○○法ガールになりたい。

○○法ガールといえるほど法学をマスターしたいなと思い作成したブログ。司法試験受験生。最近勉強なんてやめて結婚に逃げたい。

百選・Law Practice民訴法 起案 25~52

【25】 具体的相続分確認の訴え (最一小判平成12・2・24)

1 具体的相続分確認の訴えに確認の利益が認められるか。

2 訴えの具体的相続分は、遺産分割手続における分配の前提となるべき計算上の価額又はその価額の遺産の総額に対する割合を意味するものである。そして、それ自体を実体法上の権利関係であるということはできず、遺産分割審判事件における遺産の分割や遺留分減殺請求に関する訴訟事件における遺留分の確定等のための前提問題として審理判断される事項であり、これのみを別個独立に判決によって確認することが紛争の直接かつ抜本的解決のため適切かつ必要であるということはできない。

3 したがって、共同相続人間において具体的相続分についてその価額又は割合の確認を求める訴えは、確認の利益を欠くものとして不適法であると解する。

 

【26】 遺言者生存中に提起された遺言無効確認の訴え (最二小判平成11・6・11)

1 遺言者がアルツハイマー型老人性痴呆と診断され、心神喪失の常況にあり、病状の改善の見込みがない状態において、遺言者が生存中に遺言無効確認を求める訴えに、確認の利益が認められるか。

2 確認の訴えは、権利関係を観念的に確定するものであり、その性質上確認の対象は無限定である。そうすると、確認の訴えの利益は、真に紛争解決の必要性・実効性が認められる場合に限定する必要がある。具体的には、①確認対象の適否、②即時確定の利益、③方法選択の適否(確認訴訟によることの適否)により判断していくべきと考えられる。

そして、①の確認対象の適否については、ⅰ)自己の、ⅱ)現在の、ⅲ)権利・法律関係の、ⅳ)積極的確認請求である場合に、原則として認められる。このような場合には、その訴訟物である権利又は法律関係の存否の確認判決をすることが有効適切であると認められるからである。

そして、遺言は遺言者の死亡により初めてその効力が生ずるものであり(民法985条1項)、遺言者はいつでも既にした遺言を取り消すことができ(同法1022条)、遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときには遺贈の効力は生じない(同法994条1項)。そのため、遺言者の生存中は遺贈を定めた遺言によって、現在(ⅱ)、何らかの法律関係が発生しているわけではない(ⅲ)のであって、受遺者とされた者は、何らかの権利を取得するものではなく、単に将来遺言が効力を生じたときは遺贈の目的物である権利を取得することができる事実上の期待を有する地位にあるにすぎない。

3 したがって、遺言者が生存中に遺言無効確認を求める場合、受遺者とされた者の権利又は法律的地位に不安が現に存在しているとはいえず、遺言者が生存中に遺言無効確認を求める訴えに確認の利益が認められない。このことは、遺言者が心身喪失の常況にあって、回復する見込みがなく、遺言者による当該遺言の取消又は変更の可能性が事実上ない状態にあるとしても、受遺者とされた者の地位の右のような性質が変わるものではない。

 

【27】 条件付法律関係の確認――敷金返還請求権の確認 (最一小判平成11・1・21)

Law Practice 発展問題 3 確認の利益(2)-敷金返還請求権-

1 X としては、Y に対して賃貸借契約終了時に 240 万円の返還請求権が存在することを確定するために、保証金返還請求権確認訴訟を提起することが考えられる。

2 そこで、確認の訴えの利益が認められるかが問題となる。以下、検討する。

確認の訴えは、権利関係を観念的に確定するものであり、その性質上確認の対象は無限定である。そうすると、確認の訴えの利益は、真に紛争解決の必要性・実効性が認められる場合に限定する必要がある。具体的には、①方法選択の適否(確認訴訟によることの適否)、②確認対象の適否、③即時確定の利益により判断していくべきと考えられる。

(1) 方法選択の適切性

まず、本件では、X の権利や法律上の地位に対する危険や不安を除去するために、確認の訴えよりも適切な他の法的手段はないため、確認訴訟によることは方法選択として適切である。

(2) 確認対象の適切性

そうだとしても、将来の法律関係を確認対象とすることは、確認対象として適切であるといえるか。将来の法律関係は未必的であることから問題となる。

そこで考えるに、将来の法律関係について裁判所が予測することには限界があり、実際に生じる事態と齟齬が生じる可能性が常に存在する以上、それについての争いを現時点で解決することは有効・適切とはいえない。したがって、将来の法律関係については、確認対象の適切性は認められないのが原則である。

もっとも、将来の法律関係であっても、条件付きの法律関係と構成することを経由して現在の法律関係に引き直すことができる場合には、確認訴訟の紛争予防的機能を重視し、例外的に確認対象の適切性が認められるものと解する。

本件についてみると、X の主張によると、本件賃貸借契約が締結された際に、X から Y に対して差し入れた 300 万円は敷金であり、契約終了時には Y はその 2 割を償却し、8 割を返還する義務があるとしている。この点について、建物賃貸借契約における敷金返還請求権は、賃貸借契約終了後、建物明渡しがされた時に、それまでに生じた敷金の被担保債権の一切を控除し、なお残額があることを条件としてその残額について発生するものであり、賃貸借契約終了前においても、このような条件付きの権利として存在しているものとみることができる。

したがって、本件保証金返還請求権確認訴訟は、条件付きの法律関係と構成することを経由して現在の法律関係に引き直すことができる敷金返還請求権の存否を確認の対象とするものであるから、確認対象の適切性は認められる。

(3) 即時確定の利益

さらに、確認の利益が認められるためには、原告の権利・地位に不安・危険が生じていなければならず、かつ、その不安・危険は現実的なものでなければならない。

本件についてみると、Y は、保証金名目の金銭の差し入れがあったかどうかという事実そのものを争っており、仮に差し入れの事実が認められるとしても返還約束は存在していないと主張している。

このような Y の言動は、まさに X の地位を否認したり、X の地位と抵触する地位を主張するものであるから、原告の権利・地位に不安・危険が生じており、かつそれは現実的なものとなっているといえる。

したがって、本件では、即時確定の利益も認められる。

3 以上より、本件保証金返還請求権確認訴訟には、確認の利益が認められるので、裁判所は、本件訴訟を適法と認めてよい。

 

【28】 将来の法律関係の確認――雇用者たる地位の確認 (東京地判平成19・3・26)

1 被告会社が平成19年6月30日限りでRA(リスクアドバイザー)制度を廃止する方針を提案・通知したことから、これを無効とする原告らが7月1日以降もRAの地位を有することの確認を求めた事案で、確認の利益が認められるか。

2 確認の訴えは、権利関係を観念的に確定するものであり、その性質上確認の対象は無限定である。そうすると、確認の訴えの利益は、真に紛争解決の必要性・実効性が認められる場合に限定する必要がある。具体的には、①方法選択の適否(確認訴訟によることの適否)、②確認対象の適否、③即時確定の利益により判断していくべきと考えられる。

そして、当該訴えは、将来の法律関係の確認を求めるものであるから、確認対象の適格性との関係が問題となり、また、即時確定の利益との関係も問題となる。

(1) まず、確認対象の適格性は、原則として現在の権利又は法律関係に認められる。もっとも、将来の権利又は法律関係であっても、侵害の発生する危険が確実視できる程度に現実化しており、かつ、侵害の具体的発生を待っていたのでは回復困難な不利益をもたらすような場合には、確認の対象として許容する余地があるというべきである。

  本件では、確認対象の適格性が認められる。

(2) 次に、即時確定の利益、被告が原告らの権利を否定したり、権利関係について原告らの主張と相容れない主張をしたり、そのために原告らの権利者としての地位に危険や不安が生じている場合などのように、一定の権利又は法律関係の存否を原告らと被告との間で判決により早急に確認する必要があり、かつ、当該確認判決を得ることによって、原告らの権利又は法的地位につき存する危険や不安が除去されることが期待しうる場合には、これを認めるのが相当である。

  本件では、平成19年7月1日以降のRAとしての地位について危険及び不安が存在・切迫しており、即時確定の利益も認められる。

3 よって、本件訴えに確認の利益が認められる。

 

【29】 債務不存在確認訴訟の訴えの利益 (最一小判平成16・3・25)

1 巨額の生命保険を掛けた後に自殺した零細企業の経営者の保険金請求をめぐる事件で、当該零細企業X1及び経営者の妻X2が生命保険会社に対して保険金の支払を求めた(第一事件)ことから、生命保険会社がXらに対して保険金支払債務の不存在確認請求訴訟(第二事件)を提起し、その後、第二事件に関してXらが生命保険会社に対して保険金の支払を求める反訴(第三事件)を提起した。この場合に、①第三事件は二重起訴として不適法とならないか、また、②仮に第三事件が不適法とならない場合、第二事件は訴えの利益を消失しないか、が問題となる。

2 まず、第三事件を、別訴として提起することは二重起訴禁止に触れるが、反訴として提起することは、判決相互の矛盾抵触は生じず、二重起訴の禁止に反しないと解する。

3 次に第二事件の訴えの利益については、確認訴訟と給付訴訟とは訴訟物が給付義務の有無である点で共通であり、給付訴訟の方が執行力を付与できる点で紛争解決機能が高いことから、給付訴訟の反訴が提起された以上、債務不存在確認訴訟の審理は不要となり、訴えの利益を消失し、訴え却下とすべきと解する。

 

【30】 株主総会決議取消しの訴え(決議の瑕疵を争う訴え) (最一小判昭和45・4・2)

(省略) 会社法に譲る

  • 類似必要的共同訴訟とは、共同訴訟とすることが強制されるわけではないが、共同訴訟とされた以上は、合一確定が要請され勝敗が一律に決まらなければならない訴訟形態をいう。⇒どのような場合に類似必要的共同訴訟となるかについては、通説は、判決効(既判力、対世効)の拡張がある場合としている。 ⇒ 数人の株主が提起する株主総会決議取消しの訴えはこれに当たる。

 

【31】 訴権の濫用 (最一小判昭和53・7・10)

(省略) 会社法に譲る

 

【32】 請求の特定――東海道新幹線騒音事件 (名古屋高判昭和60・4・12)

1 東海道新幹線鉄道列車の走行によって発生する騒音及び振動を、午前7時から午後9時までの間においては騒音65ホン、振動毎秒0.5mm、午前6時から同7時及び午後9時から同12 時までの間においては騒音55ホン、振動毎秒0.3mmを超えて進入させてはならないとの差止めを求めて訴えを提起した場合、このような手段方法を問わず結果の実現のみを目的とすること(抽象的不作為請求)は①請求の特定や②執行可能性に欠けないか。

2 これについて、実体法上は、一般に契約に基づいて、(手段方法は問わず)結果の実現のみを目的とする請求権を発生せしめ、これを訴求しうることは疑いないところであるから、訴訟上も、手段方法を問わず結果の実現のみを目的とすること(抽象的不作為請求)は請求の特定に欠けないと解すべきである。

3 また、抽象的不作為請求の場合、作為又は不作為義務の強制執行につき代替執行により行い得ないが、このような場合に備えて間接強制が認められているから、執行可能性も認められるというべきである。

 

【33】 訴えの交換的変更 (最一小判昭和32・2・28)

1 控訴審における訴えの交換的変更には、被告の同意を要するか。

2 そもそも、訴えの交換的変更とは、新請求を追加して、その併合を待って、その訴訟係属後に旧請求を取り下げるか、または放棄する複合的行為であると解する(261 条 2 項類推)。

そして、旧訴の訴訟係属を消滅させるためには訴えの取下げ又は請求の放棄が必要である以上、訴えの交換的変更の際にも、被告の同意を要するのが原則である。

もっとも、261条2項が被告の同意を要求した趣旨は、被告の利益保護の点にある。そうであれば、控訴審での変更は、旧請求の訴えの取下げとみる限り再訴禁止効が生じるため(同法262 条2項)、被告の同意の有無にかかわらずこれを認めても被告の利益が害されることはない。

3 よって、控訴審における訴えの交換的変更には、旧請求の訴えの取下げとみる限り被告の同意を要しない。

 

【34】 占有の訴えと本権の訴え (最一小判昭和40・3・4)

1 占有の訴えに対して本権に基づく反訴を提起することは、占有の訴えにおいて本権に関する理由に基づいて裁判することを禁ずる民法202条2項に反しないか。

2 これについて、同法202条2項は、占有の訴えにおいて本権に関する理由に基づいて裁判することを禁ずるものであり、占有の訴えに対し防禦方法として本権の主張をなすことは許されない。

しかし、防禦方法としての抗弁と独立の請求としての反訴は異なる。

3 よって、占有の訴えに対し本権に基づく反訴を提起することは、右法条の禁ずるところではないと解する。

 

【35】 境界確定の訴え (最一小判昭和43・2・22)

Law Practice基本問題7 筆界確定訴訟

第1 設問前段について

1 X は、甲地・乙地の筆界は cd を結ぶ線であると主張し、Y に対して筆界確定訴訟を提起しているところ、Y は abcd で囲まれた部分について取得時効が成立していると主張し、裁判所もそのように判断している。このような場合、X の当事者適格を認めて、cd を筆界とする判決を出すことはできるか。筆界確定訴訟における当事者適格をどのように考えるべきかと関連して問題となる。

2 ここに、筆界確定訴訟とは、隣接する土地の公法上の境界線が不明な場合に、判決によって境界線を定めることを求める訴えをいう。筆界確定訴訟は、境界線の形成という法律関係の変動を求めるものであるから、形成訴訟の性質を有するものであるが、形成原因が具体的に定められておらず、訴訟物たる形成原因を観念することができないためにどのような判決を下すべきかが裁判官の合目的的な裁量に委ねられている点で、形成の訴えとは異なる訴訟類型、すなわち、形式的形成訴訟の1つであると解する。そして、当事者適格とは、特定の訴訟物について当事者として訴訟を追行し、本案判決を受けることができる資格をいうこところ、筆界確定訴訟においては、境界を挟んで相隣接する土地それぞれの所有者が、訴訟の結果について最も密接な利害関係を有するといえるため、当事者適格が認められるのが原則である。もっとも、一方当事者の土地のうち、境界の全部に接する部分を他方当事者が時効取得した場合であっても、境界に争いのある隣接土地の所有者同士という関係には変わりがないこと、および、その部分の所有権の取得時効を第三者に対抗するためには所有権移転登記をする必要があるが、時効取得した土地の範囲は境界が明確になることによって定まる関係にあるから、登記の前提として時効取得した土地を分筆するためにも、両土地の境界の確定が必要となることから、隣接する土地所有者同士に当事者適格が認められるものと解する。

本件についてみると、裁判所は abcd について Y の取得時効が成立すると判断しているものの、甲土地と乙土地はなお隣接しており、X および Y は隣接する土地所有者同士といえるため、X に   は当事者適格が認められる。

3 したがって、裁判所は、X の当事者適格を認めて cd を筆界とする判決を出すことができる。

第2 設問後段について

1 cd を筆界とする判決が出され、Y が控訴している場合に、控訴審でアイを筆界とする判決を出すことはできるか。このような判決を出すことは不利益変更禁止の原則(304 条)に反するのではないか。形式的形成訴訟に不利益変更禁止の原則の適用があるかと関連して問題となる。

2 ここに、不利益変更禁止の原則とは、控訴裁判所は、相手方の控訴または附帯控訴がない限り、控訴人の不利に第1審判決の取消しまたは変更をすることができないことをいう。このような不利益変更禁止の原則は、処分権主義に由来するものである以上、処分権主義の妥当しない局面においては、不利益変更禁止の原則も妥当しないというべきである。そして、形式的形成訴訟の1つである筆界確定訴訟においては、公法上の境界は当事者が自由に処分することができるものではないため、処分権主義は妥当しない。したがって、処分権主義が妥当しない筆界確定訴訟においては、不利益変更禁止の原則も妥当しないものと解する。

3 よって、本件においても、控訴審は原判決を取り消してアイを筆界とする旨の判決を出すことができる。  もっとも、受訴裁判所は不意打ちを避けるためにアイを筆界とする旨の主張について釈明する義務があり、当事者の主張していない事実や職権証拠調べの結果については当事者に提示し、主張や反対証拠を提出する機会を与え、当事者の手続保障を図るべきである。

 

【36】 訴え提起と不法行為 (最三小判昭和63・1・26)

1 民事訴訟の提起が、不法行為民法709条)を構成するか。

2 被告としては、応訴を強いられ弁護士費用も負担しなければならない等の経済的・精神的負担を余儀なくされるのだから、応訴者に不当な負担を強いる結果を招くような訴えの提起は違法とされうる。もっとも、裁判を受ける権利が保障される以上、紛争の終局的解決を裁判所に求めることは最大限尊重されなければならず、訴えの提起が不法行為を構成するか否かは慎重に判断されなければならない。そして、紛争の解決を求めて訴えを提起することは原則として正当な権利であり、敗訴したことをもって直ちに訴え提起が違法ということはできない。

そこで、提訴者の主張する権利等が事実的・法律的根拠を欠くものである上、提訴者がそれを知りつつ又は通常人であれば容易に知りえたにもかかわらずあえて、訴えを提起するなど、訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められる場合に限り、違法となると考える。

これを本件について見るに・・・

3 よって・・・

 

【37】 重複する訴え(1)――債務不存在確認請求と手形訴訟 (阪高判昭和62・7・16)

1 手形金について、手形の振出人及び保証人であるYらが Xに対し債務不存在確認を求める別訴を大阪地裁に提起し、同裁判所に係属中であったという状況で、XがYらに対し手形金の支払を求める訴訟を大阪地裁に提起した。この場合、重複起訴の禁止(民訴法142 条)に抵触しないか。同一請求権について給付訴訟と確認訴訟とが提起された場合の処理が問題となる。

2 これについては、別件の訴えのうち手形金債務不存在確認を求める請求に関する部分と本件の訴えは、いずれも同一当事者間において、本件手形金債権につき、前者が消極的にその不存在の確認を求め、後者が積極的にその存在を前提として手形金及び利息の支払を求めるものであって、両請求にかかる判決の既判力の範囲は同一である。そのため、Xが上記支払を求める請求を別件の訴えに対する反訴の形式をもってすることなく、独立の訴えの提起によってすれば、民訴法142 条の規定が防止しようとしている審理判断の重複による不経済、既判力抵触の可能性及び被告の応訴の煩という弊害が生じ、同一の事件に当たるといわなければならない。

しかし、手形訴訟は厳格な証拠制限が存する点において通常訴訟とは異なる手続であるところ、手形金債務不存在確認訴訟において手形金支払請求の反訴を提起するには、「同種の手続」(136条)にあたらないため、手形訴訟によることは許されず、通常訴訟の方式によらざるを得ない。これでは、簡易迅速な債務名義の取得及び強制執行による満足を図り、もって手形の経済的効用を維持するという手形訴訟の目的が害されることになる。また、手形債務者において先制的に手形金債務不存在確認訴訟を提起することで手形訴訟の提起を妨げることが可能となってしまう。

3 そこで、手形金債務不存在確認訴訟係属中に手形金請求訴訟を別訴提起することは、例外的に142条に反しないと考えるべきである。

 

【38】 重複する訴え(2)――相殺の抗弁 (①最三小判平成3・12・17②平成10・6・30)

Law Practice発展問題6 二重起訴と相殺の抗弁

第1 設問(1)

1 B が別訴で 2000 万円の売買代金債権の支払を求める訴えを提起することは、重複訴訟の禁止(142 条)に触れ、不適法却下すべきではないか。

2 まず、A が B に対する 2000 万円の売買代金債権の支払を求める訴訟において、B は対当額で相殺する旨の予備的抗弁を主張しているところ、このような相殺の予備的抗弁の主張は、単なる攻撃防御方法にすぎないため、「裁判所に係属する事件」にはあたらない。したがって、B が別訴で 2000 万円の売買代金債権の支払を求める訴えを提起することは、重複訴訟の禁止に触れないのが原則である。

もっとも、重複訴訟の禁止の制度趣旨は、二重に訴訟追行を強いられる相手方(被告)の応訴の煩という弊害を防止し、審判の重複による訴訟不経済、判決内容の矛盾抵触のおそれを回避することにあるところ、相殺の抗弁は、「相殺をもって対抗した額について既判力を有する」(114 条 2 項)とされるため、この場合別訴を認めると重複審理となり、判決内容の矛盾抵触のおそれも生じる。

そこで、142 条を類推適用することで、後訴を不適法却下すべきではないかが問題となる。ここに、抗弁先行型とは、ある訴訟(先行訴訟)で相殺の抗弁に供していた債権を、訴求債権(訴訟物)として別訴を提起する場合をいう。この場合、別訴を提起したのは前訴被告であるところ、相殺の担保的機能を維持したいのであれば、前訴の相殺の抗弁を維持すれば足り、わざわざ別訴を提起する必要はない。また、早く債務名義を得て執行したいというのであれば、相殺の抗弁の撤回は、単なる攻撃防御方法の撤回であって、相手方の同意を必要としない(261 条 2 項本文参照)のであるから、前訴での抗弁を撤回して後訴に集中すればよい。そこで、抗弁先行型の場合には、審理の重複による訴訟不経済ないし判決内容の矛盾抵触の可能性を重視して、重複訴訟禁止規定の類推適用を認め、後訴の提起は許されないものと解する。

本件についてみると、B は前訴で相殺の抗弁に供していた債権を、訴求債権として別訴を提起しており、抗弁先行型の事例である。

3 したがって、裁判所は、B が別訴で 2000 万円の売買代金債権の支払を求める訴えの提起について 142 条を類推適用し、不適法却下すべきである。なお、この場合、B としては、相殺の抗弁が判断されることを解除条件とする予備的反訴(146条 1 項本文)として売買代金請求をすることはできるものと解する。

第2 設問(2)

1 A が別訴において、2000 万円の売買代金債権により、対当額で相殺する旨の主張は、重複訴訟の禁止(142 条)に触れ、不適法な主張ではないか。

2 相殺の抗弁の主張は、単なる攻撃防御方法の主張にすぎないため、「更に訴えを提起する」にはあたらない。したがって、A が別訴において相殺の抗弁を主張することは、重複訴訟の禁止に触れないのが原則である。

もっとも、重複訴訟の禁止の制度趣旨は、二重に訴訟追行を強いられる相手方(被告)の応訴の煩という弊害を防止し、審判の重複による訴訟不経済、判決内容の矛盾抵触のおそれを回避することにあるところ、相殺の抗弁は、「相殺をもって対抗した額について既判力を有する」 (114 条 2 項)とされるため、この場合、相殺の抗弁の主張を認めると重複審理となり、判決内容の矛盾抵触のおそれも生じる。そこで、142 条を類推適用することで、後訴における相殺の抗弁の主張を不適法とすべきではないかが問題となる。

ここに、訴え先行型(抗弁後行型)とは、ある訴訟で訴求している債権を、別の訴訟で相殺の抗弁における反対債権(自働債権)に供する場合をいう。この点について、確かに、審理が重複して訴訟上の不経済が生じる可能性があり、相殺をもって対抗した額の不存在に既判力が生じ(114 条 2 項)自働債権の存否につき矛盾抵触する判決が生じて法的安定性を害する可能性があるため、重複訴訟禁止の規定を類推適用し、相殺の抗弁の主張は不適法であると考えることもできそうである。しかし、先行訴訟と後行訴訟との間で、同一債権の重複審理の危険が生じたのは、前訴被告が別訴を提起したことに起因する。すなわち、前訴被告としては、前訴において反訴(146 条 1 項本文)を提起するという方法があるにもかかわらず、あえて別訴を提起している。この点について、仮に重複訴訟禁止規定の類推適用により、相殺の抗弁の主張が不適法であるとすると、前訴原告が後訴で相殺の担保的機能への期待を貫徹したいと考えるときに、そのような期待が害されることになり妥当でない。なぜなら、この場合、相殺の抗弁を提出するためには、前訴を取り下げなければならないところ、前訴の取下げには被告の同意が必要(261 条 2 項本文)となり、同意が得られないと相殺を主張することができず、あえて別訴を提起するような前訴被告から同意を得ることは極めて難しいと考えられるからである。そこで、訴え先行型(抗弁後行型)の場合には、前訴原告の相殺の担保的機能への期待を重視すべきであり、それゆえ、重複訴訟禁止規定の類推適用はなく、後訴における相殺の抗弁の主張は許されるものと解する。

本件についてみると、A は前訴で訴求している債権を、別の訴訟で相殺の抗弁における反対債権に供しており、訴え先行型(抗弁後行型)の事例である。

3 したがって、重複訴訟禁止規定の類推適用はなく、裁判所は、A の相殺の抗弁を適法とすべきである。

 

【39】 郵便に付する送達 (最一小判平成10・9・10)

1 原告からの誤った回答に基づき、訴状等の送達が付郵便送達の方法により実施され、被告が現実に訴訟に関与する機会のないまま判決がなされて確定した場合に、付郵便送達は適法といえるか。

2 受送達者の就業場所の認定に必要な資料の収集については、担当裁判所書記官の裁量に委ねられている。そこで、担当裁判所書記官としては、相当と認められる方法により収集した認定資料に基づいて、就業場所の存否につき判断すれば足りると解する。

3 認定資料の収集につき、裁量権の範囲を逸脱し、あるいはこれに基づく判断が合理性を欠くなどの事情がない限り、上記付郵便送達は適法である。

Law Practice発展問題8 郵便に付する送達

第1 後訴Ⅰについて

1 本件では、Y の担当者が書記官 P の照会について具体的な調査をしないまま X の就業場所は不明であるなどの回答を行ったことで、書記官 P は付郵便送達(107 条 1 項 1 号)を実施し、X 欠席のまま擬制自白に基づく全部認容判決が言い渡され、確定している(前訴)。

 そこで、X は、Y が誤った回答をしたことに故意または重過失があるとして、Y に対して、①敗訴判決による損害の賠償および、②前訴に関与する機会を奪われたことによる精神的損害の賠償を求めることはできるか。

再審(338 条 1 項 3 号類推)によることなく、このような後訴を提起することは、前訴の既判力   (114 条 1 項)に抵触し許されないのではないかが問題となる。

2 ここに、既判力とは、確定判決の判断に与えられる通有性ないし拘束力をいう。当事者間に確定判決が存在する場合に、その判決の成立過程における相手方の不法行為を理由として、確定判決の既判力ある判断と実質的に矛盾する損害賠償請求をすることは、確定判決の既判力による法的安定を著しく害する結果となるため、許されないのが原則である。もっとも、故意に訴訟関与を妨げたり、裁判所を欺罔する等して確定判決を取得する場合のように、当事者の一方の行為が著しく正義に反し、確定判決の既判力による法的安定の要請を考慮してもなお容認し得ないような特別の事情がある場合には、例外的に、再審を経ることなく、判決の成立過程における相手方の不法行為を理由として、損害賠償請求をすることができるものと解する。他方で、慰謝料請求については、手続に関与する法的利益が害されたことを理由とするものであり、確定した前訴判決の既判力ある判断と実質的に矛盾する損害賠償請求にはあたらないため、認められるものと解する。

3(1) ①敗訴判決による損害の賠償について

本件についてみると、確かに、Y の担当者は、P の照会について具体的な調査をしないまま、Xの就業場所は不明であると回答している。すなわち、Y の担当者は、P からの照会に対して必要な調査を尽くすことなく安易に誤って回答した点において、誠実な調査義務を怠っているものといえ、過失が認められる。しかし、本件の事実関係からは、Y の担当者には、X が訴訟に関与することを故意に妨げようとする意図や P を欺罔する意図までは認められない。そうすると、本件では、当事者の一方の行為が著しく正義に反し、確定判決の既判力による法的安定の要請を考慮してもなお容認し得ないような特別の事情はないというべきである。したがって、X は、Y が誤った回答をしたことに故意または重過失があるとして、Y に対して、敗訴判決による損害賠償の請求を行うことはできない。

(2) ②前訴に関与する機会を奪われたことによる精神的損害の賠償について

他方で、前訴に関与する機会を奪われたことによる精神的損害の賠償請求については、手続に関与する法的利益が害されたことを理由とするものであり、確定した前訴判決の既判力ある判断と実質的に矛盾する損害賠償請求ではないため、認められる。

4 よって、裁判所は、②の請求については、認容判決を行うべきである。

第2 後訴Ⅱについて

1 それでは、X は Z に対して、国家賠償法 1 条 1 項に基づく損害賠償請求を行うことはできるか。書記官 P の付郵便送達が「違法」といえるかが問題となる。

2 そもそも、受送達者の就業場所の認定に必要な資料の収集については、担当裁判所書記官の裁量に委ねられており、担当裁判所書記官は、相当と認められる方法により収集した認定資料に基づいて、就業場所の存否について判断すれば足りる。

したがって、受送達者の就業場所の存在が事後に判明した場合に、当該付郵便送達が「違法」であるかどうかは、①書記官の認定資料収集が合理性のあるものであったかどうか、また、②これに基づく付郵便送達の判断が合理的なものであったかどうかという観点から判断し、合理性が認められない場合には、裁量権を逸脱するものとして「違法」となるものと解する。

3(1) 本件についてみると、①書記官 P は、訴状記載の X の住所に訴状の送達を試みたが X 不在で奏功しなかったことから、Y に対して X が上記住所に居住しているかおよび就業場所について、調査し回答するよう求めている。この点について、Y の担当者は、X が出張中であるとしながら、就業場所を不明とする矛盾した回答をしている。そうすると、P としてはこのような不可解な回答に疑問を抱き、Y の調査先の確認を行い、Y の回答書の信憑性及び X の就業場所について具体的に精査すべきであったといえる。それにもかかわらず、このような調査・収集を行っていない本件では、P の認定資料収集に合理性は認められない。

(2) また、②仮に Y の回答書をそのまま基礎とするにしても、X が出張中で帰る日程が明らかであること、及び、X の家族が住所地に居住していることから、夜間等の補充送達(106 条1項前段、2 項)を試みる、または、X の帰る日程に合せて住所での交付送達(101 条、103 条 1 項本文)を試みるといった送達方法を採るべきであった。したがって、P の付郵便送達の判断の合理性も認められない。

(3) そうすると、本件では、書記官 P が付郵便送達を行ったことは、裁量権を逸脱するものとして「違法」となるというべきである。以上より、国家賠償法 1 条 1 項の他の要件も満たす本件では、裁判所は、X の請求を認容すべきである。

 

【40】 補充送達の効力 (最三小決平成19・3・20)

Law Practice発展問題 24 補充送達と再審

1 X は、自分の意思で A の連帯保証をしたことはなく、A が X に無断でしたことであると主張して、前訴判決の確定から 2 年後に、再審の訴え(338 条 1 項本文)を提起することはできるか。

2 まず、再審の訴えの可否を検討する前提として、補充送達(106 条 1 項)の効力について検討する。本件では、連帯保証人である X の受け取るべき訴状等は、全て同居する主債務者である A が受領しているところ、このような事実上の利害関係がある者が受け取る補充送達(106 条 1 項)も有効な送達として認められるかが問題となる。

106 条 1 項は、就業場所以外の送達をすべき場所において送達を受けるべき者に出会わないときは、使用人その他の従業者又は同居者であって、書類の受領について相当のわきまえのある者に書類を交付すれば、受送達者に対する送達の効力が生じるものとしており、その後、書類が同居者等から受送達者に交付されたか否か、同居者等が交付の事実を受送達者に告知したか否かは、問題としていない。また、実際上も、事実上の利害関係の存否によって送達の効力が左右されるとすると、送達実施機関が同居人等につき事実上の利害関係の有無を判断しなければならなくなり、送達制度の実効性を著しく欠くことになり妥当でない。そこで、受領権限があるかどうかは外見から客観的に判断されるべきで、受送達者と同居者等との間に事実上の利害関係があったとしても、「相当のわきまえのある者」に交付すれば、補充送達は有効であると解する。

本件についてみると、X は自らの意思で A の債務について連帯保証をしたことはなく、A が X に無断で X の印章を持ち出して連帯保証契約を締結したという点で、X と A との間には事実上の利害関係の対立がある。もっとも、A は送達の趣旨を理解して交付を受けた書類を受送達者に交付することを期待することができる程度の能力について問題なく認められるのであるから、外見上客観的に「相当のわきまえのある者」に対して書類を交付したものとして、補充送達は有効であったというべきである。

3 それでは、このように補充送達が有効である場合にも、X は再審の訴えを提起することはできるか。ここでは、338 条 1 項 3 号の再審事由が認められるかが問題となる。

そこで考えるに、338 条 1 項 3 号は、当事者に手続関与の機会がなかった場合に、再審によって救済を与えることを趣旨とするものであるところ、たとえ補充送達が有効であったとしても、受送達者と同居者にその訴訟につき事実上の利害関係の対立があるために、同居者から受送達者に訴状等を速やかに交付することが期待できず、実際にも交付されなかったときは、受送達者が訴訟手続に関与する機会を与えられなかったといえるため、同条同号の再審事由が認められると解する。

本件についてみると、前記のとおり、X と A には事実上の利害関係の対立があり、X の受け取るべき訴状等は全て同居する A が受領している。そして、実際にも A から X へ訴状等が交付されたという事実は認められないため、X は訴訟手続に関与する機会を与えられなかったといえる。

4 したがって、X は、自分の意思で A の連帯保証をしたことはなく、A が X に無断でしたことであると主張して、前訴判決の確定から 2 年後に、再審の訴え(338 条 1 項本文)を提起することはできる(342 条 3 項)。

 

【41】 口頭弁論の再開 (最一小判昭和56・9・24)

1 裁判所が弁論を再開(民訴法153条)させないまま判決をすることが違法とされることはあるか。

2 いったん終結した弁論を再開するか否かは、裁判所の専権事項に属し、当事者は権利として裁判所に対して弁論の再開を請求することができない。もっとも、裁判所の上記裁量権も絶対無制限のものではない。そこで、弁論を再開して当事者に更に攻撃防禦の方法を提出する機会を与えることが、明らかに民事訴訟における手続的正義の要求するところであると認められるような特段の事由がある場合には、裁判所は弁論を再開すべきものであり、これをしないでそのまま判決をするのは違法となると考える。

3 これを本件について見るに・・・

 

【42】 攻撃防御方法の提出と信義則 (最三小判昭和51・3・23)

  • 訴訟上の信義則は一般条項としての役割が期待されているため、その発現形態は一様ではない。そのため、信義則の適用が問題になりうる当事者の行為態様を信義則の内容に応じて分類した上で、類型ごとに定立された諸要件の充足性によって信義則違反を基礎づける方法が妥当である。まず分類としては、ⅰ訴訟状態の不当形成の排除、ⅱ訴訟上の禁反言(先行行為に矛盾する挙動の禁止)、ⅲ訴訟上の権能の失効、ⅳ訴訟上の権能の濫用禁止、という4つに分けられる。そして、分類ⅱ、すなわち訴訟上の禁反言に抵触するかを判断する要件は、①当事者が訴訟上又は訴訟外で一定の態度をとりながら、後にこれと矛盾する訴訟上の行為をすること(行為矛盾)、②当事者の先行行為を相手方が信頼して自己の法的地位を決めたこと(相手方の信頼)、③矛盾した後行行為を容認したのでは、先行行為を信頼した相手方の利益を不当に害する結果となること(相手方の不利益)となる。

 

 

  •  和解による訴訟の終了と建物買取請求権の帰趨 (東京地判昭和45・10・31)

1 建物買取請求権行使の撤回の実体的効力

建物買取請求権(借地法10条)は実体法上の形成権であるので、その意思表示が相手方に到達すると同時にその形成的効果を生ずるものである。そして、かかる形成権が訴訟上行使されたものの、訴訟手続が訴えの取下げや和解などによって終了し、あるいは民事訴訟法157条によって不適法却下されたため訴訟行為としての意味を失ってしまった場合には、一旦発生したその実体的効力は、初めに遡って消滅すると考える。

2 建物買取請求権行使の撤回の建物賃借人に対する影響

 他方で、上記裁判上の和解をしたことによって、建物賃借人に対する関係においては、建物買取請求権行使の撤回の影響はないと考える。なぜなら、上記和解によって建物賃借人の利益を害することは許されないからである(民法538条類推適用)。

 

【44】 相殺に対する反対相殺 (最一小判決平成10・4・30)

1 被告の訴訟上の相殺の抗弁に対し、原告が訴訟上の相殺を再抗弁として主張することは許されるか。

2 相殺の抗弁が条件付きの相殺を内容としたものであることから、反対相殺の再抗弁は仮定の上に仮定が積み重ねられて当事者間の法律関係を不安定にし、いたずらに審理の錯雑を招く(審理の錯雑化)。また、原告には訴えの追加的変更や別訴の提起といった代替的な法的手段がある(代替可能性)。さらに、例外規定である114条2項の適用範囲を無制限に拡大することは相当でない。

3 そこで、訴訟上の相殺の抗弁に対し、訴訟上の相殺を再抗弁として主張することは不適法として許されないと考える。

 

【45】 時期に後れた攻撃防御方法の提出 (最二小判昭和46・4・23)

Law Practice基本問題15 時機に後れた攻撃防御方法

1 本件では、3 回の口頭弁論期日および 6 回の弁論準備手続期日において両当事者は主張・立証を展開し、争点とされた事項について 2 回の証拠調べ期日が終了している。その後、Y は建物買取請求権(借地借家法 13 条)の行使を主張している。

2 そこで、裁判所は、Y の建物買取請求権(借地借家法 13 条)の主張は時機に後れた攻撃防御方法(157 条 1 項)であるとして却下することはできないか。同条の要件を満たすかが問題となる。

(1) 「時機に後れた」

ア ここに、「時機に後れた」とは、より早期の適切な時期に提出できたことを意味し、弁論準備手続などの争点整理手続が行われたときは、その終了後の提出は、特段の事情がない限り、「時機に後れた」ものと判断される。

イ 本件についてみると、Y の建物買取請求権行使の主張は、3 回の口頭弁論期日および 6 回の弁論準備手続期日において主張・立証を展開した後になされており、争点整理が終結し、さらに集中証拠調べが終わった時期のものであるから、より早期の適切な時期に提出できたといわざるをえず、「時機に後れた」にあたる。

ウ したがって、本件では、「時機に後れた」の要件を満たす。

(2) 「故意または重過失」

ア 次に、「故意または重過失」とは、一般通常人に期待される注意義務を欠くような場合をいい、通常人であればそのような攻撃防御方法が存在すること、あるいは、提出すべきであることに少しの注意を払えば気付くはずであるのに、気付かなかったことをいう。

イ 本件についてみると、確かに、Y としては正当事由の存在を争いながら、他方で正当事由の存在を前提とした建物買取請求権を主張することは、自身の弱みを認めることにつながり、期待しがたいとして、「重過失」を否定すべきと考えることもできそうである。しかし、仮定的な主張として、建物買取請求権の行使を主張することは十分期待できるし、仮定的に主張したからといって、訴訟の勝敗が左右するとは通常考えにくい。そうすると、建物買取請求権の行使の主張は、通常人であれば、これを提出すべきであることに少しの注意を払えば気付くはずであるのに、気付かなかったものといえ、一般通常人に期待される注意義務を欠くものとして、「故意または重過失」にあたる。

ウ したがって、本件では、「故意または重過失」の要件も満たす。

(3) 「訴訟の完結の遅延」

ア ここで、「訴訟の完結の遅延」が認められるかどうかは、その攻撃防御方法を却下した場合に想定される訴訟完結時と、その攻撃防御方法の審理を続行した場合に想定される訴訟完結時を比較して判断される。

イ 本件についてみると、既に 3 回の口頭弁論期日および 6 回の弁論準備手続期日において両当事者の主張・立証がなされ、争点とされた事項について2回の証拠調べ期日が終了している。したがって、建物買取請求権行使の主張を却下した場合には、早期の訴訟完結が予想される。

これに対して、建物買取請求権行使の主張を認める場合には、建物買取請求権が成立し、Xの訴えが建物の引渡請求に変更され、Y から建物代金の支払との同時履行の抗弁(民法 533 条本文)が提出されれば、建物の時価の審理が不可欠となる。

そうすると、建物買取請求権行使の主張を認めた場合に想定される訴訟完結時は、これを却下する場合よりも相当先になると考えられる。

ウ したがって、本件では、「訴訟完結の遅延」の要件も満たす。

3 以上より、裁判所は、Y の建物買取請求権行使の主張を、時機に後れる攻撃防御方法の提出として、却下すべきである。なお、このような裁判所の判断に対しては、建物収去判決確定後においても建物買取請求権の行使は既判力(114 条 1 項)によって遮断されず後訴で主張することは許されるのであるから、むしろ本件訴訟で決着をつけるべきであり、157 条 1 項によって却下するのは妥当でないとの批判が考えられる。しかし、基準時後に建物買取請求権を行使し、その効果を主張するためには、請求異議の訴え(民事執行法 35 条 1 項本文)などの後訴を提起しなければならず、適切な時機に建物買取請求権を行使しなかった制裁として、Y に提訴負担を課すべきであるから、本件結論はなお妥当であるというべきである。

 

【46】 当事者からの主張の要否(1)――所有権喪失事由 (最一小判昭和55・2・7)

Law Practice基本問題17  弁論主義(1):所有権取得の経過来歴

1 裁判所は、C が主張していない A から B への死因贈与(民法 554 条)があったという事実を認定した上で、X の請求を棄却することは、弁論主義に反し許されないのではないか。ここでは、弁論主義が適用される事実とはどのような事実をいうのかと関連して問題となる。

2 ここに、弁論主義とは、判決の基礎をなす事実の確定に必要な資料の提出(事実の主張、証拠の申出)を当事者の権能および責任とする建前をいう。そして、弁論主義が適用されるのは、権利の発生・変更・消滅という法規の構成要件に直接該当する事実である主要事実に限られ、経験則、論理法則の助けを借りることによって主要事実を推認するのに役立つ事実である間接事実、及び証拠の評価にかかわる事実である補助事実には適用がないものと解する。なぜなら、当事者の意思の尊重・不意打ち防止のためには、訴訟の勝敗を決する主要事実について弁論主義の適用を認めれば十分であるし、間接事実や補助事実はともに主要事実の存否を推認させるという点で証拠と同様の機能を営むから、当事者の主張の有無による制約を受けるべきではないと解するのが妥当であること、さらに、仮に、間接事実に弁論主義が及ぶものとすれば、裁判所は既に証拠から判明している間接事実を用いることができなくなり、不自然で窮屈な判断を強いられることになり、自由心証主義(247 条)を認めた法の趣旨に反することになるからである。

また、相続による特定財産の取得を主張する者は、①被相続人の財産所有が争われているときは同人が生前その財産の所有権を取得した事実、および、②自己が被相続人の死亡により同人の遺産を相続した事実を主張立証すれば足り、③被相続人の特段の処分行為により当該財産が相続財産の範囲から逸出した事実は、相続人による財産の承継取得を争う者において抗弁として主張立証すべきものと解する。本件についてみると、C は、D から土地を買い受けたのは A ではなくて B であり、その B から C が相続をしたと主張するにとどまっている。このような事実は、被相続人である A が所有権を取得したという主要事実と両立しない積極否認事実にすぎない。これに対して、A が所有権を取得したことを認めつつ、A から B に死因贈与により所有権が移転したことは抗弁(所有権喪失の抗弁)であるから、当事者の主張を要する主要事実となる。

3 したがって、C が A から B への所有権移転の事実を抗弁として主張していない以上、裁判所が証拠調べの結果、このような事実を認めたとしても、これを判決の基礎とすることは弁論主義に反し認められない。よって、裁判所は、C が主張していない A から B への死因贈与があったという事実を認定した上で、 X の請求を棄却することは、弁論主義に反し許されない。

 

【47】 当事者からの主張の要否(2)――代理人による契約締結 (最三小判昭和33・7・8)

1 まず、246条にいう「事項」とは訴訟物のことを指すから、本件において処分権主義違反はない。そこで、代理人による契約締結の事実につき、当事者の主張がなくとも裁判の基礎にすることができるか。弁論主義の第 1テーゼに反しないかが問題となる。

2 斡旋料支払の特約が当事者本人によってなされたか、代理人によってなされたかは、その法律効果に変りはない。

3 したがって、当事者が本人による契約締結を主張している場合に、裁判所が代理人による契約締結の事実認定をしたことは、弁論主義の第 1テーゼに反しないと考える。

 

【48】 当事者からの主張の要否(3)――公序良俗 (最一小判昭和36・4・27)

Law Practice発展問題9 弁論主義(2):一般条項

1 本件で、裁判所が、公序良俗違反(民法 90 条)を理由に XY 間の契約を無効として、X の請求を棄却することは、弁論主義に反し許されないのではないか。

2 そもそも弁論主義とは、判決の基礎をなす事実の確定に必要な事実の主張、証拠 の申出を当事者の権能および責任とする建前をいう。そして、弁論主義が適用されるのは、主要事実に限られるものと解すべきである(。なぜなら、当事者の意思の尊重・不意打ち防止のためには、訴訟の勝敗を決する主要事実について弁論主義の適用を認めれば十分であるし、仮に、間接事実に弁論主義が及ぶものとすれば、裁判所は既に証拠から判明している間接事実を用いることができなくなり、不自然で窮屈な判断を強いられることになり、自由心証主義(247 条)を認めた法の趣旨に反することになるからである。)ところ、公序良俗違反といった規範的要件については、これを基礎付ける具体的事実を主要事実とみて、弁論主義が適用されるものと解すべきである。ただ、この場合、当事者において公序良俗違反の主張をすることまでは要しない。よって、本件でも、当事者が具体的事実を主張していた場合には、当事者が公序良俗違反の主張をしない場合であっても、裁判所が、公序良俗違反を理由に XY 間の契約を無効としても、弁論主義に反するものではない。

3 よって、そのような場合には、裁判所は、公序良俗違反を理由に XY 間の契約を無効として、X の請求を棄却することができる。

 

【49】 当事者からの主張の要否(4)――所有を推認させる事実(大判大正5・12・23)

1 裁判所は、間接事実についても、当事者の主張がなければこれを判決の基礎とすることができないか。

2 そもそも弁論主義とは、判決の基礎をなす事実の確定に必要な事実の主張、証拠 の申出を当事者の権能および責任とする建前をいう。そして、弁論主義が適用されるのは、主要事実に限られるものと解すべきである。なぜなら、当事者の意思の尊重・不意打ち防止のためには、訴訟の勝敗を決する主要事実について弁論主義の適用を認めれば十分であるし、仮に、間接事実に弁論主義が及ぶものとすれば、裁判所は既に証拠から判明している間接事実を用いることができなくなり、不自然で窮屈な判断を強いられることになり、自由心証主義(247 条)を認めた法の趣旨に反することになるからである。

3 よって、裁判所は、当事者の主張がなくともこれを判決の基礎とすることができると考える。

 

【50】 相手方の援用しない自己に不利益な事実の陳述 (最一小判平成9・7・17)

1 当事者の一方が自己に不利益な事実を陳述したが、相手方がこの不利益陳述を援用せず、むしろ争う場合に、裁判所はこの事実陳述をいかに扱うべきか。

2 弁論主義は、訴訟資料の提出に関する裁判所と当事者の役割分担に関する原則である。当事者により事実が提出されれば当事者の責任は尽くされているといえるので、裁判所はいずれの当事者により事実が主張されたかを問わず、その事実を判決の基礎となしうると考える。

3 よって・・・

 

【51】 権利抗弁――留置権(最一小判昭和27・11・27)

1 留置権の抗弁(民法295条)や同時履行の抗弁権(同法533条)、対抗要件の抗弁、検索・催告の抗弁権(同法452条・354条)は、実務では権利抗弁と理解されている。このような抗弁について、抗弁権取得の事実関係が訴訟上主張されたとして、権利者において権利を行使する意思を表明せずに裁判所がこれを掛酌することは許されるか。

2 弁論主義から導かれる主張共通は、裁判所の介入によって真実発見や私法秩序の維持に資する原則である。これに対し、権利抗弁は、抗弁権者のイニシアティブによる選択を優先させる訴訟法の制度といえる。

3 したがって、権利抗弁は、抗弁権取得の事実関係が訴訟上主張されたとしても、権利者において権利を行使する意思を表明しない限り裁判所がこれを掛酌することはできないと考える。

 

【52】 裁判所の釈明権 (最一小判昭和45・6・11)

1 訴えの変更を促す釈明は許容されるか。

2 釈明の制度趣旨は、弁論主義の形式的な適用による不合理を修正し、訴訟関係を明らかにし、できるだけ事案の真相をきわめることによって、当事者間における紛争の真の解決を図ることである。

 そこで、原告の申立てに対応する請求原因として主張された事実関係とこれに基づく法律構成がそれ自体正当ではあるが、証拠資料によって認定される事実関係との間に喰い違いがあって、その請求を認容することができないと判断される場合であってもその訴訟の経過やすでに明らかになった訴訟資料や証拠資料からみて、別個の法律構成に基づく事実関係が主張されるならば原告の請求を認容することができる。

  また、当事者間における紛争の根本的な解決が期待できるにかかわらず、原告においてそのような主張をせず、かつ、そのような主張をしないことが明らかに原告の誤解又は不注意と認められるようなときは、その釈明の内容が別個の請求原因にわたる結果となる場合でも、訴えの変更を促す釈明は許容されると考える。

 そして、釈明の方法は、発問の形式によって具体的な法律構成を示唆してその真意を確かめることが適当である場合もある。