○○法ガールになりたい。

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百選・Law Practice会社法 起案 25~52

  

25 株券の発行  最高裁昭和4011月16日第三小法廷判決

【事実の概要】 Y会社は、発起人であるXに株式発行の準備を完了していた(Xに対して株券の交付はまだしていなかった)。訴外A銀行は、Xに対する公正証書の執行力のある正本に基づいて、X名義の株券を差し押さえた。この株券は競売に付され、Bが競落人となり、名義書換を完了した。XはYに対して、同社の株式 2000 株を有する株主である旨の確認を求めて訴えを提起した。

【まとめ】 215 条にいう「株券の発行」とは、216 条所定の形式を具備した文書を株主に交付することをいい、株主に交付したとき初めて当該文書が株券となるものと解すべきである。したがって、たとえ会社が前記文書を作成したとしても、これを株主に交付しない間は、株券たる効力を有しない。よって、株主に対する適法な交付がなされる以前になされた本件強制執行は、有効な株券に対する強制執行としての効果は有しない。

 

26 株券提出期間経過後の名義書換請求  最高裁昭和603月7日第一小法廷判決

【事実の概要】 Xは訴外BからY会社の株式の譲渡を受け、株券を交付された。昭和 54 年 6 月 28 日Y会社は、株式の譲渡をするには、取締役会の承認を要する旨の定款変更決議を行った。Y会社は、同年8月31日までに株券を会社に提出すべき旨の公告をなした。Xは上記期間内に株券を提出せず、株券提出期間終了後に株主名簿の名義書換を求めたところ、Y会社が拒否したため、Xは名義書換を求める本件訴えを提起した。

【まとめ】 株式譲渡制限の定款変更が行われ、株券提出期間内に株券を提出しなかった株式譲受人による名義書換請求は認められるか、株券を提出しなかった譲受人は、株主としての地位まで失うことになるのかが問題となる。これについて、旧株券は、株券提出期間が経過したのちは株券としては無効となる。しかし、株券提出期間内に旧株券を提出しなかった株主も株主たる地位を失うものではない。このことは、株式譲渡制限の定款変更前に株式を譲り受け、株主の地位を取得していたが、いまだ株主名簿上の名義書換を受けていなかった者についても同様である。旧株券が株券としては無効となった後であっても、会社に対し、旧株券を呈示し、株券提出期間経過前に右旧株券の交付を受けて株式を譲り受けたことを証明して、名義書換を請求することができるものと解するのが相当である。

  • 株券発行会社が株式譲渡制限のための定款変更の株主総会決議をした場合、株券を回収して譲渡制限がある旨を記載した新株権(216条3号)を交付するための手続きが定められている(219 条、220 条)。この手続きをまず理解すること。

 

27  募集事項の公示の欠缺  最高裁平成91月18日第三小法廷判決

【事実の概要】 Y会社はA及びBに新株を発行したところ、この新株発行は、201条3項、4項が定める募集事項の公示の欠缺があった。そこで、Y会社の株主であったXは、新株発行無効の訴えを提起した。

【問題の所在】 新株発行の無効は、新株の引受人や譲受人、会社債権者など多数の利害関係者に影響を及ぼすことになるため、あらゆる瑕疵が新株発行の無効原因となると解するのは妥当でない。したがって、新株発行無効の訴えにおける無効原因は、このような利害関係者の利益を犠牲にしても新株発行を無効とするべき重大な法令・定款違反に限られると解する。新株発行に関する事項の公示(201条3項、4項)は、株主が新株発行差止請求権(210条)を行使する機会を保障し、もって募集株式の発行等が適法かつ公正に行われることを確保することを目的として会社に義務付けられたものである。したがって、新株発に関する事項の公示を欠くことは、重大な法違反といえ、新株発差止請求をしたとしても差止めの事由がないためにこれが許容されないと認められる場合でない限り、新株発行の無効原因となると解する。本件では、Y社の株主総会を開催するに際して、Aが自己の支配権を確立するためになされたものと認められ、新株を引き受けた者が真実の出資をしたとはいえないという事情があるため(不公正発行)、新株発行差止請求の事由がある。よって、新株発行に関する事項の公示を欠くことは、新株発行無効原因となる。

 

28 募集新株予約権の有利発行  東京地裁平成186月30日

【事実の概要】 本件は、情報通信機器等の販売及びリース等を主要な事業内容とする株式会社であって、東京証券取引所第一部及び大阪証券取引所第一部に上場する債務者の募集新株予約権の発行について、その払込金額が「特に有利な金額」による発行であるのに株主総会の特別決議を経ていないため、会社法240条1項、238条2項及び3項2号並びに309条2項6号の規定に違反しているなどとして、債務者の株主が債権者として、その発行を仮に差し止めることを求めた事案。

【まとめ】 ここに、「特に有利な金額」(会社法238条3項2号)による募集新株予約権の発行とは、公正な払込金額よりも特に低い価額による発行をいう。そして、募集新株予約権の公正な払込金額とは、現在の株価、行使価額、行使期間、金利、株価変動率等の要素をもとにオプション評価理論に基づいて算出された募集新株予約権の発時点における価額(公正なオプション価額)をいうと解されるから、公正なオプション価額と取締役会において決定された払込金額とを比較し、取締役会において決定された払込金額が公正なオプション価額を大きく下回るときは、原則として、「特に有利な金額」にあたるというべきである。 本件では、公正なオプション価額の算定において、二項格子モデルを評価理論にとして採用することはではないとしている。

  • 本決定は、その算定に際して、本件募集新株予約権に取得条項(会社法236条1項7号)が付されていることを考慮して、当該取得条項に従い債務者の取締役会が権利行使期間の初日に取得日を定める決定をすることを前提として、取得条項が付されていない場合に比較して公正なオプション価額を低くするという修正を債務者が加えている点について、以下のように判断。

⇒ ①債務者は、本件募集新株予約権の発行の目的は社債の償還費用としての借入金の返済に充てることにあると主張しており、その主張どおりであるとすると、権利行使期間の初日に債務者の取締役会が取得日を定める決定をしたのでは、このような資金調達の目的を達成することはおよそ不可能であること、②募集新株予約権者にとってみても、取得条項が付されていることからすれば、経済合理性の観点から、債務者の取締役役会が権利行使期間の初日に取得日を決定することが当然に予想され、そうすると、新株予約権者は払込総額に対する金利相当額の損失を受けるのは必至であり、本件募集新株予約権の申込み及び払込みをしないのが合理的であるといえるにもかかわらず、あえて申込み及び払込みをするとの意向を示していることからすると、債務者の取締役会において、権利行使期間の初日に取得日を定める決定をする可能性が高いとはいえないことを理由に、上記のような修正をしたことは、不合理であるというほかなく、このような算定結果に基づいて定められた本件募集新株予約権の払込金額は、公正なオプション価額を大きく下回るものであるということができ、有利発行にあたると一応認めることができると判断し、本件募集新株予約権発行の仮差止めの申立てを認容した。

 

29 違法な新株予約権の行使による株式の発行  最高裁平成244月24日第三小法廷判決

【事実の概要】 本件は、Y社の監査役であるXが、Y社の取締役であったZ1~Z3らによる新株予約権の行使は、行使条件を変更する取締役会決議が無効であるにもかかわらずそれに従ってなされたもので、当初定められた行使条件に反するものであるから、右新株予約権の行使による株式の発行は無効であると主張して、主位的に会社法828条1項2号に基づいて右株式の発行を無効とすることを求め、予備的に右株式の発行は当然に無効であるとしてその確認を求めた事案。

【論点】 ①旧商法(280条の21第1項)に基づく株主総会の委任を受けて定めた新株予約権の行使条件を、新株予約権発行後に変更する取締役会決議の効力。②会社法上、非公開会社において株主総会の特別決議を経ないまま株主割当て以外の方法によってされた募集株式発行の効力。③非公開会社が株主割当て以外の方法により発行した新株予約権の行使条件に反した当該新株予約権の行使による株式発行に無効原因がある場合。

⇒①取締役会が旧商法280条の21第1項に基づく株主総会決議による委任を受けて新株予約権の行使条件を定めた場合に、新株予約権の発行後に上記行使条件を変更することができる旨の明示の委任がされているのであれば格別、そのような委任がないときは、当該新株予約権の発行後に上記行使条件を取締役会決議によって変更することは原則として許されず、これを変更する取締役会決議は、上記株主総会決議による委任に基づき定められた新株予約権の行使条件の細目的な変更をするにとどまるものであるときを除き、無効と解するのが相当である。②新株発行の無効は、新株の引受人や譲受人、会社債権者など多数の利害関係者に影響を及ぼすことになるため、あらゆる瑕疵が新株発行の無効原因となると解するのは妥当でない。したがって、新株発行無効の訴えにおける無効原因は、このような利害関係者の利益を犠牲にしても新株発行を無効とするべき重大な法令・定款違反に限られると解する。非公開会社については、募集事項の決定は取締役会の権限とはされず、株主割当て以外の方法により募集株式を発行するためには、取締役に委任した場合を除き、株主総会の特別決議によって募集事項を決定することを要する(会社法199条1項、2項、309条2項5号)。また、株式発行無効の訴えの提訴期間についても、公開会社の場合は6ヶ月であるのに対して、非公開会社の場合は1年とされている(会社法828条1項2号)。このような規定に鑑みると、非公開会社については、その性質上、会社の支配権に関わる持株比率の維持に係る既存株主の利益の保護を重視し、その意思に反する株式の発行は株式発行無効の訴えにより救済するというのが会社法の趣旨であるというべきである。したがって、非公開会社において、株主総会の特別決議を経ないまま株主割当て以外の方法による募集株式の発行がされた場合、その発行手続には、利害関係者の利益を犠牲にしても新株発行を無効とするべき重大な法令違反があるといえる。よって、このような瑕疵は新株発行無効の訴えにおける無効原因となる。③非公開会社が株主割当て以外の方法により発した新株予約権株主総会によって使条件が付された場合に、この使条件が当該新株予約権を発した趣旨に照らして当該新株予約権の重要な内容を構成しているときは、上記使条件に反した新株予約権使による株式の発は、これにより既存株主の持株比がその意思に反して影響を受けることになるという点において、株主総会の特別決議を経ないまま株主割当て以外の方法による募集株式の発行がされた場合と異ならないため、そのような新株予約権の行使による株式の発行には、無効原因があるというべきである。

 

Law Practice20 新株発行の無効事由

1 X は、公開会社である Y に対して、本件新株発行から「6 ヶ月以内」である平成 29 年 9 月に本件新株発行無効の訴え(829 条 1 項 2 号)を提起している。では、これは認められるか。

2 授権資本制度の下、募集株式の発行等は業務執行に準ずる行為といえるところ、発行がなされた後は、取引安全の要請が強いといえる。そこで、募集株式の発行等の無効原因は、かかる取引安全要請を考慮してもなお容認し得ないような重大な瑕疵ある場合に限るべきであると考える。

(1) ①募集事項の公示がないこと

通知・公告を欠いた募集株式の発行等を取引安全のためにすべて有効としたのでは、差し止めの機会を与えて株主の利益を保護しようとした法の趣旨を全く無視することになってしまう。また、通知公告を要求した趣旨は、株主に差し止めの機会を与える点にあることにも鑑みれば、通知公告を欠いた募集株式の発行は、取引安全要請を考慮してもなお容認しえないような重大な瑕疵があるといえ、原則として無効となるとすべきである。他方で、全く無効としてしまったのでは、取引の安全を著しく害することになる。そこで、会社法210条の差止事由がないことを会社側が立証した場合には、重大な瑕疵がなく、例外的に無効原因とならないと考える。

しかし、本件においては下記の通り法令違反、著しく不公正な発行であるという差止事由があったことから、これは無効原因となる。

(2) ②取締役会の招集手続に瑕疵があること

 本件新株発行を決議した Y 取締役会において取締役 B に対する招集通知(368 条 1 項)がなく、また取締役全員の同意もない(同 2 項)ところ、取締役会決議の招集決議に瑕疵がある。瑕疵のある取締役会決議は法の一般原則に従って無効となり得る。しかし、公開会社の新株発行は、取引の安全を重視し、会社の代表者が定款の授権内で新株発行をしている限り必要な会社の機関の承認を欠くというだけでは重大な瑕疵とはいえず無効事由にはならないと解する。本件において、新株発行は Y の代表者たる代表取締役 A が定款の授権内でなされている。そのため、上記瑕疵は重大な瑕疵とはいえず無効事由とならない。したがって、②は無効事由にならない。

(3) ③不公正発行であること

著しく不公正か否かは主要目的から判断するが、これに当たるかの判断は難しいことから、これを無効原因とすると取引安全を著しく害する。また、株主には、新株発行の事前差し止めという手段が認められているのであるし、公開会社においては株主の持株比率の維持の利益を保護することはそれほど要請されていないことから、著しく不公正な方法により発行された募集株式の発行は、取引安全要請を考慮してもなお容認し得ないような重大な瑕疵があるとはいえず、有効であると解する。したがって、③も無効事由にならない。

(4) ④払込みを欠くこと

会社法制定により、新株発行の登記がなされたにもかかわらず引受けがない株式がある場合には取締役が連帯して当該株式を引受けたとみなす旨の規定(前商法280条の13)が廃止された。そのため、会社法制定後は、払込みを欠く場合に引受人ひいては株主となる者がいなくなるところ、当該新株発行は不存在である。そこで、払込みを欠くことは重大な瑕疵といえ、無効事由になると解する。

したがって、④は無効事由となる。 ※cf 仮装払込(私見)

3 よって、X の上記請求は認められる。

第6 問題21 閉鎖会社における新株発行の無効事由について

1 Xは、本件において、非公開会社である Y に対して本件新株発行から 1 年以内である平成 29年 3 月 1 日に提起した本件新株発行無効の訴え(828 条 1 項 2 号)を提起している。では、認められるか。

2 新株発行の無効事由については明文の定めがないところ、どのような事由が無効事由となるか問題となる。新株発行が事後的に無効とされると会社は払込金額を返還する必要があるほか、発行された株式も無効になるなど法律関係の安定や取引の安全を害するおそれがある。そこで、新株発行に重大な瑕疵がある場合に限って無効事由になると解する。

(2) ①特別決議を欠くこと

会社法上、非公開会社では募集事項の決定は取締役会の権限とはされず株主割当て以外の方法により募集株式を発行するためには、原則として株主総会の特別決議によって募集事項を決定することが必要である。また非公開会社についての株式発行無効の訴えの出訴期間は、公開会社より長い 1 年とされている。これらの点を鑑みれば、非公開会社については性質上、会社の支配権に関わる持株比率の維持に係る既存株主の利益保護を重視し、その意思に反する株式の発行は、株式発行無効の訴えにより救済するのが法の趣旨であると解される。そこで、非公開会社の新株発行において特別決議を欠くという瑕疵は重大な瑕疵といえる。

したがって、①は無効事由となる。

(3) ②不公正発行であること ※不公正発行であることの認定は省略

確かに、著しく不公正か否かは主要目的から判断するが、これに当たるかの判断は難しいことから、これを無効原因とすると取引安全を害してしまいかねない。もっとも、非公開会社である場合には、株式の移転は頻繁には起こり得ないためさほど取引の安全を考慮する必要はない。他方で、株主の持株比率維持の利益の保護が要請されるから、特別決議を欠く著しく不公正な方法による発行は、無効であると考えるべきである。

3 よって、X の上記請求は認められる。

 

31  株主提案の取扱い  東京高裁平成245月31日決定

【事実の概要】 Y1の株主Xが、平成24年6月開催予定のY1定時株主総会(本件株主総会)の招集通知または株主総会参考書類に自己の提案する議題、議案の要領と提案理由を記載するようY1に請求したところ(本件請求)、Y1は、本件請求が株主提案権の濫用にあたるとして、X提案議案の全部を付議しないとする通知を行うとともに、本件請求を拒絶した。

そこで、Xは、本件株主総会の招集通知等に本件提案等を記載することをY1および同取締役兼代表取締役Y2、Y3に命じる仮処分(民保23条2項)の申立てを行ったという事案。

【まとめ】 株主提案権も権利である以上、その濫用は許されない(民法1条3項参照)ことは当然であり、その行使が、主として、当該株主の私怨を晴らし、あるいは特定の個人や会社を困惑させるなど、正当な株主提案権の使とは認められないような目的に出たものである場合には、株主提案権の使が権用として許されない場合があるというべきである。株主提案権は、共益権の一つとして少数株主に認められた権利であるから、株主提案に係る議題、議案の数や提案理由の内容、長さによっては、会社又は株主に著しい損害を与えるような権利行使として権利濫用に該当する場合がある。

 

32  議決権行使の代理人資格の制限  最高裁昭和4311月1日第二小法廷判決

【事実の概要】 Y会社の定款には、「株主は、代理人をもって議決権を行使することを得、ただし、代理人は、当会社の株主に限るものとする」という規定が設けられていた。Y会社の株主総会では、この定款に反する形で議決権行使があったため、株主であるXは総会決議取消し(831 条 1 項 1 号)を求めた。

【まとめ】 310 条 1 項本文の趣旨は、株主総会に出席できない株主の議決権行使の機会を実質的に保障する点にある。議決権の行使は、株主の意思を適切に株主総会に反映させる重要な権利であるから、最大限保障される必要がある。他方で、株主総会が株主以外の第三者によって撹乱されることを防止し、会社の利益を保護する要請もある。そこで、①資格制限の根拠に合理性が認められ、②その制限が相当である限りにおいて代理人資格を定款により制限することは 310 条 1 項前段に反しないと解する。

  • 今日では、有効説といえども画一的な定款規定の適用を押し通すわけではない。総会が撹乱されて会社の利益が害されるおそれがなく、株主の議決権行使の機会が奪われる場合には、定款規定の射程を制限的に解釈し、個別例外的に非株主による議決権の代理行使を認めている。

 

Law Practice23 議決権行使の代理人資格について

1 株主でないBがAの代理人としてした議決権行使は、「決議の方法が…定款に違反」する(831条1項1号)といえ、株主総会決議取消の訴えの取消事由となるのではないか。

(1) 310条1項は、代理人による議決権行使を許容している。そこで、そもそも、代理人資格を株主に限る旨を定めた本件定款規定は、同条に反し無効でないかがまず問題となるが、代理人資格を株主に制限する旨の定款規定の趣旨は、株主総会が株主以外の第三者によって撹乱されることを防止し、もって会社の利益を保護する点にあり、合理的な理由による相当程度の制限であるといえるから、代理人資格を株主に制限する旨の定款規定自体は有効であると解すべきである。

もっとも、代理人による議決権行使は、株主に議決権行使を容易にし、その行使の機会を保障するという観点から重要な権利である。そのため、具体的事情を考慮して、①会社利益が害される危険性が低く、②議決権の代理行使を認めなければ事実上株主の議決権行使の機会が奪われてしまうといえるような場合には、当該定款の効力は及ばないと解する。 ※イメージは合憲限定解釈みたいな感じ。

(2) 本件において、まず代理人資格を株主に制限する旨が定められた本件定款規定は有効である。もっとも、問題となっている議決権を有していたAは法人や地方自治体というわけではない。また、Aが自ら議決権を行使するために株主総会に出席することができないという事情もない。そうすると、Aの議決権の代理行使を認めらければ事実上株主A の議決権行使の機会が奪われてしまうとはいえない(②不充足)。

そのため、本件定款規定の効力はAの議決権行使に及ぶ。

(3) したがって、株主でないBが A の代理人としてした議決権行使は「決議の方法が…定款に違反」するといえ、取消事由となる。

2 もっとも、本件で議決権を行使したBはAの娘であるところ、受付で資格確認を経て、本件総会の会場に入場し議決権を行使している。それゆえ、株主総会を撹乱して会社の利益を害する危険性は低かったものといえる。

さらに当該議決権は1個にすぎないところ、本件総会における議案はすべて圧倒的多数による賛成票により成立している。そして、このような議決権を1個しか有しないBの発言力・影響力によって決定が左右されたという事情もない。そうすると、当該議決権が賛成票・反対票いずれであったかは本件決議の結論に全く影響しなかったものといえるから、「その違反する事実が重大ではなく、かつ、決議に影響を及ぼさないものであると認められる」(831条2項)。

したがって、裁判所は、X の提起した本件決議取消の訴えを棄却することができる。

3 よって、X の請求は認められない可能性が高い。

 

33  従業員持株制度と株式信託契約の有効性  阪高裁昭和5810月27日決定

【事実の概要】 Yはタクシー業を営む株式会社であり、従業員持株制度を採用している。それによるとYには共済会が設けられており、従業員は株式取得にあたり共済会の理事と議決権を理事が行使すること(但し、配当請求権残余財産分配請求権は委託者に帰属する)を内容とする株式信託契約を締結しなければならないことになっている。Xら26名は、Yの従業員で各自200株の株主であるが、会社法358条による検査役の選任を求めた。これに対して、Yは、Xらは株主権を信託したから検査役選任請求権を行使することはできないと主張し、争った事案。

【まとめ】 議決権付株式の議決権は株主の同意なくしては奪うことのできない固有権であるところ、議決権を共同して行使する目的をもってする株式の信託的譲渡は原則として有効である。もっとも、信託契約の意図により、会社法310条2項の脱法となる場合、あるいは、株式会社法の精神または公序良俗に反する場合は、例外的に無効となると解する。本件についてみると、Yの従業員は、従業員持株制度によって株式を取得することができるものの、株式信託契約を締結しない者は株式を取得することはできないため、株式を取得するには株式信託契約を強制されることになり、株主として契約を締結するかどうかを選択する自由はない。また、信託期間は株主たる地位を喪失する時までというのであるから、契約の解除も認められていない。したがって、Yの株主は、信託契約の受託者による議決権の行使はあっても、自己が株主として議決権の行使をする術はないことになる。そして、株式信託制度がY関与のもとに創設されたことは記録上明らかであり、右信託契約は、株主の議決権を含む共益権の自由な行使を阻止するためのものといえるので、委託者の利益保護に著しく欠け、会社法の精神に照らして無効というべきである。

株式配当請求権、残余財産分配請求権は委託者に帰属するとされ、信託の対象から除外されているが、共益権のみの信託は許されないものと解されるから、その点でも、右信託契約は無効である。

 

34  書面による議決権行使と委任状勧誘  東京地裁平成1912月6日判決

1 Xの、①株主側の委任状勧誘による議決権を株主提案の決議の際の母数に含めたのに対し、会社提案の決議の際の母数に含めなかったことは、決議方法の法令(309条1項)違反に当たり、本件株主総会は取り消されるべきではないか(831条1項1号)。

2 本件では、会社は株主総会において①のような集計方法をしている。これは、会社提案議案については賛否記載欄がなかったこと(勧誘内閣府令43条違反)、参考書類の提供がなされなかったこと(勧誘内閣府令1条1項2号イ,21条1項,2項,23条1項,2項違反)を理由に、会社提案の賛否についてはその委任の効力が及んでいないと会社が判断したことに基づく。

そこで、会社提案の賛否について、その委任の効力が及んでいるかが問題となる。

(1) 委任状勧誘規制の趣旨は、勧誘に応じるべきか否かの判断材料を株主に提供しその株主が熟考のうえ勧誘をした者に対し委任をすることにより、その意思が実際に決議に反映され、決議を実質的なものとすることにもある。そうであるとすれば、上記のような場合でも、その合理的に推認される意思に合致する限り、委任は有効と言うべきであるそして、委任状府令の規定は議決権の代理行使の勧誘を行う者が勧誘に際して守るべき方式を定めた規定というほかなく、議決権の代理行使の勧誘は株主総会の決議の前段階の事実であって、株主総会決議の「方法」ということはできない

(2) 本件においては、XらとY社経営陣との間で経営権の獲得を巡って紛争が生じていることからXらがその提案にかかる取締役及び監査役候補者の選任に関する議案を提出し、株主に対して議決権の代理行使の勧誘を行ってきた場合に、Y社からもいずれその提案にかかる候補者の選任に関する議案が提出されるであろうことが株主にとって顕著であったといえる。また、Y社の定款に定められた取締役及び監査役の員数の関係から、本件株主提案に賛成し、Xに議決権行使の代理権を授与した株主は、本件会社提案にかかる候補者については賛成の議決権行使をする余地がなかったことからすると、本件株主提案に賛成する議決権行使の代理権を授与した株主は、Y社から提案が予想される議案に反対する趣旨で代理権授与を行ったと解される。

 また、株主が自らの提案に賛成するとともに会社提案に反対することを内容とする議決権代理行使の勧誘をするためには常に会社提案についても賛否を記載する欄を設けた委任状を作成しなければならないと解することは、(その情報量の差、会社が招集通知とともに議案提案をするのは株主総会の2週間前でよく、それまでは株主は会社が具体的にどのような提案をするのかさえわからないことを考慮すると、)株主に対する議決権代理行使の勧誘について会社と株主の衡平を著しく害する結果となると言わざるを得ない。

そうであるとすれば、本件委任状の交付を以て、本件会社提案についての株主からXに対する議決権行使の代理権の授与を認めたとしても、議決権代理行使勧誘規制の趣旨に必ずしも反するものではないということができる。

よって、本件委任状が本件会社提案について賛否を記載する欄を欠くことは、本件会社提案にかかる候補者についてのXに対する議決権行使の代理権授与の有効性を左右しないと解するのが相当である。

(3) そうだとすれば、本件会社提案に係る議案の採決に際しては、本件委任状にかかる議決権数は出席議決権に参入し、かつ、本件会社提案に対し反対の議決権行使があったものと取り扱うべきであり、本件各決議はその方法が法令に違反したものとして決議取消事由を有すると言わざるを得ない。

(4) ただし、Y・Q以外の6名の取締役及び3名の監査役の選任議案については,かかる取扱いによった場合でも,出席議決権数の過半数の賛成を得たという結果には変更がないことが認められ,本件集計方法によったことは,議決権行使の集計における評価の方法を誤ったのみであって違反する事実が重大とまではいえないし,決議に影響を及ぼさないものであると認められるから,会社法831条2項により,K,L,M,N,O,Pを取締役に選任する旨の決議並びにH,R及びSを監査役に選任する旨の決議の取消しの請求は,棄却されうる。なお,本件においては各議題につき候補者の数だけ議案が存在するのであるから,決議としては候補者ごとに別個のものと解さざるを得ず,このような別個の判断は妥当である。

2 では、②「会社提案のご賛同の上」議決権行使をすることを強く推奨した上で、議決権を行使した者に対してQUOカードを贈呈したことは、会社法の禁止する利益供与(120条)に当たり、決議方法に法令違反があったとして、取り消しの対象とはならないか。

(1) 利益供与は会社法上厳しく制限されている(120条、970条)以上、原則として全て禁止されるべきである。尤も、慣行上の必要性から、形式的には利益供与にあたっても例外的に違法とならない場合を認めざるを得ない。特に上場企業の株主総会においては株主の合理的無関心の結果として定足数が満たせなくなることを塞ぐために出席時のお土産屋議決権行使に対する謝礼として少額の金品を会社が株主に贈呈することがしばしばある。

(2) そこで、議決権行使の促進という目的の合理性から社会通念上相当な範囲であれば許容されうると解する。具体的には、①株主の権利の行使に影響を及ぼす恐れのない正当な目的に基づき供与される場合で、かつ、②供与額が社会通念上許容される範囲のものであり、③供与総額も会社の財産的基礎に影響を及ぼさないものであるときには許容される余地があると解する。

 本件においては、確かに議決権行使の内容方法を問わずに贈呈されることとなっており、株主間の機会均等等が確保されていたとも思えるが、ア.Y社が株主に送付したはがきにおいてQUOカードの贈呈と会社提案への賛同要請の相互の関連を印象づける記載がされていること、イ.前年の定時株主総会においてはこのような措置がなされていなかったこと、ウ.利益供与があって初めて議決権を行使するような株主は会社が発送した議決権行使書面を白紙で返送する可能性が高く、そうである以上、その結果会社提案に賛成、株主提案に反対として取り扱われる可能性が高かったこと、エ.そして現にQUOカードの贈呈が株主による議決権行使に影響を及ぼしたと評価できることを考慮すると、本件贈呈は会社提案へ賛成する議決権行使の獲得をも目的としたものであることが推認される。そうであるとすれば、(1)であげた①の要件を満たさず、本件贈呈は、120条1項の禁止する利益供与に当たるとするのが相当である。

(3) よって、本件QUOカードの贈呈は120条1項に反し、議決権行使を条件としてQUOカードを贈呈するということは決議の方法というほかないから、取消事由に該当する。

(4) また、株主の権利行使に関する利益供与禁止違反の事実は重大であって、本件贈呈が株主による議決権行使に少なからぬ影響を及ぼしたことが窺われることは上記のとおりであるから,裁量棄却の余地もない。

 

Law Practice26 委任状勧誘

1 Y 社の株主である X は、①Y 社による委任状勧誘が委任状府令の定める手続に従っていないこと、②X が勧誘した委任状について出席議決数として算入するか否かの取り扱いを本件会社提案と本件株主提案とで別異に取り扱ったことが決議方法の法令違反であると主張し、本件決議取消しの訴えを提起する(831 条 1 項 1 号)。

2 (1) ①委任状勧誘の委任状府令違反

委任状勧誘行為は株主総会決議の前段階の事実行為にすぎず、勧誘によって株主総会において議決権行使が強制させるものではない。そこで、委任状勧誘について委任状府令違反があったとしても、それは決議方法の法令違反とはいえないと解する。

本件において、たしかに Y 社による委任状勧誘は委任状府令違反であるが、これは決議方法の法令違反ではない。

したがって、①は取消事由にならない。

(2) ②出席議決数として算入するか否かの取り扱い

ア 委任状には会社提案の賛否欄がないことで会社提案についての議決権行使の代理権授与が無効となるか。X が勧誘した委任状(以下「本件委任状」)について出席議決数として算入するか否かの取り扱いを本件会社提案と本件株主提案とで別異に取り扱っている。そこで、X による委任状勧誘に基づく委任状には会社提案の賛否欄がないから、本件委任状は委任状府令43 条に反し無効であって、本件委任状による会社提案についての議決権行使の代理権授与も無効となるのではないかが問題となる。

株主が自らの提案に賛成するとともに会社提案に反対することを内容とする議決権代理権行使の勧誘をするためには、常に会社提案についても賛否を記載する欄を設けた委任状を作成する必要があると解することは、後述のとおり会社提案を知るより前に議題提案権を行使する必要がある株主と会社と公平を著しく害する。そこで、委任状勧誘に基づく委任状には会社提案の賛否欄がないという点をもって、委任状による会社提案についての議決権行使の代理権授与も無効となるとはいえないと解する。

したがって、本件委任状に本件会社提案の賛否欄がないことで本件会社提案についての議決権行使の代理権授与が無効になるとはいえず、Y の上記主張は認められない。

イ X と Y 経営陣との間で経営権をめぐる争いがあり、本件株主提案と本件会社提案が完全に対立する内容となっている本件においては、本件株主提案に賛成し本件委任状を X に提出した株主は、本件委任状によっては本件会社提案に賛成しない趣旨で、X に議決権行使の代理権授与を行ったと合理的に推認できる。

また本件会社提案は本件総会の 2 週間前に明らかにされるところ(299 条 1 項参照)、8 週間前までに会社に議題提出権を行使する必要がある(303 条 2 項)。X が本件委任状の賛否欄を設けてその勧誘を行うことは事実上困難である。したがって、理由なく上記のように別方法で集計した点②は決議方法の法令違反といえる。

ウ そして上記違法は、「違反する事実が重大でなく」(830 条 2 項)とはいえないため、裁判所は裁量棄却することはできない。

3 よって、X の上記請求は認められる。

 

35  取締役の説明義務と一括回答  東京高裁昭和612月19日判決

【事実の概要】 本判決は、会社法314条にいう取締役等の説明義務が尽くされていないなどとして、株主総会の決議取消しを求めた事案。Xは、取締役は、株主からあらかじめ提出されていた質問状に対して、質問者を明らかにしないで一括回答をしたが、このような説明は、会社法314条にいう説明に該当しない等主張した。

【まとめ】 会社法314条は、「株主から特定の事項について説明を求められた場合」と規定しているため、取締役等の具体的な説明義務は、総会において説明を求められて始めて生ずるものというべきである。会社法314条の趣旨は、議題に関する質疑応答の機会を保障することにある。そこで、取締役等の説明義務の範囲は、株主が株主総会の目的である事項を合理的に判断をするために客観的に必要と認められる事項に及ぶと解する。そして、その程度は、一見資料等を参考として、平均的な株主が議決権行使の前提として、当該事項を判断することができる状態に達するものであるかどうかによるべきと解する。

⇒ 一括回答であったとしても、上記説明義務の範囲、程度を満たす場合には、説明義務を尽くすものとして、違法ではない。

Law Practice24 取締役等の説明義務

1  Y 社株主 X は、本件決議の取消訴訟(831 条 1 項)を提起することが考えられる。

そして、その中で、本件総会において Y 代表取締役 D は X の質問に対して説明義務(314 条本文)を負うにもかかわらず、これを怠ったと主張し、よって、「決議の方法が法令…に違反」する(831 条 1 項 1 号)取消事由に該当すると主張する。

2 (1)  説明義務の成否

取締役等が、株主総会において株主から特定の事項について説明を求められたときは当該事項について必要な説明をする義務を負う(314 条本文)。もっとも、同条ただし書に該当する場合には説明義務はない。

本件において、株主 X が代表取締役 D に対し、退職慰労金額を明らかにするよう質問している。そして、同質問に対する説明が退職する取締役 A らの権利を侵害する(314 条ただし書、規 71 条 2 号)とはいえないから、この例外事由には該当しない。また他の例外事由にも該当しない。

したがって、D は説明義務を負う。

(2) 説明義務違反

そもそも、退職慰労金は在任中の職務執行に対価であるところ、361 条 1 項の「報酬」に当たり株主総会の決議が必要であるところ、その趣旨は、いわゆるお手盛りの弊害を防止し、会社および株主の利益を守る点にあるため、株主総会退職慰労金額等の決定を無条件に取締役会に一任することは、法の趣旨に反して許されず、株主総会でその金額または最高限度額を決定するか、明示的または黙示的にその支給に関する基準を示したうえでそれに従った具体的な金額等を取締役会に決定させる必要がある。

本件においては、その株主総会において、X は、退職慰労金議案の審議に際してその額を明らかにするよう質問しているのである。そして、取締役等による説明は、平均的な株主が議題について合理的な理解および判断をするために客観的に必要と認められる程度に行う必要があると解すべきところ、上記趣旨からは、①上記基準の存在、②それが株主に公開されており周知のものであること、③その内容が支給額を一義的に算出できることを説明して、はじめて平均的な株主が議題について合理的な理解および判断をするために客観的に必要と認められる説明が行われたというべきである。しかし、本件において、D は、②支給基準が株主に公開されていること、③その内容が支給額を一義的に算出できることを説明していない。そのため、平均的な株主が議題について合理的な理解および判断をするために客観的に必要と認められる説明はない。

したがって、説明義務違反があり、上記取消事由が認められる。

(3) 裁量棄却

そして、株主の利益を守るという法の趣旨に鑑みると、上記法令違反は「その違反する事実が重大でな」い(831 条 2 項)とはいえないため、裁量棄却をすることはできない。

(4) 結論

よって、X の上記請求は認められる。

 

36  他の株主に対する招集手続の瑕疵と決議取消しの訴え  最高裁昭和 42 9 月 28 日第一小法廷判決

【事実の概要】 Y会社の株主であるXから株式を譲り受けたAは、Y会社に対し名義書換請求を行った。しかし、Y 会社は正当な理由がないのにAからの名義書換請求に応じなかった。その後、Y会社では臨時株主総会と定時株主総会が開催されたが、Aは招集通知を受けなかった。そこで、Xは、Y会社に対して、招集手続きに法令違反があるとして、株主総会決議取消しの訴え(831 条 1 項 1 号)を提起した。

【まとめ】 他の株主に対して招集手続の瑕疵があった場合、自己の利益が害されたわけではない株主が株主総会取消しの訴えを提訴できるか。831条1項1号は、提訴できる者を「株主等」と規定するのみで、何ら限定を加えていない。また、そもそも、株主総会決議取消しの訴えは、瑕疵のために公正な決議の成が妨げられたという意味で、抗議を認める制であるから、決議の公正について害関係を有する他の株主にも原告適格を認めることが制趣旨に沿う。そこで、株主は自己に対する株主総会招集手続に瑕疵がなくとも、他の株主に対する招集手続に瑕疵のある場合には、決議取消の訴えを提起することができると解する。

 

37  決議取消しの訴えと取消事由の追加  最高裁昭和 51 12 月 24 日第二小法廷判決

【事実の概要】 Y会社は、昭和 43 年 5 月 24 日に株主総会を開催した。同社の株主であったXは、本件株主総会は決議方法に法令・定款違反があるとして、総会決議取消しの訴えを提起した。Xは、昭和 43 年 12 月になって、主張を追加した。

【まとめ】 そもそも、総会決議取消訴訟の提訴期間を 3 ヶ月という短期に限った趣旨は、会社の業務は当該決議が有効であることを前提に、それを基礎に執行されることから、瑕疵ある決議の効力を早期に確定させることにある。そうであれば、所定の期間経過後に新たな取消事由を追加主張することは 831 条 1 項の期間制限の趣旨に反し、許されないと解する。なお、無効原因として主張された瑕疵が決議取消事由に該当するものであり、しかも決議の取消しの訴えの原告適格・出訴期間の要件が満たされていたときは、たとえ決議の取消しの主張が出訴期間経過後になされても、決議無効確認訴訟の提起時から決議の取消の訴えが提起されていたものとして扱われる(訴えの変更、民訴 143 条、江頭)。

 

Law Practice27 株主総会決議取消しの訴え

1 (1)について

(1) Y 社株主 X としては、他の株主(C・D)に本件総会に係る招集通知が発せられていないところ、299 条 1 項に反するという招集手続の法令違反(831 条 1 項 1号)を主張して、本件決議の取消の訴えを提起することが考えられる。

(2) 条文上、株主総会決議取消しの訴えを提起できる者は「株主」と規定されるのみで何ら限定はない。また株主は株主総会の手続が全体として適正に行われていることについて正当な利益を有している。そこで、他の株主に関する手続の瑕疵を理由に株主総会決議取消しの訴えを提起する場合に株主には原告適格が認められると解する。

したがって、株主 X は上記訴えについて原告適格が認められるものと解する。

(3) よって、Xは、上記招集通知を欠くという瑕疵を、取消事由として、主張することができ、かつ、この請求は認められる。上記瑕疵は「違反する事実が重大」であるから裁判所は、裁量棄却することはできないためである(831 条 2 項)。

2 (2)について

(1) 本件決議は平成 24 年 3 月 15 日にされているところ、X が新しい取消事由に関する主張を追加しようとしている時点は、本件決議の日から「3 ヶ月」を経過した同年 7 月 31 日である。X による取消事由の追加主張は可能か。

(2) 取消事由の主張は攻撃防御方法の提出であるところ、出訴期間内に取消しの訴えが提起されていれば自由に新たな取消自由を主張することは許されるとも思える。しかし、法が株主総会決議取消しの訴えの出訴期間を 3 ヶ月と定めた趣旨は、決議の効力を早期に確定させ法的安定性を図る点にある。そうえあるとすれば、仮に新たな取消事由の主張を許せば、論点が拡大し法的安定性が損なわれるところ、法の趣旨に反するから、出訴期間後に取消事由を追加することはできないと解すべきである。

(3) そうすると、本件では、上記のように出訴期間後に X が取消事由を追加しようとしている以上、X は新たな取消事由(招集期間不足に関する瑕疵)を追加主張することはできないものというべきである。

3 (3)について

(1) 平成 24 年 8 月時点では、本件決議がされた日からすでに「3 ヶ月」経過するところ、出訴期間を過ぎている。そのため、X は本件決議取消しの訴えを提起することはできない。そこで、X としては、本件決議不存在確認の訴え(829 条 1 号)を提起して、その効力を争うことが考えられる。

(2) 不存在事由については明文の規定を欠くところ、解釈が必要である。不存在事由は、①決議が物理的に存在しない場合、②物理的には決議は存在するが、その手続の瑕疵が激しいため法律上決議が存在したとは評価できない場合に認められると解される。

本件において、発行済株式総数 100 株の Y 社株式を 20 株保有する C と 10株保有する D に対する招集通知がされていなかった。しかし、他の株主 7 名には実際に招集通知がされているところ、合計 30 パーセントの株式を保有する 2 人に対する招集通知漏れはごく一部の株主に招集通知を欠いたと評価できるにとどまる。そのため、②物理的には決議は存在するが、その手続の瑕疵が激しいため法律上決議が存在したとは評価できないとはいえない。したがって、不存在事由は認められない。

(3) よって、X は上記訴えにより本件決議の効力を争うことはできない。

 

38  役員選任決議取消しの訴え  -役員が退任した場合と訴えの 最高裁昭和 45 4 月 2 日第一小法廷判決

【事実の概要】 Xは、Y会社の株主であり、創立以来の取締役でもあった。昭和 40 年 5 月 28 日の定時株主総会において、Xは取締役に再任されず、A他 6 名の取締役とB他 1 名の監査役を選任する決議がなされた。Xは本件株主総会の決議取消しを求めて訴えを提起した。なお、本件決議で選任された役員はすべて、Yの定款が定める任期満了により終任しており、昭和42 年 5 月 21 日開催の定時株主総会において本件決議で選任されたのと同一の者が役員に選任されている。

【まとめ】 株主総会決議取消しの訴えは形成の訴えであり、形成の訴えは、その必要に応じて実体法上明文で規定されている場合に限って認められるものである以上、法定の要件を満たせば訴えの利益が認められるのが原則である。もっとも、訴訟制度の利用は具体的な紛争解決の効果が期待される場合でなければならず、決議を取り消す具体的な実益がなくなれば、訴えの利益はなくなるものと解する。役員選任の総会決議取消しの訴え係属中、その決議に基づいて選任された取締役ら役員すべて任期満了によって退任し、その後の株主総会の決議によって取締役ら役員が新たに選任され、その結果、取消を求める選任決議に基づく取締役ら役員が現存しなくなったときは、決議を取り消す具体的な実益がなくなったといえるので、特別の事情のない限り、決議取消の訴えは、訴えの利益がなくなるものと解する。 

  • 報酬請求権は不当利得返還請求権に転化するため問題はない。
  • 特別の事情については、会社の利益のためにすることを、原告側で主張することを要する。係属中に当該役員が適法になされた場合退任した場合はもとより、総会決議取消訴訟の係属中に同一内容の再決議等にも適用されている。

 

39  計算書類承認決議取消しの訴え -翌期以後の計算書類が承認された場合と訴えの  最高裁昭和 58 6 月 7 日第三小法廷判決―

【事実の概要】 Y会社は昭和 45 年 11 月 28 日に第 42 回定時株主総会を開催した。本件株主総会では、約300名もの株主が入場制限を受けて会場に入ることができず、株主からの修正動議も無視し議事を進行したという瑕疵があった。そこで、Y社の株主であるXらは、本件株主総会決議取消の訴えを提起した。Y会社は上告理由として、第 42 期の決算議案の決議を取り消しても、第 43 期以降の決算議案は確定しているのであるから、現在において是正するべきものは何もないこと、修正動議の内容については後日実現していることを理由に訴えの利益は認められないと主張した。

【まとめ】 ①計算書類承認決議取消しの訴えにおいて、翌期以後の計算書類が承認されている場合に訴えの利益は消滅するかどうか。②株主総会決議に修正動議を無視したという瑕疵がある場合、後日修正動議の内容が実現された場合に、訴えの利益は消滅するかどうか。

 ⇒ ①株主総会決議取消しの訴えは形成の訴えであり、形成の訴えは、その必要に応じて実体法上明文で規定されている場合に限って認められるものである以上、法定の要件を満たせば訴えの利益が認められるのが原則である。もっとも、訴訟制度の利用は具体的な紛争解決の効果が期待される場合でなければならず、決議を取り消す具体的な実益がなくなれば、訴えの利益はなくなるものと解する。計算書類承認決議取消しの訴えの勝訴判決が確定すれば、当該決議は初めに遡って無効となる結果、営業報告書等の計算書類については総会における承認を欠くことになり、また、右決議に基づく利益処分もその効力を有しないことになって、法律上再決議が必要となる。したがって、決議を取り消す具体的な実益はあるといえ、その後に当該議案について再決議がされたなどの特別の事情がない限り、当該決議の取消を求める訴えの利益が失われることはないと解する。②(株主総会で無視された修正動議の内容がその後実現した場合には訴えの利益を欠くべき特別の事情があるといえるかどうかについて) 計算書類承認決議取消の訴えは、手続上の瑕疵を主張してその効力の否認を求めるものである。したがって、当該修正動議の内容が後日実現されたからといって、訴えの利益が失われる特別の事情があるとはいえない。

  • ある事業年度に係る計算書類等が未確定となると、それを前提とする時期以降の計算書類等の記載内容も不確定なものになる。

⇒  これは、行年度の計算書類が未確定となったことに関連する範囲で後続年度の計算書類が確定となり、それを完全に適法なものとするためには、改めて問題の事業年度に係る計算書類等の承認決議をする必要があるという趣旨である

 

Law Practice28 株主総会決議取消訴訟の訴えの利益

1 文1(1)について

(1) Y 社株主でもある X は、取締役として A、B および C を選任する旨の決議がされた定時株主総会の招集決定が代表取締役 A 限りで行われているところ、①取締役会設置会社である同社で株主総会の招集を決定する取締役会決議を欠くこと(289 条 4 項)、②非公開会社である同社において招集通知が 1 週間前まで(299 条 1 項)ではなく 5 日前に行われていることが招集手続の法令違反(831 条 1 項 1 号)に当たると主張して、本件決議の取消しの訴えを提起する。

2   (2)について

本件では有効な取締役会の決議に基づかず株主総会が招集され(①)、招集通知の発送も法定期間より 5 日も前に行われている(②)。そして本件ではこれらの瑕疵を治癒するような事情、例えば、決議は他の株主全員の一致で成立したという事情はない。

そしてこれは、「その違反する事実が重大」で、「決議に影響を及ぼ」す瑕疵であるといえ(830 条 2 項)、裁判所は裁量棄却することはできない。

3 文2について

(1) 本件においては、上記訴え提起後に、Y 社取締役会の決議に基づき適法に招集手続がされた上で開催された定期株主総会において、先行決議と同じように A、B および Cを取締役として選任する旨の決議がされている。そうすると、もはや先行決議を取り消す実益はない、つまり、訴えの利益は失われるのではないか。

(2) これについては、取締役選任に係る先行株主総会決議の取消訴訟が係属中に、同内容の後行株主総会決議がされた場合、先行決議の瑕疵が後行決議の効力に影響を及ぼす限り訴えの利益は失われないと解すべきである。

そして、本件において、仮に先行決議が取り消されれば、そこで選任された A らによって構成させる Y 社取締役会は正当な取締役会とはいえず、その取締役会で選任された代表取締役も正当に選任されたものではなく、株主総会の招集権限を有しない。このような取締役会の招集決定に基づき当該代表取締役が招集した株主総会において、再度 A らを取締役に選任する旨の決議(後行決議)がされても、その決議は全員出席総会においてされた等の特段の事情がない限り当該瑕疵は治癒されない。そうすると、先行決議の瑕疵が後行決議の効力に影響を及ぼすといえる。

したがって、訴えの利益は失われない。

(3) よって、後行決議の存在は X の上記請求に影響を及ぼさない。

 

40  決議取消しの訴えと裁量棄却  最高裁昭和 46 3 月 18 日第一小法廷判決

【事実の概要】 Y会社の株主総会では、株主総会の招集決議をした取締役会に取締役が 7 人中 2 人しか出席しなかったこと、招集通知が法定の招集通知期間より 2 日遅れて発送されたこと等の瑕疵があった。そこで、Y会社の株主であるX1 及びX2 は、本件株主総会決議取消しの訴えを提起した。

【まとめ】 株主総会招集の手続またはその決議の方法に性質、程度等から見て重大な瑕疵がある場合には、その瑕疵が決議の結果に影響を及ぼさないと認められるようなときでも、裁判所は、決議取消の請求を認容すべきであって、これを棄却することは許されないものと解する(831 条 2 項)。本件株主総会の招集手続は、取締役会の有効な決議にもとづかないでなされたものであるのみならず、その招集の通知はすべての株主に対して法定の招集期間に 2 日も足りない会日より 12 日前になされている。このような瑕疵は、全株主に対し、会議体としての機関である株主総会の開催と会議の目的たる事項を知らせることによって、これに対する出席の機会を与えると共に、議事及び議決に参加するための準備の機会を与えることを目的とする、法 298 条以下の趣旨に反するものである。したがって、右株主総会招集の手続にはその性質および程度から見て重大な瑕疵があるというべきである。

 

41  取締役選任決議の不存在とその後の取締役選任決議の効力  最高裁平成 2 4 月 17 日第三小法廷判決

【事実の概要】 Y会社では当時、X、A、B、Cが取締役であり、Xが代表取締役に就任していた。Aらの画策により、Xについて、取締役および代表取締役を辞任した旨の登記がなされた(実際にXが取締役および代表取締役を辞任したという事実はなかった)。同時に、Dを取締役に選任する旨の株主総会決議がされ、Aを代表取締役に選任する旨の取締役会決議がなされたとする議事録が作成され(そのような事実はなかった)、Dを取締役に選任する旨の登記もなされた。XはY会社を被告として、Xが取締役および代表取締役の地位にあることの確認、Dの取締役選任決議の不存在確認等を求める訴えを提起した。これに対し、Y社は、訴訟係属中に、当時取締役であったX、A、Cによって取締役会が開催され、Xを代表取締役から解任し、後任にAを選任する決議がなされたため、Xの請求には理由がなくなったとして争った。 ※ 訴えの利益は失うか。

【まとめ】 取締役を新たに選任したとされる株主総会決議が不存在である場合、その後になされた取締役選任決議の効力について ⇒ 取締役を選任する旨の株主総会の決議が存在するものとはいえない場合、当該取締役によって構成される取締役会は正当な取締役会とはいえず、かつ、その取締役会で選任された代表取締役も正当に選任されたものとはいえず、株主総会の招集権限を有しない。したがって、このような株主総会の招集権限を有しない者を構成員とする取締役会の招集決定に基づいて、代表取締役が招集した株主総会において新たに取締役を選任する旨の決議がなされたとしても、その決議は、いわゆる全員出席総会においてなされたなど特段の事情がない限り、法律上存在しないものと解する。

  • 本判決は、会社法 346 条 1 項の適用の有無を判断する前提として、当初の取締役選任決議が不存在である場合において、その後の取締役選任決議は原則として連鎖的に不存在になることを明らかにした最初の最高裁判決であり、その例外として、その後のある段階での取締役選任決議が全員出席株主総会における決議として有効に成立したような場合には、この不存在の連鎖が遮断されることを明らかにしたものである。

Law Practice22  全員出席総会

1   小問(1)

(1) X は、A・B・C で構成する取締役会により株主総会の招集の決定がなされ、A によってこれの招集が行われた点に瑕疵があるとして、本件決議の不存在確認の訴え(830 条 1 号)を提起すべきである。

(2)  取締役会設置会社において、取締役が総会招集の決定事項(298 条 1 項各号)の決定は取締役会の決議によらなければならない(298 条 4 項)。また株主総会の招集は会社の業務執行の1つであるから、包括的な業務権限を有する代表取締役が上記決定の執行として株主総会を招集すると解する。本件において、Y で X が取締役を辞任し、C が取締役に選任された事実はないところ、株主総会の招集の決定は X・A・B で構成する取締役会の決議によらなければならなかった。しかし、上記のように A・B・C で構成する取締役会により株主総会の招集の決定がなされているところ、有効な取締役会決議を欠くという瑕疵がある。また、代表取締役ではない取締役 A により株主総会の招集がされているところ、この点にも瑕疵がある。

したがって、本件株主総会の招集手続には上記瑕疵がある。

(3) そして、不存在事由については明文の規定を欠くところ、解釈が必要である。不存在事由は、①決議が物理的に存在しない場合、②物理的には決議は存在するが、その手続の瑕疵が激しいため法律上決議が存在したとは評価できない場合に認められると解される。

本件のように、代表権のない取締役 A が取締役会決議なく株主総会を招集したという手続上の瑕疵は、招集手続に関する著しい法令違反である。そのため、②手続の瑕疵が激しいため法律上決議が存在したとは評価できない場合に当たる。

したがって、特段の事情のない限り不存在事由が認められる。

  そこで、出席全員総会である点が特段の事情に当たるかについて検討する。株主総会の招集手続の目的は、株主に株主総会出席の機会を与え、議事・議決に参加する準備の機会を与える点にあるところ、株主全員が株主総会開催を理解したうえで、参加したのであれば招集手続の瑕疵は問題とならず当該株主総会は適法に成立すると解する。ただし、代理人が出席している場合は当該株主が株主総会の目的事項を了知したうえで委任状を作成している必要がある。本件において、代理人を本件株主総会に出席させた株主は、本件株主総会の目的事項を了知したうえで委任状を作成している。そして、他の株主は本件株主総会に自ら出席している。そうすると、株主全員が株主総会開催を理解したうえで参加したといえる。そのため、本件株主総会は適法に成立したといえる。

したがって、本件では出席全員総会である点が特段の事情に当たり、不存在事由は認められない。

(3)   よって、X の上記訴えは認められない。

2   小問(2)

(1) 上記決議の不存在確認の訴えが認容されると、地位確認の訴えにおける Xの再抗弁は認められる。その結果、Y 社の抗弁は認められず、地位確認の訴えは認容される。

(2) 他方、上記決議の不存在確認の訴えが棄却されると、地位確認の訴えにおける X の再抗弁は認められない。その結果、Y 社の抗弁は認められ、地位確認の訴えは棄却される。

(3) 以上のように、地位確認の訴えの帰趨は変わる。

 

42  総会決議不存在確認の訴えと訴権の濫用  最高裁昭和 53 7 月 10 日第一小法廷判決

【事実の概要】 Y会社は、昭和 47 年 3 月ごろから経営に行き詰まりを来していたため、同社の役員であったXおよびAらは、その持分を訴外 EF 夫婦に譲渡してY会社の経営から手を引くことを決めた。XおよびAらは E 及び F に持分を譲渡し、EF 夫婦は持分譲渡の代償としてY会社が当時負担していた債務の弁済等のため 500 万円を出損し、XおよびAはY会社に対し取締役辞任届を提出した。同日、社員総会において、持分譲渡の承認、EF 夫婦を取締役に、F を代表取締役に選任なされた旨の登記がなされ、以後、EF がY会社の経営にあたっている。それにもかかわらず、Xは本件持分譲渡の合意がなされてから約 3 年後に、本件社員総会は招集手続きに瑕疵があり、協議に基づいて議決したものではないとして、社員総会決議不存在確認を求める訴えを提起した。

【まとめ】 Xの本訴提起は甲乙夫婦に対する著しい信義則違反の行為であること及び請求認容判決が第三者である甲乙夫婦に対してもその効力を有することに鑑み、Xの本件訴提起は訴権の濫用にあたり、不適法である。

 

43 決議無効確認の訴えと決議取消しの主張  最高裁昭和 54 11 月 16 日第二小法廷判決

【事実の概要】 Y会社は、昭和 50 年 5 月 30 日に定時株主総会を開催し、第 3 期の営業報告書、貸借対照表および損益計算書の承認決議その他の決議を行った。ところが、本件計算書類については総会提出前に監査役の監査を受けていなかった。同年 8 月 20 日、Y会社の株主であるX1 及びX2 は、株主総会に提出された本件計算書類は監査役の監査を受けていない違法な書類であり、このような違法な書類を承認する総会決議は無効であるとして株主総会決議無効確認の訴えを提起した。その後、Xらは、本件第 1 審係属中の昭和 52 5 月 24 日に、本件計算書類の決議を取り消すよう予備的請求として訴えを追加した。

【まとめ】 法が株主総会決議取消の訴えと株主総会決議無効確認の訴えを区別して規定している趣旨は、取消原因として主張される瑕疵が、無効原因とされる内容上の瑕疵に比べてその程度が比較的軽い点に注目し、会社関係における法的安定性の要請の見地からこれを主張しうる原告適格を限定するとともに出訴期間を制限することにある。もっとも、両者は、その決議の効力を否定すべき原因となる点において差異がないのであるから、株主総会決議の無効確認を求める訴えにおいて決議無効原因として主張された瑕疵が決議取消原因に該当しており、決議取消訴訟原告適格、出訴期間等の要件を満たしているときには、たとえ決議取消の主張が出訴期間後になされていたとしても、なお決議無効確認訴訟提起時から提起されていたものとして扱うべきと解する。

  • 民事訴訟における当事者主義ないし処分権主義の見地から、少なくとも当事者の訂正の申立てまたは裁判所の積極的な釈明(民訴 149 条)による訂正の申立てが必要との見解が主張されている。
  • 株主総会に提出された本件計算書類につき監査役の監査(436 条 1 項、441 条 2 項、444 条 4項)を受けていないという瑕疵は、決議取消原因に該当すると判断された。

 

44  取締役解任の正当理由  最高裁昭和 57 1 月 21 日第一小法廷判決

【事実の概要】 Y会社は、従来その発行済株式総数 8000 株のうち、4350 株をXが、2350 株を訴外Aが各所有し、代表取締役にX、取締役にAおよびXの妻B(訴外)が就任していた。Y会社は、実質的にはX・A両名の共同経営の下にあったところ、Xは持病が悪化したため、Y会社の業務から退き療養に専念しようと考えた。そこで、Aとの間でX所有のY会社の株式 4350 株をAに売り渡す旨の契約を締結すると同時に、XがY会社の代表取締役を辞任し、Aが後任の代表取締役に就任すべきことを取り決めた。そして、X辞任の承認とAを代表取締役に選任する決議がなされた旨の取締役会議事録が作成された。その後、Aは臨時株主総会を招集し、経営陣の一新を図りXを取締役から解任した。X は、上記臨時株主総会について、Xに招集通知が発せられていない等主張して、株主総会決議の瑕疵を争ったが、第 1 審は、本件株主総会決議には瑕疵がないことを理由として請求棄却とした。そこで、Xはこれまでの請求に加えて、Y会社がXを解任したことは「正当な理由」(339 条 2 項)がなかったとして、Y会社に損害賠償を請求した。

【まとめ】 339 条 2 項の趣旨は、取締役の解任を通して会社に対する株主の監督機能を確保する一方で、取締役の任期に対する期待を保護し両者の利益の調和を図ることにある。そこで、「正当な由」とは、取締役による職務遂上の法・定款違反為があった場合や、職務への著しい適任、心身の故障等があった場合等、当該取締役に経営をわせるにあたって障害となるべき状況が客観的に生じた場合をいうと解する。本件についてみると、Xの病状が悪化したために、本人も療養に専念しようと考えていたのであり、Xに取締役としての責務の遂行を期待することは客観的に難しい状況にあったといえる。よって、本件解任には、「正当な理由」があったといえる。

  • 339 条 2 項の損害賠償責任は、取締役を正当事由なく解任したことについて、故意・過失を要しない株式会社に課された法定責任である。したがって、その損害賠償の範囲は、残存任期期間中と任期満了時に、取締役を解任されなければ得ることができた利益の喪失による損害に限られる(江頭)。

 

45  取締役権利義務者の解任  最高裁平成 20 2 月 26 日第三小法廷判決

【事実の概要】 株式会社Y1製作所は 560 株の株式を発行している同族会社である。X及びY2は各 280 株所有している。Y2 はY1 会社の株主総会で取締役に選任されたものの、その後の株主総会で選任が否決されたため、346 条 1 項に基づいて、新たに選任された役員が就任するまで取締役としての権利義務を有する者(取締役権義務者)として、Y1 会社の職務を行っていた。Xは、Y2  が同社の経営を独断専行しているなどと主張して、Yらに対し、Y2  の取締役の解任を求める訴えを提起した。これに対して、Yらは、Y2  は任期満了に伴って取締役を退任し、取締役権利義務者となったにすぎず、Y2 に対し取締役解任の訴えを提起することはできないと主張し争った事案。

【まとめ】 すなわち、取締役権利義務者(346条1項)に対し、役員解任の訴え(854条1項)を提起することができるか、取締役権利義務者も「役員」にあたるかが問題となる。854 条1項は、解任請求の対象について、単に「役員」と規定するのみで、役員権義務者を含む旨を規定していない。また、346 条 2 項は、裁判所は必要があると認めるときは害関係人の申てによって一時役員の職務をうべき者(仮役員)を選任することができる旨を定めているところ、仮役員を選任することで取締役権義務者の地位を失わせることができる)ため、取締役権義務者を対象として役員解任の訴えを認める必要性もない。したがって、取締役権利義務者は「役員」にはあたらず、854  条を適用又は類推適用して株主が訴えをもって当該役員権利義務者の解任請求をすることは許されないと解する。

  • XとY2 間の持株買取りか、解散判決(471 条 6 号、833 条 1 項 1 号)によるほかない。
  • 本件最高裁判決のように否定説を採る場合には、株主 X は、仮取締役の選任を求めるほかないが、そのための要件として、「必要があると認めるとき」に該当しなければならない(会社法 346 条 2 項)。退任取締役が取締役としての権利義務を有することが、(不在や病気等により)不適当である場合が、これに該当すると解されている。

 

46  取締役の職務執停止仮処分の効力  最高裁昭和 45 年 11 月 6 日第二小法廷判決

【事実の概要】 昭和 31 年 2 月 9 日または 10 日に、Yらは甲会社から本件土地を譲り受け、所有権移転登記を備えた。昭和 32 年 1 月 12 日、Xは、甲会社の代表取締役Aから本件土地を買い受けた。Xは、Yらに対し、本件土地の所有権確認およびXへの所有権移転登記手続等を求めて提訴した。本件では、以下のような事情がある。昭和 30 年 6 月 14 日に甲会社の前人取締役全員(Aほか 3名)は仮処分により職務執行を停止され、Bほか 3 名がその職務代行者として選任され、翌 31 年 2月 20 日にBが代表取締役職務代行者として選任された。その後、同年 12 月 22 日には被停止取締役全員が辞任し、24 日の株主総会で新たに 4 名の取締役が選任され、27 日の取締役会でAが代表取締役に選任された。そこで、Yらは、職務代行者選任の仮処分が取り消されていない以上、当時のAには代表権限がなくXの本件売買は無効であるとの抗弁を提出し争った。

【まとめ】 (1) 職務執行停止代行者選任の仮処分決定は、右仮処分により職務の執行を停止された取締役が辞任し、株主総会の決議により新たに後任の取締役が選任された場合、このことのみによって、直ちに右仮処分決定が失効したり、右代行者の権限が消滅したりするものと解すべきものではなく、右後任取締役の選任等により事情の変更があるとして仮処分決定を取り消す判決があってはじめて失効するものというべきである。(2)仮処分により取締役の職務代行者が選任されている場合には、被停止者の辞任・後任取締役の選任があったとしても、会社の取締役の職務(常務に属する職務)は、原則として代行者が行うべきものであって、その限度において右後任取締役は職務の執行を制限される(352 条 1 項)。(3)仮処分の後、職務の執を停止された取締役が辞任し後任の取締役が選任された場合に、代表取締役が欠けているときは、代表取締役の選定は、会社の業務執権を有する重要な機関の選定であり、常務に属する職務とはいえないので、取締役会が構成する取締役会の決議をもって代表取締役を定めることができる ⇒  本件についてみると、A  は適法に甲会社の代表取締役に選任されているものの、仮処分の存続中、取締役たる資格においてその職務を執行できない制約を受ける者であるから、代表取締役としての権限も直ちに行使することはできない。したがって、A が甲会社を代表して X との間に本件各土地の売買契約を締結したとしても、その効果は生じない。もっとも、本件仮処分申請は、昭和 32 年 1 月 14 日その申請が取り下げられたというのであるから、その後は、A  において、甲会社を代表して本件売買契約を追認し、あるいは新たに売買契約を締結することができる。

  • 取締役の職務代行者の権限は、仮処分命令に別段の定めがある場合を除き、会社の常務に限定され、常務に属しない行為をするには、裁判所の許可を要する(352 条 1 項、868 条 1 項)。
  • 会社の常務とは、会社事業の通常の経過にともなう業務をいい、募集株式の発行等・事業譲渡・定款変更とか、取締役解任を目的とする臨時株主総会の招集等は常務に属しない(江頭)。
  • 職務執行停止中の取締役が仮処分の趣旨に違反して行った行為は無効であり、事後に仮処分が取り消されても遡って有効になるものではない(最判昭和 39 年 5 月 21 日)。もっとも、仮処分の失効後、権限を回した代表取締役がその為を追認することはできる

 

47  代表取締役職務代行者による臨時総会の招集と会社の常務  最高裁昭和 50 6 月 27 日第二小法廷判決

【事実の概要】 Y会社では株主間に支配権をめぐる争いがあったため、代表取締役に関し職務執行停止の仮処分がなされ、Aが代表取締役職務代行者に選任されていた。Y会社において少数株主権が行使され、Aに対し、Y会社の株主兼取締役であったXの解任を目的とする臨時株主総会の招集が求められたため、Aは臨時総会を招集し、そこでXの解任が決議された。これに対し、Xは、上記臨時株主総会の招集は、352 条 1 項にいう「常務に属しない行為」であるにもかかわらず、裁判所の許可を得ることなくなされたものであるから、手続に違法があるとして、株主たる資格において解任決議取消しの訴えを提起した。

【まとめ】 少数株主の請求による取締役の解任を目的とする臨時株主総会の招集は、「常務に属しない行為」(352 条 1 項)にあたるか、少数株主による臨時総会招集の請求がされた場合には、代表取締役は原則として臨時株主総会を招集しなければならず、裁量に属さないのであるから、「常務」に属すると思えるため問題となる。 ⇒ ここに、会社の常務とは、当該会社として日常行われるべき通常の業務をいう。そうすると、取締役の解任を目的とする臨時総会の招集のような業務は、日常・通常の業務ではないため、「常務に属しない行為」にあたる。そして、少数株主の請求による取締役の解任を目的とする臨時株主総会の招集も、請求を受けた後に取締役会が招集を決定し、代表取締役職務代行者が招集するというプロセスは、通常の臨時株主総会の招集と異なるものではないから、通常の臨時株主総会の招集と同様に、「常務に属しない行為」にあたる。

 

48  表見代表取締役と第三者の過失  最高裁昭和 52 10 月 14 日第二小法廷判決

【事実の概要】 Xは、Y株式会社の取締役であるAがY社上本町営業所専務取締役営業所長名義で振り出した約束手形 1 通を所持している。当該手形は、融資を受ける目的で振り出され、当初受取人欄や支払期日等は白地であった。その後AはY会社代表取締役でありAの父であるBの第一裏書を自ら署名捺印したうえ融資先斡旋を依頼していたCに手渡し、Cにおいて受取人をBと補充し、手形割引依頼に応じたXが支払期日を補充した。支払期日にXが支払場所に当該手形を提示したが支払いがなかったことから、XからY会社に対して手形金額および遅延損害金の支払いを求めた事案。

【まとめ】 明文上「善意」としている以上、過失の有無を問わないように思えるが、代表権の欠缺を知らないことについて第三者に重大な過失があるときは、悪意の場合と同視でき、保護に値しないため、「善意の第三者」に含めるべきではない。したがって、「善意の第三者」とは、代表権の欠缺について善意無重過失の第三者をいうと解する。

  • 354条の主観的要件について
  • 悪意重過失の証明責任は会社側にある。なお、保護される第三者の範囲を取引の直接の相手方に限るのが判例である(最判昭和 59 年 3 月 29 日)。
  • 354条と908条の関係 ⇒ 「代表取締役の氏名は登記事項であるから(911条3項14号)、会社法908条1項前段が適用されると悪意擬制され、相手方は一切保護されないことになるが、これでは取引の安全が著しく害されることになる。そこで、354条と908条1項の関係が問題となる。そもそも、354条は、会社と取引をするものに常に登記簿の閲覧を要求することは商取引の大量・迅速性に反し妥当ではないことから、例外的に取引の安全強化を図ろうとした規定であると考える。そこで、会社法354条は、会社法908条1項の例外規定であり、354条が優先して適用されると考えるべきである」

 

49  取締役の責任と法令違反  最高裁平成 12 7 月 7 日第二小法廷判決

【事実の概要】 A会社の株主であるX1 は、当時A会社の代表取締役であったYらに対し、423 条 1 項に基づく取締役の責任を追及する株主代表訴訟を提起した。本事案の主たる争点は、A会社が行った損失填補が独占禁止法 19 条違反となるか、同条違反の場合には、取締役が遵守すべき法令違反となり、423 条の任務懈怠となるかであった。

【まとめ】 取締役の任務には、法令を遵守して職務を行うことが含まれる(355 条、423 条)。取締役は、会社の業務執行を決定し、その執行に当たる立場にあるものであることからすれば、会社が法令に違反することがないようにするため、その職務執行に際して会社を名宛人とする規定を遵守することもまた、取締役の会社に対する職務上の義務というべきである。そこで、取締役が遵守すべき「法令」には、会社を名宛人とし、会社がその業務を行うに際して遵守すべきすべての規定が含まれると解する。したがって、独占禁止法も取締役が遵守すべき法令に含まれる。

  • もっとも、最高裁は、Yらが、行為に際して、「独占禁止法に違反するとの認識を有するに至らなかったことにはやむを得ない事情があったというべきであって、右認識を欠いたことにつき過失があったとすることもできないから、本件損失補てんが独占禁止法一九条に違反する行為であることをもって、…損害賠償責任を肯認することはできない」としている。
  • 手段債務であれば理論的に免責はあり得ないはずなので、法令違反行為を「結果債務」のようなものととらえているのか。或いは、「民法の帰責事由と会社法の帰責事由を同一のものと解すべきではない」ということか。
  • 「過失」を別途要求するとすれば、以下のようになる ⇒ 【428条1項が「任務を怠ったこと」と「責めに帰することができない事由によるものであること」とを区別していることからも明らかなように、任務懈怠と過失とを別の要件としており、これは423条1項の責任についても同様とされる。したがって、取締役等は、任務懈怠があったとしても、過失がなければ423条1項の責任を負わないことになる。】

Law Practice40 法令違反と取締役の責任

1 「取締役」Y1・Y2について

(1) 任務懈怠(423 条 1 項)

取締役の法令遵守義務を規定した 355 条の趣旨は、社会全体の利益を保護する見地から取締役による会社の利益追求行動に対し強行法規的な制限を課す点にある。そこで、同条の「法令」とは、取締役を名宛人としてその義務を定める規定に限らず、株式会社を名宛人として株式会社がその業務を行うに際して遵守すべきすべての規定を含むと解する。本件において、A 社は本件販売を理由に食品衛生法違反の罪で略式命令を受けている。同法は A 社を名宛人として A 社がその業務を行うに際して遵守すべき規定である。そのため、同法は「法令」に当たる。したがって、Y1・2 が同法を遵守せずに本件販売をしたことは「その任務を怠った」といえる。

(2)   帰責事由

ア   Y1

もっとも、法令違反について取締役に帰責事由(故意または過失)がないときは、取締役の任務懈怠責任は生じない。本件において、C から食品添加物 T が B 社の工場で製造された焼売に含まれていることを知らされると、直ちに Y2 に対してこれの販売中止等はしないように述べ、さらに C には口止め料 5000 万円を支払っている。そうすると、Y1 は上記法令違反の可能性を認識していたといえる。

したがって、Y1 は上記法令違反について故意はあったといえる。

イ Y2

また Y2 も Y1 から上記添加物混入について知らされており、焼売の販売中止等は待つように伝えられているところ、上記法令違反があったかもしれないがそれでもいいという認識であったといえる。したがって、少なくとも Y2 に過失は認められる。

(3) 損害と因果関係

本件販売により、A 社は営業補償として 50 億円、信頼回復キャンペーン費用として 20 億円、在庫品の廃棄費用として 3 億円の支出をしている。営業補償の一部と在庫品廃棄費用は仮に Y1・2 が焼売の販売を継続させずに、中止したとしても発生する費用であるから、上記任務懈怠によって発生した損害とはいえない。他方で、Y1・2 が食品添加物 T の混入を知りながら本件販売をしたことで、より一層 A 社の信頼が損なわれたといえる。そうだとすると、信頼回復キャンペーン費用 50 億円の一部と、減少した営業利益の 20 億円の一部は Y1・2 の上記任務懈怠によって生じた損害といえる。

したがって、信頼回復キャンペーン費用として 20 億円と、減少した営業利益の 20 億円の一部は上記任務懈怠と因果関係のある「損害」である。

(4) 損益相殺

本件販売により会社が得た利益は、上記損害の賠償責任の判断に際して損益相殺の対象となるとも思える。しかし、上記損害は A 社の信用失墜による売上減少等が損害の発生原因であるところ、法令違反による売上は損害発生の原因によって受けた利益ではない。

したがって、損益相殺は認められない。

(5) よって、X の Y1・2 に対する請求は上記損害の限度で認められる。

2 「取締役」Y3

(1) まず上記 Y2 らと同様に Y3 には、A 社を名宛人とする食品衛生法違反という法令違反という法令遵守義務違反ある。それゆえ、任務懈怠があったといえる。

しかし、Y3 は、Y2 らから同法違反の事実にはすでに対処済みである旨の報告を受けている。

 したがって、任務懈怠についての故意・過失がない。

(2) もっとも、取締役設置会社の取締役会は、会社の業務を監督する職務を負う(362 条 2条 2 号)ところ、個々の取締役は他の取締役の業務執行を監視する義務を負うと解する。非取締役会設置会社の取締役も善管注意義務(330条、民法644条)の一内容として他の取締役の業務執行を監視する義務を負うと解する。本件において、A 社が取締役設置会社であるかは不明であるが、いずれにしても他の取締役を監視する義務を負う。

とはいえ、通常、会社の業務は業務執行取締役や使用人の間で分担されているところ、各取締役は、他の取締役または使用人が担当する業務については、その内容につき疑念を挟むべき特段の事情がない限り適正に行われていると信頼することが許され、監視義務違反は認められないと解すべきところ、本件において、焼売に添加物 T が混入していることについてY2らに事情を聞いて、その問題はすでに対処済みという報告を受けたために特段の指示をしていない。そうすると、Y3 は添加物 T の問題に対処せずに本件販売を継続するという Y1・2 の業務執行について疑念を挟むべき特段の事情がないといえる。

したがって、Y3 に監視義務は認められず、その結果、任務懈怠は認められない。

(2) よって、X の Y3 に対する請求は認められない。

  • 情報に特に疑うべき事情がない限り、取締役をその情報を信頼して意思決定をすれば善管注意義務違反とはならない(信頼の原則)と考えるべき。

 

50  取締役の注意義務と経営判断原則  最高裁平成 22 7 月 15 日第一小法廷判決

1 本件において、Xらの請求は認められるか。

すなわち、Yらは423条1項の責任を負うか。本件において、①A・B社を完全子会社化したこと、②A社の完全子会社化の際、任意の合意に基づく買取を実施し、③A社株式を5万円という価格で買い取ったことが、それぞれ善管注意義務に反するかが問題となる。

2 確かに、①についてはまだしも、②株式交換が可能であったにもかかわらず任意の合意に基づく買取を実施したこと、③その買取に際して実際には1万円から2万円程度の株式を、5万円で買い取ったことからすると、取締役に善管注意義務違反を認めても良いようにも思える。

しかし、取締役の職務執行における善管注意義務違反(330条、民法644条)の判断には、経営判断の原則が妥当する。これは、株主により選出されその経営手腕を期待された経営の専門家がその手腕をいかんなき発揮すべく、その萎縮効果を避けるためのものであり、事業再編計画の策定についても異なることはない。具体的には、行為時の状況において、判断の前提となった事実の認識について不注意な誤りがなかったか、その事実に基づく意思決定の過程が、通常の企業人として著しく不合理なものでなかったかという観点から審査すべきである。

本件においては、確かに株式交換をすれば直ちにA社を完全子会社化できたはずである。しかし、Yらには、可能な限り任意の合意に基づきA社株式を取得し、事業の遂行上重要なA社の株主との関係を悪化させることを防止する必要があったといえる(決定内容の合理性○)。また、A社という非上場会社の株式の価値の評価は客観的な評価ができるものではなく専門家が算定してもかなりの幅が出るものであるし、このような株式については事業再編の効果による値の増加も期待できた。また、A社を完全小会社化しグループの競争力を高めることのメリットや、上記の通り加盟店等との関係を良好に保ちつつ加盟店等からの株式の取得を円滑にすすめることのメリットに鑑みると、5万円という額もあながち不合理ではないというべきである(③。認知バイアスが働くからである)。

そして本件においては、この判断に際して、グループ企業各社の経営会議において検討され、かつ、弁護士の意見も聴取されるなどの手続が履践されているのであって、その決定過程には何ら不合理な点は見当たらない(事実認識、意思決定過程○)。

3 よって、本件のYらの判断には、行為時の状況において、判断の前提となった事実の認識について不注意な誤りはなく、また、その事実に基づく意思決定の過程が通常の企業人として著しく不合理なものでもなかったといえるから、Yらは善管注意義務に反して上記行為をなしたとはいえず、よって、Xらの請求は認められない。

 

51  銀行の取締役の善管注意義務  最高裁平成 20 1 月 28 日第二小法廷判決

【事実の概要】 A銀行はB会社に融資を行った(本件第 1~第 3 融資)ところ、平成 11 年 3 月の時点で、第 1 融資は約 192 億円が、第 2 融資は約 309 億円が、第 3 融資は約 375 億円が回収困難となった。A銀行は平成 9 年 11 月経営破綻し、取締役Yらに対し本件各融資にかかる忠実義務善管注意義務違反があったとして、破綻処理に伴い取締役に対する損害賠償請求権等を取得したXが損害賠償を求めた。原審は、第 1 融資および第 3 融資についてはYらの善管注意義務を否定したため、Xは上告受理申立てをした。

【まとめ】 銀行の取締役の善管注意義務について、一般株式会社の取締役のそれに比して高く、経営判断原則の適用も限定される。銀行の公共的性格を加味してのことだと考えられる。融資債権の回収可能性について合理的な説明が成り立つか、回収確保としてリスク確保が必要十分になされていたかが検討されなければならない。すなわち、銀の取締役ならば、融資の相手方の安全性、融資債権の回収可能性(担保を付けていたか等)について、事実認の誤りがなかったか、意思決定の判断過程、内容についてな点はなかったかどうかを中心に検討する必要がある。

  • 無担保融資の場合でも融資先の再建・再編を通じた回収が込める場合には、回収可能性が確保できる限り経営判断として追加融資を認めることができる場合がある。ただし、このような外的な融資では回収可能債権にかかるリスクは重大であり、債権保全についてはかなりの確実性が要求されることになる。

①第 1 融資について;Bの発行する新株を引き受ける予定の関連企業に対し、引受予定の新株を担保としてその引受代金を融資し、弁済期に当該株式を売却した代金で融資金の弁済を受けることを予定したものであるが、が融資先の関連企業の業績及び株価のみに依存する形で巨額の融資をうことは、そのリスクの高さに鑑み、特に慎重な検討を要する。新株発行後のBの発行済株式総数に占める担保株式の割合等に照らし、融資先が弁済期に担保株式を一斉に売却すれば、それによって株価が暴落するおそれがあることは容易に推測できたはずであるが、その危険性及びそれを回避する方策等について検討された形跡はない。B については、財務内容が極めて不透明であるとか、借入金が過大で財務内容は良好とはいえないなどの報告がされていたことから、融資決定をしたYらの判断は、銀行の取締役に一般的に期待される水準に照らし、著しく不合理なものといわざるをえず、Yらには銀行の取締役としての忠実義務、善管注意義務違反があったというべきである。②第 3 融資について;第 3 融資は、大幅な債務超過となって破綻に瀕したBに対し、もはや同社の存続は不可能であるとの認識を前提に、G事業が完成する予定の平成 5 年 6 月まで同社を延命されることを目的として行われたものである。追加融資を行うことを決定した判断は、銀行の取締役に一般的に期待される水準に照らし、著しく不合理なものといわざるをえず、銀行の取締役としての忠実義務、善管注意義務違反があったというべきである。

 

Law Practice38 経営判断の原則

1 A 社「株主」Xとしては、第 1 および第 2 融資について取締役 Y1らには善管注意義務違反があり(330 条、民法 644 条)、よって、任務懈怠が認められるとして、これによりA 社に生じた損害の賠償請求(423 条 1 項)を求める株主代表訴訟をすることが考えられる。

2 (1) X の上記請求が認められるためには、第 1 および第 2 融資を実行した Y1らが「その任務を怠った」、すなわち、善管注意義務違反が認められる必要がある。特に取締役の職務執行における善管注意義務違反の判断には経営判断の原則が妥当する。取締役が職務執行に対して萎縮することを避けるためである。具体的には、①行為時の状況において判断の前提となった事実の認識について不注意な誤りがなかったか、②その事実に基づく意思決定の過程が通常の企業人として著しく不合理なものでなかったかという観点から審査する。

(2) 本件において、第 1 融資を実行することを決めた取締役会で B 社のリゾート計画や B 社の売上、経常利益や株価などが報告され、さらに今後の経済状況や融資をすることによる A 銀行のメリットなどが報告されている。これらは判断の前提となった事実であるからこれに不注意な誤りがあるかを検討する必要がある(①)。そのうえで融資の担保となる B 株式を一斉に売却することで株価が暴落するおそれがあることや、それを回避する方策を検討せずに第 1 融資を実行した Y1 らの判断が通常の企業人として著しく不合理なものでなかったかを検討する。(②)同様に、第 2 融資を実行することを決めた取締役会で報告された事実に不注意な誤りがあるかを検討し(①)、リゾート事業に係るホテルの稼働率やそれを前提とした将来の収益予測等について具体的な検討をせずに第 2 融資を実行した Y1 らの判断が通常の企業人として著しく不合理なものでなかったかを検討する。(②)

したがって、上記審査により Y1 らの善管注意義務違反が認められれば、Y1 らは「その任務を怠った」といえる。

(3) よって、そのような場合には、X の請求は認められる。

 

52  内部統制システム  最高裁平成 21 7 月 9 日第一小法廷判決

【事実の概要】平成 16 年 9 月 13 日および 14 日、XはY会社の株式を 1 株当たり 1215 円で 600 株取得した。Y会社では、伝票等を確認する BM 課とソフトの稼働を確認する CR 部とが設けられており、BM 課が受注を確認した上で検収書を取引先に渡し、ソフトの稼働を確認する CR 部の担当者が取引先で検収を行った後、BM 課が検収書を回収して財務部経由で売上計上する仕組みになっていた。また、財務部および監査法人は、定期的に取引先に書類を送付して売掛金の残高を確認していたほか、回収予定日を過ぎた債権については、財務部が営業担当部署に滞留の理由を報告させていた。ところが、Yの G 事業部の元部長 A が、高い業績を維持することで自己の地位を確保する目的から、平成 12 年 9 月から平成 16 年 12 月までの間、後日正規の注文を獲得できる可能性の高い案件について、取引先である販売会社の印鑑、注文書、検収書等を偽造することで注文前に売り上げがあったかのように装い、売上総額 11 憶 4000 万円を架空に計上した(本件不正行為)。架空の売掛金債権は必然的に滞留することになるが、A は、エンドユーザーである大学側の事情を滞留理由としたほか、他の債権の回収金を付け替えることで架空の売掛金債権を消し込むなど、巧妙な手口で隠蔽工作を行った。そのため、Y は、本件不正行為を約 4 年間見抜くことができないまま、有価証券報告書に虚偽記載を行うことになった。本件不正行為発覚後、Y会社の株式は急落し、終値が 570 円となったため、Xは、Yの代表取締役 B に内部統制システム構築義務違反があるとして、Yに対して不法行為に基づく損害賠償請求(350 条)をしたという事案。

【まとめ】 取締役は、取締役会の構成員として、また、代表取締役又は業務執行取締役として、リスク管理体制を構築すべき義務を負い、さらに、代表取締役及び業務担当取締役がリスク管理体制を構築すべき義務を履行しているか否かを監視すべき義務を負うのであり、これもまた、取締役としての善管注意義務(330 条)及び忠実義務(355 条)の内容をなすものと解する。本件についてみると、Yは、①職務分掌規程等を定めて事業部門と財務部門を分離し、②G事業部について、営業部とは別に注文書や検収書の形式面の確認を担当する BM 課及びソフトの稼働確認を担当する CR 部を設置し、それらのチェックを経て経理部に売上報告がされる体制を整え、③監査法人との間で監査契約を締結し、当該監査法人及びYの財務部が、それぞれ定期的に、販売会社あてに売掛金残高確認書の用紙を郵送し、その変装を受ける方法で売掛金残高を確認することとしていたのであるから、Yは、通常想定される架空の売上げの計上等の不正行為を防止しうる程度の管理体制は整えていたものということができる。また、本件以前に同様の手法による不正行為が行われていたことがあったなど、Yの代表取締役である B において本件不正行為の発生を予見すべきであった特別な事情もない。さらに、売掛金債権の回収遅延につき A らが挙げていた理由は合理的なもので、販売会社との間で過去に紛争が生じたことがなく、監査法人もYの財務諸表につき適正であるとの意見を表明していたというのであるから、財務部が、A らによる巧妙な偽装工作の結果、販売会社から適正な売掛金残高確認書を受領しているものと認識し、直接販売会社に売掛金債権の存在等を確認しなかったとしても、財務部におけるリスク管理体制が機能していなかったということはできない。以上より、Yの代表取締役である B に、A らによる本件不正行為を防止するためのリスク管理体制を構築すべき義務に違反した過失があるということはできない。

  • 会社法は、指名委員会等設置会社および監査等委員会設置会社(以下、委員会型会社)と大会社である監査役設置会社について、内部統制システムに関する取締役会決議を義務付けている。⇒ 監査役設置会社が内部統制システムの内容を定める場合には、取締役会非設置会社であればその決議によって決することが必要であり(会社法 348 条 3 項 4 号、362 条 4 項 6 号)、大会社に当たる場合には、これらの決定が義務付けられる(会社法 348 条 4 項、362 条 5 項)。また、委員会型の場合には、大会社であると否とを問わず、内部統制システムの内容を決議することが取締役会の義務とされている(会社法 399 条の 13 第 1 項 1 号ロ・ハ、同条 2 項、416 条1 項 1 号ロ・ホ、同条 2 項)。いずれの場合も主な決定内容は、①コンプライアンス体制を含むリスク管理体制(会社規則  98条 1 項、100 条 1 項、110 条の 4 第 2 項、112 条 2 項)の整備と、②監査役ないし監査等委員による監査の実効性を確保するための体制(会社法 416 条 1 項 1 号ロ、会社規則 98 条 4項、100 条 3 項、110 の 4 第 1 項、112 条 1 項)の整備の2つ。決定の内容と内部統制システムの運用状況の概要は、事業報告を通じて開示され(会社規則 118条 2 号)、内容の相当性が監査役や監査等委員の監査対象となる(会社規則 129 条 1 項 5 号、130 条の 2 第 1 項 2 号、131 条 1 項 2 号)。したがって、相当性のある決議をすることが取締役の善管注意義務の内容となるが、決議があっても実際のシステム構築や運用に問題があれば責任が生じる。他方で、決議がなくともシステムの構築および運用に問題がなければ注意義務違反と損害との因果関係は認められないと考えられることから、決議義務それ自体が直ちに取締役の責任と結びつくわけではない。ただし、予め決議を要求しておくことは、多種多様な内部統制システムの構築手段がある中で、システムの構築義務違反を認定しやすくなるといった機能を持つ。
  • 任務懈怠との関係;内部統制システム構築義務を問題とせず、単に取締役の監視義務違反のみで責任を追及しようとした場合には、直接的な監視が期待できない場所での、しかも日頃取締役と接触のない従業員の不祥事については、取締役の責任を追及することが難しくなる。それに対して、内部統制システム構築義務違反を問題とすれば、不祥事の未然防止や、早期発見・早期是正のシステムが構築されなかった点に、責任の根拠を見出すことが可能となる。①取締役が適切な内部統制システムを構築・改善していなかったという事実(体制整備義務違反)と、②構築された内部統制システムの中で、個々の取締役がそれを機能させるべき職務を怠ったという事実(運用義務違反)を分けて検討すること。
  • 信頼の原則との関係

 

Law Practice38 内部統制構築義務

1 X としては、A 社代表取締役 Y が「その任務を怠った」(423 条 1 項)といえる必要がある。X は Y が A 社の内部統制構築義務に違反、すなわち、取締役の会社に対する善管注意義務違反(330 条、民法 644条)が認められ、よって任務懈怠があると主張する。

2(1) 取締役の内部統制構築義務は善管注意義務の内容をなす。具体的には、①取締役が適切な内部統制システムを構築していなかったという体制整備義務と②構築されたシステムの中で取締役がそれを機能させるべき職務を怠ったという運用義務がある。①体制整備義務については、構築すべき最小限のシステムを前提としてその具体的な手段の選択とそれをどこまで充実させるかは取締役の裁量が働く、すなわち、経営判断の原則が妥当する。また②運用義務については、信頼の原則が妥当する。

(2) 本件において、Y は事業部門と経理部門を分離し、B 事業部についての受注処理を行って検収書を作成し、最終的に財務部に対し売上報告を行う C 課と取引先に赴き最終的な検収を行う D 課が設けられていた。また財務部と監査法人は定期的に取引先に書類を送付して売掛金の残高を確認していた。そうすると、Y は通常予想される架空売上の計上等の不正行為を防止し得る程度の管理体制を整備していた、すなわち、取締役が適切な内部統制システムを構築していえる(①)。また本件以前に同様の手法による不正行為が行われたことがあったなど、Yにおいて本件不正行為の発生を予見すべきであったという特別の事情もない。さらに B 事業部の部長らが取引先から売掛金残高確認書を回収し、確認があったように偽造して財務部または監査法人にこれを返送していた。また当該部長は正規案件の入金を架空の売掛債権に対する入金として処理する明細を財務部に提出するなどの偽造工作もしていた。そうすると、財務部がこれら偽装工作の結果、取引先から適正な売掛金残高確認書を受領しているものと認識し、直接取引先に売掛金債権の存在等を確認しなかったとしても、財務部におけるリスク管理体制が機能していなかったということはできない。そのため、Y が構築されたシステムの中でそれを機能させるべき職務を怠ったとはいえない(②)。

(3) したがって、Y の内部統制構築義務違反は認められず、Y が「その任務を怠った」とはいえない。

3 よって、X の請求は認められない。