲渡の効力(会社に対する関係、当事者間)について。譲渡担保契約は、「譲渡」(107 条 1 項 1 号、108 条 1 項 4 号、136 条以下)にあたるかどうかについて。

【結論】 法(107 条 1 項 1 号、2 項 1 号、108 条 1 項 4 号)が、譲渡制限株式を認めている趣旨は、専ら会社にとって好ましくない者が株主となることを防止し、もって譲渡人以外の株主の利益を保護することにある。また、株式譲渡は自由が原則である(127 条)。そこで、定款に譲渡制限の定めがある場合に、取締役会の承認なくなされた株式の譲渡は、会社に対する関係では、効力を生じないが、譲渡当事者間においては有効であると解する。株式を譲渡担保に供することは、「譲渡」にあたると解すべきであるから、取締役会の承認を得なくとも、当事者間においては有効なものとして、株式の権利移転の効力を生じる。

  • 株式取得者から会社に対して取得承認請求ができる(137 条 1 項)ことは、譲渡当事者間における譲渡の有効性を前提としていると考えることができるということも、譲渡当事者間で有効と考える根拠の 1 つである。
  • 判例は、会社の承認のない譲渡制限株式の譲渡は、会社に対する関係では「効力を生じない」ことを理由に、会社は譲渡人を株主として取り扱う義務があるとしている(最判昭和 63 年 3 月 15 日)。
  • 株主名簿の名義書換未了の株主を会社側から株主と認めその者の権利行使を認容することを可能とする判例との違いに注意。

 

19 譲渡制限株式の評価 大阪地裁平成251月31日決定

【問題の所在】 譲渡制限株式の評価(144条3項参照)。

【結論】 少数株主の企業価値に対する支配は基本的に配当という形でしか及ぶことはないから、その株式価値の評価に当たり、配当に着目した配当還元法をある程度考慮することは不合理ではない。しかも、少数株主は将来の配当をコントロールすることができないから、現状の配当が不当に低く抑えられているとしても、その限度における配当を期待するほかない。したがって、現状の配当を前提に評価することに不合理な点はないというべきである。

  • 会社法上、市場価格の無い株式の価値評価が争われる場合がある。本件のように、譲渡制限株式の売買価格を決定する場合(会社法144条)もその一例。この場合、裁判所は会社の資産状態その他一切の事情を考慮して売買価格を決定するものとされる(会社法144条3項)。

 

20 従業員持株制度と退職従業員の株式譲渡義務  最高裁平成74月25日第三小法廷判決

【事実の概要】 Y社は定款に株式譲渡制限の定めがあり、いわゆる従業員持株制度を導入していた。Y社の従業員であるXらは、Y社の株式を 1 株 50 円で取得した。その際、Y社との間で、「退職に際しては、同制度に基づいて取得した株式を 1 株 50 円で取締役会の指定する者に譲渡する」旨の合意を交わした。Xらは、本件合意は会社法 127 条の株式譲渡自由の原則および民法 90 条の公序良俗に反して無効であると主張し、Y社に対して、自己の保有株式について株券を発行するよう求めた。

【問題の所在】 閉鎖的な会社の従業員持株制度のもとで、従業員が退職時にその持株を取得価格と同一価格で特定の者に売り渡す旨の契約は、株式の譲渡を制限する(価格や譲渡相手を固定)ものとして  127 条、民法 90 条に反し無効ではないかが問題となる。

【結論】 そもそも、127 条は、会社が株主との間で個々的に締結する契約の効力について直接規定するものではない。契約である以上、契約自由の原則が妥当するというべきである。もっとも、当該合意内容が投下資本の回収を著しく制限するものである場合には、公序良俗(民法 90条)に反し無効となると解する。

  • 株主相互間の契約、または第三者と株主との間でなす契約は、127条の関知しないところであり、原則として有効であるが、会社が当事者となる契約の脱法手段と認められる場合には例外的に無効となるとする。すなわち、契約内容が会社法の秩序原則ないし従業員持株制度の趣旨からして極めて不合理と判断される時は、公序良俗違反(民法 90 条)として無効となるとする。

 

Law Practice14   契約による株式の譲渡制限

1 本件合意は、従業員が退職した場合に従業員持株制度に基づいて取得した株式を取得価格と同額で取締役会の指定する者に譲渡するという内容である。このような、株式の譲渡を強制する合意は無効でないか。

2 定款による株式の譲渡制限と異なり、契約による株式の譲渡制限は、契約当事者にしか拘束力が及ばない。そこで、契約の自由の原則に従い、契約による株式の譲渡制限は有効であると解する。

(1) もっとも、契約内容が株主の投下資本回収の機会を著しく制限する場合には、公序良俗(民 90 条)に反し無効と解する。

(2) 公序良俗との関係で問題となり得るのは①退職により譲渡が強制されている点、②譲渡価格が取得価格と同額である点、③譲渡先は取締役会が指定する者に限定されている点である。

ア まず①退職により譲渡が強制されている点を検討する。

非公開会社 Y の株式については、むしろ投下資本回収の機会を提供するものであるから、投下資本回収の機会を著しく制限するとはいえない。

イ ②譲渡価格が取得価格と同額である点については

譲渡の時点における株式の価値と合理的な関連性を有する、譲渡価格の算定方法をあらかじめ約定しておくことは、合理的であり、実際上も有益である。

 よって、これをもって直ちに投下資本回収の機会を著しく制限するとはいえないとすべきである。 ※ 即ち、その算定方法が合的なものである限りは、たとえその価格が譲渡の時点で株式の実際の価値を下回ることになっても、その有効性を認めてよい。

ウ 最後に③譲渡先は取締役会が指定する者に限定されている点について

 会社法は、譲渡人が相手方選択について有する利益を閉鎖性維持の要請よりも劣後的に扱っている(会社法140条1項、4項参照)ため、この利益を過度に重視する必要はない。そのため、譲渡先が限定さていることをもって、投下資本回収の機会を著しく制限するとはいえない。 ※ しかし買受人指定券の使期間が当に長期にわたる場合、その契約は、もはや相手方選択の自由を制限するのみならず、実質的に譲渡の時期をも当に制限することになるため、無効とされる要素になりうる

(3) したがって、本件合意は公序良俗に反せず、有効である。

3 よって、X の請求は認められない。

 

21 100%子会社による親会社株式の取得と親会社取締役の責任 最高裁平成 5 9 月 9 日  第一小法廷判決

【事実の概要】 A社はB社と吸収合併を計画していたところ、当時A社株式の26%を保有していたCがこれに反対した。Cの協力が得られない限り本件吸収合併の実現は困難であると考えたA社は、100%子会社であるD社に  C 社所有の株式を、市場価格よりも高い価格で買い取らせ、A社関連会社に時価で売り渡すということを決定した。その結果、D社には、35 億 5160 万円の差損が生じることになった。A社の株主であるXは、D社の株式の買い取りは、自己株式の買い取り規制(改正前商法 210 条)に反し、その結果A社に 35 億 5160 万円の損害が生じたとして、A社の取締役Yらに、A社に 1 億円を支払うよう求めた。

【問題の所在】 ①100%子会社による親会社株式の取得について、本件当時の商法210 条の適用があるかどうか。②100%子会社が親会社株式の取得・売買によって損害を被った場合、親会社の損害についてどのように考えるべきか。

【結論】 ①D社が、同社のすべての発行済み株式を有するA社の株式を取得することは、A社が自社の株式を取得するのと同様の弊害が生じるおそれがあるため、改正前商法 210 条に定める除外事由またはそれが無償によるものであるなど特段の事情のある場合を除き、210 条に反し許されない。②D社が同社のすべての発行済み株式を有するA社の指示により同社の株式を売買して買入価格と売渡価格の差額に相当する損失を被った場合、A 社の取締役は、特段の事情のない限り、その全額をA社に生じた損害として賠償責任を負う。

  • 改正前商法 210 条に該当する規定は 155 条。現在では、当時と異なって、本件のような買取は、A社が行うのであれば一定の手続き等の要件を満たせば認められる(156 条~161 条、309 条 2 項2 号、461 条 1 項 3 号、2 項)。他方、本件におけるような子会社による親会社株式の買取は、今日においても、135 条のもとで原則違法となる(⇒任務懈怠、法令違反があったかどうかの認定)。
  • D社株式の価値は、特段の事情のない限り、D社に生じた損害と同額だけ下落し、その結果、上記株式をすべて有するA社の資産も上記株式の下落と同額だけ減少すると考えることに合理性がある。

 

22 上場会社における募集株式の有利発行  東京地判平成 16 6 月 1 日決定

【問題の所在】 仮に、本件新株発行が、「特に有利な金額」(199条3項)でなされたものであるとすれば、株主総会の特別決議(201条1項、199条3項)を経なければならない。そして、このような株主総会の特別決議を経ることなく行われる新株発行は、「法令…に違反」

(210条1号)するものとして、新株発行の差止事由となる。そこで、本件新株発行は、「特に有利な金額」でなされたものといえるか。その意義及び判断基準が明文上明らかでなく問題となる。

【結論】 ここに、「特に有利な金額」とは、公正な価格よりも特に低い価額をいう。この点について、低価での第三者割当増資が行われると、従前の株主の持分価額に希釈を生じさせることからすれば、発行価額は時価であることが望ましい。しかし、新株を発行して資金調達を行うためには、引受人にあえて当該会社から株式を引き受けるインセンティブを与える必要があり、発行価額を一定程度割安とせざるをえない。そこで、公正な価額かどうかは、原則として、その価額が、発行価額決定直前の株価に近接していることが必要であるが、発行価額決定前の当該会社の株式価格、株価の騰落習性、売買出来高の実績、会社の資産状態、収益状態、株式市況の動向、これらから予測される新株の消化可能性等の諸事情を考慮し、合理的範囲内といえる割安発行も公正な価額として許容されると解する。

 本件発行価額393円は、株価1010円と比較して約39%にすぎない。また、自主ルールは、旧株主の利益と会社が有利な資本調達を実現するという利益の調和の観点から日本証券業協会における取扱いを定めたものとして一応の合理性を認めることができるところ、本件発行価額は、本件新株発行決議の直前日の価額に0.9を乗じた909円と比較して約43%、本件新株発行決議の日の前日から6か月前までの平均の価額に0.9を乗じた650円と比較しても約60%にすぎない。本件発行価額は、本件鑑定に基づいて決定されたものであるが、本件新株発行決議の直前日の株価と著しく乖離しており、本件鑑定を精査しても、その算定方法が前記公正な発行価額の趣旨に照らし合理的であるということはできない。Y会社は、同社の株価の高騰は、株価操縦、投機を目的としたXらによる違法な買占めを原因とするものであり、Y会社の企業価値を正確に反映したものではないので、本年1月以降の市場価格は公正な発行価額算定基礎から排除すべきと主張している。しかし、XらはY会社に対する企業買収を目的として長期的に保有するために株式を取得したものであることが窺われ、本件全証拠を精査しても、Xらが不当な肩代わりや投機的な取引を目的として株式を取得したものと認めるに足りる資料はない。また、Y会社の業績も改善していること、証券業界(会社四季報)におけるY会社の業績の評価も向上していること、Y会社と同様にバルブ事業を営む企業においても、昨年後半から今年にかけて株価が2倍ないし4倍に高騰している事例があることの各事実が認められ、これらの事実に加え、前記のとおりY会社の1株当たりの株価が今年に入って500円以上で推移している事実に照らせば、Y会社株式の株価の上昇が一時的な現象に止まると認めることはできない。

 

23 非上場会社における募集株式の有利発行  最高裁平成272月19日第一小法廷判決

【問題の所在】 非上場会社における募集株式の有利発行。「特に有利な金額」の意義と非上場会社における判断基準。

【結論】 ここに、「特に有利な金額」とは、公正な価格よりも特に低い金額をいう。そして、非上場会社の株価の算定については様々な評価手法があり、そのうちどの手法を用いるべきかについて明確な判断基準が確立していないため、新株発行の局面における取締役の予測可能性を確保するという観点からも、客観的資料に基づく一応合理的な算定方法によって払込金額が決定されたといえる場合には、特段の事情のない限り、「特に有利な金額」にはあたらないと解する。

 本件についてみると、公認会計士は決算書を初めとする各種の資料等を踏まえて株価を算定したものであって、公認会計士の算定は客観的資料に基づいていたということができる。また、公認会計士は、Z会社の財務状況等から配当還元法を採用し、従前の配当例や直近の取引事例などから1株当たりの配当金額を150円とするなどして株価を算定したものであって、本件のような場合に配当還元法が適さないとは一概にいい難く、また、算定結果の報告から本件新株発行に係る取締役会決議までに4か月程度が経過しているが、その間、Z会社の株価を著しく変動させるような事情が生じていたことはうかがわれないから、同算定結果を用いたことが不合理であるとはいえない。加えて、本件新株発行の当時、Y1が提案した購入価格、株主総会決議で変更された新株引受権の権利行使価額及び自己株式の処分価格がいずれも1株1500円であったことを考慮すると、本件では、一応合理的な算定方法によって発行価額が決定されていたということができる。したがって、1500円の発行価額は、「特に有利な金額」には当たらない。

 

24 第三者に対する新株発行の有利発行と株主総会決議の欠缺  最高裁昭和467月16日第二小法廷判決

【事実の概要】 Y会社(公開会社)は、訴外A証券会社に 1 株 115 円で株式を買取引受けさせた。Y会社の株主であるXは、本件株式の発行は「特に有利な金額」(199 条 3 項)によるもので、株主総会の特別決議が必要(201 条、199 条 2 項、3 項)であったにもかかわらず、これを欠くため無効であるとして、新株発行無効確認の訴え(828 条 1 項 2 号)を提起した事案。

【問題の所在】 株式発行が「特に有利な金額」に当たる場合、株主総会の特別決議を経ずになされた新株発行は、新株発行無効確認の訴えにおける無効原因となるか、無効原因は法定されていないことから問題となる。

【結論】 新株発行の無効は、新株の引受人や譲受人、会社債権者など多数の利害関係者に影響を及ぼすことになるため、あらゆる瑕疵が新株発行の無効原因となると解するのは妥当でない。したがって、新株発行無効の訴えにおける無効原因は、このような利害関係者の利益を犠牲にしても新株発行を無効とするべき重大な法令・定款違反に限られると解する。新株発行は、会社の業務執行に準ずるものであり、株主総会の特別決議の要件も取締役会の権限行使について内部的要件にすぎない。取締役会の決議に基づき代表取締役が新株を発行した以上、新株の取得者や会社債権者の保護等の外部取引の安全に重点を置くべきである。したがって、新株の有利発行において株主総会の特別決議を経ていないことは、新株発行を無効とするべき重大な法令・定款違反とはいうことができない。よって、新株発行無効確認の訴えにおける無効原因とはならない。

 

【まとめ】

 「特に有利な金額」とは、公正な払込金額より特に低い価額をいい、公正な払込金額とは、払込金額決定前の当該会社の株式価格等の諸事情を総合して判断された、資金調達の目的が達成される限度で旧株主にとって最も有利な金額をいうと解される。

⇒ 非上場会社の場合 ⇒ もっとも、非上場会社の場合、その株価の算定については様々な評価手法があり、そのうちどの手法を用いるべきかについて明確な判断基準が確立していないため、新株発行の局面における取締役の予測可能性を確保するという観点からも、客観的資料に基づく一応合理的な算定方法によって払込金額が決定されたといえる場合には、「特に有利な金額」にはあたらないと解する。

⇒ 上場会社の場合 ⇒ 他方、上場会社においては、日証協の自主ルールに従い、決議前日の市場株価から10%超のディスカウントかどうかで判断する。もっとも、株式の買占めに伴い株価が高騰している場合、企業の客観的価値を反映していないことがある。そこで、買占めにより発行会社やその関係者に高値で買い取らせることなどを狙ったような場合や異常な投機による一時的なものである場合には、高騰した株価を発行価額算定の基礎から排除すべきであり、適当な期間内(6カ月以内)の平均価額を基準に発行価額を算定すべきである。また、企業提携の場合、値上がり後の価額を基準とすると、発行の相手方はシナジーを受けられなくなる点で不公平であり、企業提携そのものが成り立たなくなるおそれもある。そこで、企業価値に応じてシナジーを分配されていると認められる場合には、発行価額決定直前の株価に近接していなくとも、「特に有利な金額」には当たらないと考える。