○○法ガールになりたい。

○○法ガールといえるほど法学をマスターしたいなと思い作成したブログ。司法試験受験生。最近勉強なんてやめて結婚に逃げたい。

ケースブック刑法 起案 第7講~第11講

第7講 錯誤

1 具体的事実の錯誤

設問1

1 Aに対する罪責

 甲が、Aを狙い鋲を発射した行為は、被害者であるAの反抗を抑圧するものである。また、甲は、拳銃というAの「財物を強取」すべく、上記行為を行っており、かつ、その際、甲にはAを死に至らしめることに対する認識・認容もあったというのであるから、上記行為は、強盗殺人罪の客観的・主観的構成要件に該当する行為である。

 もっとも、Aは、加療約5週間を要する怪我を負ったにとどまり、死に至らなかったというのであるから、上記行為には、強盗殺人未遂が成立することになる。

2 Bに対する罪責

 次に、本件において甲は、鋲の発射によりBにも怪我を負わせている。これは、上記と同様、強盗殺人未遂の客観的構成要件に該当する。では、主観的構成要件も満たすか。甲は、Aに対する強盗殺人の意図のもと、上記行為をしており、Bに上記結果が生じることを認識・認容していなかったため問題となる。

 そもそも、故意責任は、反規範的人格態度に対する責任非難ゆえに問うことができるものであるところ、規範の問題は構成要件によって与えられているのであるから、行為者が認識した事実と、発生した事実が構成要件の範囲内で符合する限り、故意は認められると考えるべきである(法定的符合説)。そして、このように、故意は構成要件の範囲内で抽象化される以上、故意の個数を観念することはできない。そのため、客体の数だけ故意犯が成立すると考える(数故意犯説)。

 そして、本件で、甲は、Aを死に至らしめることへの認識・認容、すなわち、およそ人に対する強盗殺人の認識・認容はあったため、Bに対する強盗殺人の故意も認められる。

 したがって、強盗殺人未遂罪が成立する。

3 罪数

 なお、Aに対する強盗殺人未遂罪とBに対する強盗殺人未遂罪は観念的競合(54条)となる。

 

2 誤想防衛

設問2

 ・

 ・

1 Xは本件行為が正当防衛と認識している。そこで、責任故意が阻却されないか。

故意責任は、反規範的人格態度に対する責任非難ゆえに問うことができるのであるから、かかる非難の前提として行為者が規範に直面していることを要する。そして、違法性阻却事由を基礎付ける「事実」について誤認がある場合には、規範に直面しているとはいえない。したがって、かかる場合には、責任故意が阻却されると解する。

 よって、Yに対する暴行又は傷害の故意は認められず、過失致死罪(210条)が成立するに過ぎない。

  • もっとも、誤想防衛の一種として、過失犯は成立しうる。 

 

3 誤想過剰防衛

設問3

1 Xが斧でAの頭上を殴った行為につき、殺人罪(199条)は成立しないか。

2 客観的・主観的構成要件該当性

 まず、斧という殺傷能力の高いもので、頭という人体の急所を力いっぱいたたく行為は、A死亡の現実的危険性を有する行為といえるため、殺人罪の実行行為に該当している。そして、その結果Aは死亡している。

 また、Xには少なくとも未必的な故意があるといえ、よって、上記行為は、殺人罪の客観的構成要件・主観的構成要件に該当する行為である。

3 もっとも、正当防衛(36条1項)で違法性が阻却されるといえないか。

(1) まず、「急迫」とは、法益の侵害が現に存在しているか、または間近に迫っていることをいうところ、AがXを襲ってきているため,急迫不正の侵害は存在する。

(2) 次に、正当防衛の成立には、防衛の意思という主観的要件を要すると考えるべきところ、Xは自分の身を守る「ために」、防衛行為に出ていることから、この要件も満たす。

(3) さらに、「やむを得ずにした」とは、防衛手段として必要最小限であること、すなわち、反撃行為が侵害に対する防衛手段として、相当性を有するものであることをいうところ、本件において、Xは、棒状の物を持っているにすぎないAに対し,斧で反撃している。これは,武器の能力が著しく異なることから,防衛のために必要最小限とはいえない。したがって、防衛行為の相当性はない。

(4) したがって、Xには正当防衛は成立しない。

3 もっとも、Xは斧を斧と認識していないことから、過剰性を認識していない。そこで、まず、責任故意(38条1項本文)が否定されるかが問題となる。

 故意責任は、規範に直面し反対動機形成可能であったにもかかわらずあえて行為に及んだことに対する道義的非難ゆえに問うことができるのである。そして、正当防衛が成立し得る状況下において、過剰性を基礎付ける事実を認識していない場合には、規範に直面し得ない以上、かかる道義的非難をなしえない。したがって、このような場合には、責任故意は阻却されるものと考えるべきである。

 本件についてみるに,斧はただの木の棒とは比べものにならない重量の有るものだから,いくら興奮していたからとしても,これを手に持つて殴打する為め振り上げればそれ相応の重量は手に感じる筈である。そうだとすると,当時74歳の老父が棒を持って打ってかかって来たのに対し,斧だけの重量のある棒様のもので頭部を乱打した事実は,たとえ斧とは気付かなかったとしても,これをもってXは、防衛行為の過剰性を基礎づける事実を認識しているといえる。そのため、故意責任の本質たる直接的な反規範的態度が認められるため、責任故意は否定されない。

4 では、次に、過剰防衛に関する36条2項を準用して刑を任意的に減免できないか。

 そもそも、36条2項が任意的な減免を認める根拠は、恐怖・興奮などにより多少の行き過ぎを犯したとしても行為者を強く非難できない点にある。そして、急迫不正の侵害を誤認識していた場合でも、恐怖・興奮などが生じることにつき変わりはない。

 そこで、準用を肯定すべきである。もっとも、過剰性の認識がなくても、少なくとも過失犯は成立し得ることとの刑の均衡から、刑の免除までは準用しえないものと考える。

5 したがって、Xには殺人罪が成立するが、任意的な減刑をされうる。

 

4 誤想過剰避難

(省略)

 

第8講 過失

1 具体的注意義務の認定

設問1

1 Yの罪責

 Yが医師Bから処方された通りのE薬ではなく、D薬をVに投与したうえ、Bの指示通りにVの容態を確認しなかったことにつき、業務上過失致死罪(211条)は成立するか。

(1) 本罪の言う「業務」とは、人が社会生活上の地位に基づき反復継続して行う行為であって、かつ、その行為が他人の生命身体等に危害を加える恐れがあるものをいう。

 本問におけるYの、医師の指示の下、患者への薬剤投与や患者の容態確認をする行為は、Yが看護師という社会生活上の地位に基づき反復継続して行う行為であるといえる。また、この行為は、薬剤の誤投与や容態確認の怠慢により、患者の生命・身体に危害を加える恐れがあるものである。

 よって、Yのこの行為には、「業務」性が認められる。

(2) また、本罪の成立には、業務上「必要な行為を怠った」こと、すなわち過失があったことが必要であるところ、過失とは、予見可能性、結果回避可能性を前提とした結果回避義務違反であると解される。そこで、ア. Yにはそもそもどのような業務上の注意義務があったといえるか、イ. それを怠った場合、Vに死亡結果を生じさせることにつき、Yには予見可能性があったといえるか、ウ.Yはそれを回避することが可能であったか、そして、エ.Yはその結果回避義務違反を怠ったといえるかが問題となる。

ア 本問においてYには、医療従事者として、 a.  Bの指示通りに、VにE薬を点滴する義務、具体的には、薬の誤投与を防ぐため、薬が医師の処方通りであるかを処方箋の写しと対照してチェックする義務、および、 b.  Bの指示通りに、約30分ごとにVの容態を確認する義務があったといえる。

イ A病院においては、看護師が点滴その他の投薬をする場合、薬の誤投与を防ぐため、看護師において薬が医師の処方どおりであるかを処方箋の写しと対照してチェックし、処方や薬に疑問がある場合には、医師や薬剤師に確認すべきこととなっており、その際、患者のアレルギー体質等については、その生命にかかわることから十分に注意するべきことが徹底されており、Yも当然これを熟知していたはずである。そしてYは、VがD薬に対するアレルギー体質を有することを、Vの入院当初に確認してVの看護記録にも記入していた。とすれば、Yは、aの義務を怠ればVが死亡する危険があると予見することが可能であったはずである。

 また、Yは、Bから、「Vさんの発熱の原因がはっきりしないうえ、Vさんは高齢なので、熱が下がらなかったり容体が急変しないか心配です。容体をよく観察してください」と指示を受けていたこと、Y自身、医療従事者としての知識を有していたことにかんがみると、素人任せにして30分ごとの容態確認というbの義務を怠ればVの容態が急変し死亡することが十分ありうることは、容易に予見することができたはずである。

 よって、Yにはa,bの義務を怠った場合にVを死に至らしめることにつき、予見可能性が認められる。

ウ そして、Yは、薬が医師の処方通りであるかを処方箋の写しと対照してチェックすることにより、E薬として渡された薬が実はD薬であると気づくことができ、その投与を中止しVの死亡を回避することができたはずである(a)。また、Yがせめて午後2時ごろ、Vの容態を確認していれば、YはVの異変に気付くことができ、直ちに医師による救命措置をとることが可能であったはずであり、Vの死亡を回避することができたというべきである(b)。

 よって、Yにはa,bの義務を果たした場合の結果回避可能性も認められる。

エ そしてYには、①のa,bの義務を果たし、Vの死亡を回避する義務があったにもかかわらず、これに違反している。

オ 以上より、Yは業務上「必要な行為を行った」といえる。

カ なお、YはZの仕事ぶりを信頼していたのであるから、信頼の原則が適用されないかが問題となるも、A病院では、薬剤師と看護師がそれぞれ独立して適正な薬であることを確認することが求められており、適切な行動に出ることを信頼することが不相当である。よって、Yには信頼の原則は適用されない。

(3) とはいえ、本問においてはYの過失行為とVの死亡との間には、Xの不作為による殺人行為が介在している。そのため、因果関係が認められないのではないかが問題となる。

 因果関係は、行為の持つ危険性が結果へと現実化したといえる場合に認められる。そして本問のように行為と結果との間に介在事情がある場合には、①行為それ自体が持つ危険性が結果へと現実化されるのを、②介在事情の有する危険性が結果へと大きく寄与することによって妨げていないかを判断する必要がある。もっとも、介在事情の持つ危険が結果へと大きく寄与したといえる場合(②)であっても、③行為者の行為が結果を誘発したといえるような場合には、行為の持つ危険性が介在事情を経由して結果を現実化したといえるため、行為と結果との間に因果関係を認めるべきである。

 本問におけるYの過失行為は、VがD薬に対する強いアレルギー体質を有していたことを考慮すると、Vのショック死を引き起こす危険性が非常に高い行為であったといえる(①)。対して、確かにそれに便乗してVを放置したXの不作為による故意行為も危険な行為であったことも否定はできないが、Xの行為はあくまで不作為であって、Vの死亡に至る因果経過に対して物理的に決定的な影響を及ぼしたとまでは言えないから、その結果に対する寄与は小さいといえる(②)。よって、本問においては、Yの過失行為それ自体が持つ危険性が結果へと現実化されるのを、Xの故意行為という介在事情が妨げているとはいないため、Yの過失行為とVの死亡結果との間には刑法上の因果関係が認められるというべきである。

 以上より、Yには業務上過失罪(一罪)が成立する。

2 Zの罪責

 では、Zが誤って医師に処方されたE薬ではなくD薬を準備してYに渡した行為につき、業務上過失致死罪は成立するか。

(1) 本罪の言う「業務」とは、既述の通りのものをいうところ、本問において、薬剤師であるZは、その地位に基づき、患者の病状や体質に適合する薬剤を投与することを反復継続して行っており、かつ、もし薬剤を誤って投与すれば患者の生命や身体に危害を加えるおそれがあったといえるから、Zの行為には「業務」性が認められる。

(2) また、本罪の成立には、Zに過失があったことが必要である。そこで、Yの罪責で検討したのと同様の基準に照らし、判断する。

ア Zには、患者に応じて適正な薬を患者に投与するために、医師の処方が患者の  病状や体質に適合するかどうかをチェックする義務、アンプルの薬名を確認する義務があったといえる。

イ また、Zは薬剤師であり、①の義務を怠り、強度のアレルギー体質であるVに誤った薬を投与すれば、V死亡という結果が生じる可能性があることを予見することは可能であったといえる。

ウ そして、V死亡という結果は、Zが薬のラベルを確認してさえいれば誤った薬をYに渡さずに済み、回避することができたはずである。

エ それにもかかわらずZは、上記義務を怠り、V死亡という結果を生じさせている。

オ よって、Zには、予見可能性・結果回避可能性を前提とする結果回避義務違反が認められるため、Zは過失が認められる。

(3) とはいえ、本問においては、Zの過失行為とVの死亡との間には、Xの不作為による殺人行為、およびYの過失行為が介在している。そのため、因果関係が認められないのではないか。

 上記の通り、因果関係は、行為の持つ危険性が結果へと現実化したといえる場合に認められる。まず、Zがアンプルのラベルを確認せずD薬のアンプルをYに渡す行為は、VがD薬に対する強いアレルギーを持っていることにかんがみると、それ自体、かなり危険性の高い行為であるといえる(①)。他方、YのVに対する点的行為も1(3)で述べた通りそれ自体かなり危険性の高い行為であるといえるが(②)、YがVに対して誤った薬を点滴投与したのは、そもそもZの過失行為に起因するものである(③)。

 以上のことにかんがみると、本問においては、Zの過失行為の持つ危険性が、Yの過失行為という介在事情を経由して結果を現実化したといえる。

 なお、もう一つの介在事情であるXの行為は、確かに危険な行為であったことも否定はできないが、Xの行為はあくまで不作為であり、Vの死亡に至る因果経過に対して物理的に決定的な影響を及ぼしたとまでは言えず、その結果に対する寄与は小さいといえるから、Zの過失行為の持つ危険性が、Yの過失行為という介在事情を経由して結果を現実化したといえず、因果関係は切断されない。

 以上を総合すると、Zの過失行為とV死亡という結果との間には、因果関係が認められるというべきである。

(4) よって、Zには業務上過失致死罪(一罪)が成立する。

  

2 予見可能性 3 監督過失

(省略)

 

4 過失と同意

設問2

1 業務上過失致死罪の構成要件該当性;検察官の主張の通り

2 もっとも、本件においては、被害者の死亡結果についての同意がある。そこで、違法性が阻却されるか否かが問題となる。

(1) そもそも、刑法は、法益保護機能のみならず社会倫理秩序維持機能をも有することから、違法性の実質は、社会的相当性を逸脱する法益侵害の惹起をいうと考える。そして、危険の引受けも社会的相当性を判断するための一要素としての意味を持つ。そこで、危険の引受けがあった場合、他の諸事情を考慮して社会倫理規範に照らし相当といい得るときは違法性が阻却されると考える

(2) 本件についてみるに、同乗者の側で、ダートトライアル走行の前記危険性についての知識を有しており、技術の向上を目指す運転者が自己の技術の限界に近い、あるいはこれをある程度上回る運転を試みて、暴走、転倒等の一定の危険を冒すことを予見していることもある。また、そのような同乗者には、運転者への助言を通じて一定限度でその危険を制御する機会もある。したがって、このような認識、予見等の事情の下で同乗していた者については、運転者が右予見の範囲内にある運転方法をとることを容認した上で(技術と隔絶した運転をしたり、走行上の基本的ルールに反すること-前車との間隔を開けずにスタートして追突、逆走して衝突等-は容認していない。)、それに伴う危険(ダートトライアル走行では死亡の危険も含む)を自己の危険として引き受けたとみることができ、右危険が現実化した事態については違法性の阻却を認める根拠がある。そのような同乗者でも、死亡や重大な傷害についての意識は薄いかもしれないが、それはコースや車両に対する信頼から死亡等には至らないと期待しているにすぎず、直接的な原因となる転倒や衝突を予測しているのであれば、死亡等の結果発生の危険をも引き受けたものと認められる。

(3) また、運転には多少未熟な面があったものの、競技としての運転の範疇といえ、運転自体に社会的相当性がないとはいえない。

3 よって、違法性が阻却され、業務上過失致死罪は成立しない。

 

第9講 同意

1 殺人と自殺関与

 偽装心中

 たしかに、死ぬことを認識していた以上、死に対する認識はあるため、錯誤はないとも思える(法益関係的錯誤)。

 しかし、追死することが嘘だと知っていれば自殺しなかったはずであり、動機に錯誤があるといえ、この事実が主として自殺を導いているため、承諾は無効というべきであり、本人の自由な意思決定に基づく承諾があったとはいえない。

 したがって、もはや自殺関与罪ではなく、殺人罪の間接正犯が成立すると考える。

 

202条における同意についての認識の要否

 同意の存在は構成要件要素であるところ、客観的に同意が存在している以上は、殺人罪の構成要件には該当し得ない。

 もっとも、同意殺人罪の客観的構成要件該当性を認めることはできないか。

 →抽象的事実の錯誤

 したがって、同意の存在を認識していない場合には、重なり合う同意殺人罪の限度で故意が認められると考える。

  • 殺人罪の故意で同意殺人を実現した場合に問題となる。

 

2 安楽死尊厳死

(省略)

 

3 被害者の同意

1 本問におけるXの、K・T・Sと共謀し、故意に交通事故を起こしAやK・T・Sに傷害を負わせた行為につき、傷害罪(204条)が成立しないか。

 A以外のK・T・Sは追突による傷害結果が発生することを同意していることから、そもそも、XにはK・T・Sに対する傷害罪が成立しないのではないかが問題となる。

(1) ここで、刑法の目的は、究極的には法益保護にある。とすれば、被害者に同意がある場合には、守るべき法益がなくなり、構成要件該当性が否定されるのではないかとも思える。

(2) しかし、犯罪類型である構成要件は通常、同意の不存在を要素とはしていない。また、刑法の目的は、法益の保護に限られず、社会倫理の維持にもあるのだから、同意があっても、構成要件該当性は否定されないというべきである。

(3) そうすると、上記行為は、傷害罪の客観的・主観的構成要件を満たす以上、傷害罪は成立しる。

2 としても、同意により違法性が阻却されるのではないか。

(1) 先述の通り、刑法は法益保護のみならず、社会倫理の維持をもその目的としているのであるから、「違法」とは、法益侵害という結果無価値のみならず、行為が社会的な倫理規範に反し相当性を逸脱しているという行為無価値をも考慮して、全体として法秩序に違反していることを言うと解する。そこで、①被害者が同意のうえ行為者に処分させようとした法益が処分可能な物であったか、②そこに不当な動機や目的はなかったか、③その手段や方法、損傷の部位や程度などに不相当な点がなかったか、④そして同意が事前に行われ、行為時までに有効に存続していたといえるか、また、行為者自身がそれを認識していたか等の諸般の事情を総合的に考慮し、「被害者が、法益の処分に対する有効な同意を行為者に与えていたと認められるような場合」には、違法性が阻却されると解する。

(2) 本問においてK・T・Sが企てた自動車を衝突させる行為は、死の危険性すらある甚だ危険な行為である。そのため、生命の保護の重要性に鑑みると、このような生命に危険を与える程度・態様の重大な障害について法益の自由な処分は許されないというべきである。また、AがXらに傷害結果を発生させることを同意したのは、保険金を詐取し、入院治療の機会を確保する目的からである。そして、K・T・Sらの行為は著しく不相当な手段、方法によるものであったと評価できる。

(3) そうである以上、K・T・Sらの同意がXに対して事前に行われ、かつ、行為時までそれが存続し、Xがこれを認識していた場合であっても、K・T・Sらの同意は無効であるというべきであるから、違法性は阻却されない。

3 よって、X(ら)には、K・T・Sに対する傷害罪が成立し、K・T・Sとは共同正犯の関係に立つ(60条,204条)。

  • ここで自傷行為は不可罰であるため、K・T・Sにそれぞれ自己に対する傷害罪の共同正犯が成立するかが問題となるも、K・T・Sは正犯の違法行為を通じて法益侵害を惹起しているといえるため、傷害罪の共同正犯が成立すると解する。

 

第10講 正当防衛

設問1

第10講

第1 Xの罪責

1 Xは故意に、Yに対して腹部を殴る、顔面を3回蹴るといった暴行を加え、歯を折ったり顔面打撲等の加療約1か月を要する身体の生理的機能の障害を生じさせているため、XにはYに対する傷害罪(204条)が成立する。

2 また、Xは故意に、Yに加勢したZに対しても腹部や大腿部をける、頭部を締め上げるといった一連の暴行を加え、腹部打撲等の過料約1週間を要する身体の生理的機能の障害を与えているため、XにはZに対する傷害罪も成立する。

3 では、Xが、自らが運転する自動車の運転席側ドアの下のステップに乗ったYを、車を加速させ蛇行させることにより車から振り落とし、路面に頭部を強打させた結果、頭蓋骨骨折及び脳挫傷等の大けがを負わせた行為に、殺人未遂罪(199条、203条)は成立しないか。

(1) Xの当該行為が、殺人罪の実行行為性を有するかが問題となる。実行行為とは、構成要件結果発生の現実的危険性を有する行為であるから、殺人罪の実行行為は、人が死亡する現実的危険性を有する行為をいう。そして、車から人間を振り落とす行為がこれに当たるか否かは、車高、走行態様、距離、道路状況等の諸般の事情を考慮して判断する必要がある。

 本問のような、ステップのついた車高の高い車の外側に人が捕まっている状態で急に速度を上げて急激に蛇行運転をする行為は、道路上に勢いよく転落させ、または後続車にはねられるなどして死亡させる現実的危険性を有する行為であるといえる。したがって、Xの当該行為は殺人罪の実行行為に当たるというべきである。

 そして、Xは、このような行為をすれば路面に頭などを強打する可能性を認識しつつ、あえて振り落とす行為に出ており、また、路面がアスファルトであるということも当然Xは認識していたはずであるから、約50キロという速度で疾走する車から無理やりYをアスファルトの上に振り落とし頭などを強打させれば人が死亡するという可能性は認識していたといえる。それにもかかわらず、Xはあえて当該行為に及んでいるのであるから、Xには少なくとも殺人罪未必の故意はあったといえる。

 よって、Xの行為はYに対する殺人未遂罪(199条、203条)の構成要件に該当する。

(2) もっとも、上記の行為は、ナイフをもってXに切りかかるYから逃れるための行為である。そのため、Xには正当防衛(36条)が成立し、違法性が阻却されるのではないか。

ア そもそもYの行為は、X自身行為に起因しているため、このような場合にも正当防衛が成立するかが問題となる。

 ここで、①自らの行為により侵害を招いたといえるような場合には、②招かれた侵害が自らの暴行の程度を大きく超えるものでないなど、通常予想される範囲内にとどまっている限り、相手方による侵害はそれを違法な先行行為により招いた者との関係では、正対不正の関係を欠き、およそ正当防衛は成立しえないものと解される。

 本件では、Xの暴行によりYは逆上し、逃げようとするXにナイフで切りかかったものであるから、Yの侵害はXの行為によって招かれたものといえる(①)。もっとも、Xはあくまで素手でYらに攻撃をしていたにとどまり、背中を見せて逃げるXに対し、刃体の長さ約10センチという殺傷能力の高いナイフで攻撃し、さらに執拗に攻撃を加え続けようとするXの態度は、通常予想される範囲にとどまっているとは言えない(②)。よって、正当防衛の成立はありうる。

イ 「防衛のため」とは、防衛の意思に基づくことを言う。そして防衛の意思とは侵害を認識しそれに対処する単純な心理状態を指し、攻撃の意思と併存していてもよいと解される。本件では、Xは殺意を持ってはいたものの、Xが運転席のドアを閉め車を発進させてもなお車にしがみつき執拗にXに攻撃を加えるYから逃れるための行為であったのであるから、防衛の意思も併存していたと認められる。

ウ 「やむを得ずした行為」とは、当該行為が侵害を除去するために必要かつ相当な行為であったことをいう。本件では、Xが車を発進させてもナイフをXが車の中に落としてもなお追跡をあきらめず、車にしがみついて窓ガラスをたたきながら、「降りてこい」などと言っていたYのXへの攻撃意思は極めて強い。そのようなYから逃れるため、車から排除し、逃走を試みようとする行為はYの侵害から逃れるために必要であったといえる。しかし、YはナイフをXの車の中に落とし容易に回収できない状態にあり、Xはそれを認識していた。加えて、Yはあくまで車の中にしがみついているだけであり、Xが自らドアを開けたりしなければ容易にXに暴行を加えることはできない状態にあった。そうであるなら、低速で進行してYがあきらめるのを待ったり、社内に立てこもりつつ警察を呼ぶなどの対処も可能であったといえ、急加速・急転回でYをアスファルトに振り落とすという死傷の結果が生じかねない行為はやりすぎであり、相当性を欠くというべきである。

エ よって、Xには正当防衛は成立せず、Xの行為の違法性は阻却されない。

(3) しかし、急迫性や防衛の意思は備わっており、あくまで防衛の程度を超えた行為に過ぎないから、過剰防衛(36条2項)が成立するというべきである。

4 罪数

 よって、XにはYに対する傷害罪、殺人未遂罪、Zに対する傷害罪が成立し、そのうちの殺人未遂罪は過剰防衛となるので刑の任意的減免を受け、これらの罪は併合罪(45条)となる。

 

1 自招防衛

(省略)

 

2 積極的加害意思                    

 そもそも、「急迫」とは、法益侵害が現に存在しているか、又は間近に迫っていることをいう。そして、私人に侵害回避義務を課すのは国民の自由確保の見地から妥当ではないので、単に侵害を予期していたのみでは急迫性は失われないと考える。

 もっとも、36条1項が急迫性を要件とした趣旨は、法秩序の侵害の予防・回復を国家が行う暇がない場合に補充的に私人に緊急行為を許すという点にある。そして、予期される侵害の機会を利用して積極的に相手に対して、加害行為をする意思で侵害に臨んだときは、もはやかかる緊急行為性が欠けているといえる。

 そこで、積極的加害意思が認められる場合には、侵害の急迫性をみたさないと考える。

 

◆侵害の予期あり:急迫性の問題として論じる

⇒積極的加害意思があれば急迫性否定

=正当防衛制度の趣旨からおよそ正当防衛の成立を認めるべきではない

◆侵害の予期なし:急迫性肯定→防衛の意思の問題として論じる ←現場で積極的加害意思が生じた場合

⇒もっぱら攻撃の意思の場合は防衛の意思を否定

⇒攻撃の意思と防衛の意思が並存しているにとどまる場合には防衛の意思肯定

※あえて現場に行く合理的必要性はないにもかかわらず、侵害行為を受けることを十分に分かった上で現場に行くという客観的事実経過から、積極的加害意思があると認定でき、急迫性を否定する。

  

3 防衛の意思

(省略)

 

第11講 過剰防衛

1 防衛行為の相当性

設問1  (重複するので省略)

  • メモ

 「やむを得ずにした」とは、防衛手段として必要最小限であること、すなわち、反撃行為が侵害に対する防衛手段として、相当性を有するものであることをいう。そして、相当性は、①侵害にさらされている法益、②侵害者の凶悪性・危険性、③侵害行為・防衛行為の態様等の事情から総合的に判断す

2 過剰防衛と防衛行為の特定

設問2

(省略)